消失点
この作品は、フィクションです。作品に登場する人物名・団体名・その他名称などは架空であり、実在する人物・団体・その他名称などとは一切関係ありません。
空腹が、ある時点を境に、消失してしまう現象を、空腹の向こう側、と言ったりはしないか。しないか。同様の事象は、眠気や性欲にも起こらないか。
特に、眠気について言及する。日曜夜の23時頃のテレビ番組がみたくて、睡魔と激闘を交わし、22時台を我慢して乗り越える。結果、番組の終わる23時半頃には、完全に目が覚めてしまっていないか。
何事にも、丁度いいタイミングがある。チャンスを逃せば、元の木阿弥。
川島は、注意深く、暗黒騎士の様子を観察していた。
そして、ここぞとばかりに、子どもの頃によく聞いた台詞の、勇次郎を新太郎に替えて、母親の言い方、発声の拍子、声の調子を真似て、大きな声で、
「新太郎!もう帰るよ!」
ぴたっと、暗黒騎士が止まり、川島の方へ振り向いて、
「うん。」
と言った。
さっと、宇宙船に飛び乗り、新太郎の手を引いて、
「ご苦労さん。もう大丈夫だ。」
サイモンを労って、漁船の面々には、
「俺の服は、また取りに来る。それまで、この制服は借りておく。」
と言い残して、兄と共にコックピットに乗り込んだ。
何かを惜しんで、この機を逃せば、よくない状態、川島の望まぬ状態になるだろう。話の展開としては、そちらの方が、世界にとって都合もよいのだろうが、川島にも川島の都合がある。日常がある。仕事がある。
はじめない。
確かに、幾つか、承服しかねるところ、解決して気を晴らしたい点がある。しかし、損切りだ。
折角の休日。すべてをこの世界に捧げるつもりはない。
「しゅっぱつしんこー!」
新太郎の掛け声で、宇宙船は全速前進、呆気にとられたままのその他小勢を置いて、水平線の彼方へ消失した。




