同じ夢ばかりを見て
この作品は、フィクションです。作品に登場する人物名・団体名・その他名称などは架空であり、実在する人物・団体・その他名称などとは一切関係ありません。
混んでいる時は、待たされるし、超深夜のやる気が失われている時間帯は、反応が悪かったりするが、平日早朝の今回は、直ぐに繋がった。
「ご注文をどうぞ。」
セットを注文して、ドリンクをホットコーヒーにでもしようかな、と思っていると、ドライブスルーのモノリスから、
「お飲み物は、コーラでよろしかったですか?」
と聞こえてきて、一瞬、混乱した。
いや、コーラは頼んでいない。いやいや、ドリンクについては、何も発言していない。何だ?どういうことだ?間違えて用意してしまった、余ったコーラを処分しようとしているのか?待て待て。もし、そうだとしたら、いい加減にしろよこのやろう。誰が残飯処理班だ。
「いえ、ホットコーヒーを、ブラックで。注文は以上で。」
「画面の内容で、お間違いないですか?」
「はい。間違いありません。」
「2番窓口までどうぞ。」
ぶおん。
思わず、ふかしてしまった。なんだったんだ。
お金を払い、商品を受け取り、食事を採りながら、会社を目指した。
なんだったんだろう。コーラをすすめられること自体は、変な話ではないか。いや、おかしい。変だ。妙だ。なぜ、あの店員は、ドリンクをコーラと決めつけていたんだ。
こわいこわい。
なんだこの、地味で、異質で、奇妙な怖さは。
誰かが、コーラを頼んだのか?
誰が。
助手席を見る。当然、誰もいない。後部座席をバックミラーで確認する。いない。
「いないよな。」
コーヒーを、ひとすすりする。
見えるようになっているのなら、見える筈だ。聞こえるようになっているのなら、コーラと聞き取れた筈だ。
それともあいつらは、見えないようにできるのか、聞こえないようにできるのか。そんな器用な連中なのか。
いや、ある条件下でなければ、あいつらを感じられないのかも知れない。そういえば、あいつらを見つけたりしていないし、音も聞いていない。それはそれで助かる。いつもかつも見えたりしていたんじゃあ、落ち着いて生活ができやしない。それでいい。
いる、としよう。
いると仮定した上で、心当たりを探る。早朝に、コーラを頼むような奴で、かつ、川島の車に同乗する奴。
「新太郎か?」
ぶぶー!
交差点に響いたクラクションの音が、不正解の音に聞こえた。
携帯を見ていて、信号が青になっていたことに、気づかなかったファミリーカーが、慌てて発進し、その後を、クラクションの主であるトラックが、追いかけるように発進した。川島も、後を追う。
信号をふたつ、みっつ過ぎたあたりで、早朝から、ハイテンションでお送りされているラジオを消した。
車内に聞こえるのは、走行音だけだ。
「じゃあ、お前は、誰なんだ。」
川島の他に、誰もいない車内で、川島は、ハンドルをぎゅっと握りしめ、絞り出すように、尋ねた。
少しの静寂の後、
「ふふっ。」
と女の笑い声が聞こえ、バックミラーに一瞬、影が映った。
後部座席か。
恐怖や驚きではなく、怒りが、川島を塗潰した。
「後部座席ってのは、どういうつもりだ。客のつもりか?」
川島の強い語気で、車内が緊張感に包まれた。いや、緊張感は、ファストフード店を出た頃から、ずっとあった。その緊張感が消えて、種類の違う緊張感に、塗り替えられた。雰囲気が変わった。
責められていることを感じたのか、無言だ。
「なんで、後部座席なんだ?怒るから言ってみろ。」
川島は、信条として、怒らないから言ってみなさい、という台詞を使わない。かつての担任が、やる気がないなら帰れと言って、その通りに帰ったら、怒り出したその担任が、多用していた、怒らないから言ってみなさい、という台詞を、蛇蝎の如く、嫌っている。だから、信条として、使わない。
怒るのは決定している。だが、申し開きがあるのなら、言ってみろ、という、真っ正直なスタンスである。
あの夢の中の女だったとして、女が川島の彼女のつもりならば、なぜ助手席ではなく後部座席なのか。
川島は、そのあたりの拘りも、面倒くさい。彼女なら、彼女のつもりなら、助手席だろう。
気まずい沈黙の時間が流れた。川島は、気まずくないのだから、妙な話なのだが、川島以外、誰も乗っていない筈の車内で、気まずい沈黙が、続いている。
赤信号に捕まった時、川島に察知できるレベルで、気配が消えた。車内の空気が変わった。
「逃げたか。」
再び、カーラジオをオンにしたら、知っている旋律が流れてきた。青春時代、青春と呼んでいい時代があったかどうか疑問だが、青春時代に、よく聞いていた曲だ。そらで歌えるくらい聴いた曲。
サビを口ずさみながら、信号が青になるのを待った。




