天空十字剣
この作品は、フィクションです。作品に登場する人物名・団体名・その他名称などは架空であり、実在する人物・団体・その他名称などとは一切関係ありません。
目は口程に物を言う。
サイモンの目から、彼の苦情は十分、川島に伝わっている。
しかし、川島の見立てでは、問題にするレベルの状況ではない。
担当者が立ち会わなければならないが、忙しくて行けないので、代理で行かされる、ということがある。
「向こうには、伝えている。川島君は、立って、写真に入るだけでいいから。」
立っているだけでいい、と言われて行った立会で、立っているだけ済んだことはない。やってきた社員は、急遽の代理で、何も知らない、ということが伝わっているのは、窓口(営業)までだ。末端までは、伝わっていないし、窓口の営業も、いい加減に聞いている。結局は、元請けの社員が、会社の看板を背負ってやってくるのだから、その人に言えばいい、と思っている。なんやかんやと、色々と言ってくる。立っているだけで、済んだ試しはない。
居るだけでいいから、と言われて行った現場で、居るだけで済んだことはないし、座ってるだけでいいから、と言われて参加した会議で、座っているだけで済んだことはない。
結局、社員である以上、何かは求められる。
仕事ができる社員であれば、済んだ試しがない、ということを分かっているので、そういう頼まれごとをされても、断るか、ちゃんと内容を聞き取って、予め用意してから、その場へ向かう。そして、きちんと処理をする。
川島には、それができない。それをしない。
ばかだからだ。
放課後の、合唱コンクールの練習で、生徒がイヤイヤ練習していると、教師がヒステリックに怒り始め、こう言った。
「やる気がないなら帰れ!」
川島は、いの一番に帰ろうとしたが、ふん捕まった。
「何をしている?」
と言うので、
「やる気がないので、帰るんです。」
と返すと、平手打ちをされた。
だから言い返した。
「やる気がないなら帰れと言ったのは、先生じゃないんですか?」
もう一発くらった。
この場合、練習ができるまで帰らせません、だったなら、川島は帰らず、ちゃんと練習に参加したかもしれない。しかし、教育の場において、教師と呼ばれる者が教え子に対し、かまをかけるような言葉を選ぶことを、川島は善しとしなかった。額面通りに受け取った。行間を読むとか、文脈から読み取るなどというものは、恋人や友人という対等な人間関係や、社会に出てからの人間関係で取り交わされるものであって、義務教育において、強い立場にいる教師が、弱い立場の生徒に強いる指導法ではない、というのが、川島の持論である。
謝るのは、先生の方だ、と思っているから、謝罪はしなかった。最後まで、その場に立たされ、他の生徒が全員が帰ってからも、残された。そして、川島にとっては、クソのような理論で、くどくどと説教されてもなお、頭は下げなかった。
その様子を見ていた同級生の鍋島は、スイッチが入った川島は要注意だな、と心にメモした。
川島は、その面倒くさい癖が抜けないのか、
「バイバイする?(引き止めての意)」
と言ってきた彼女に、わかった、と答えてフラれたり、
「居るだけでいいから。」
と言われて行った現場でも、基本的には、何も用意せずに行った。居るだけで済まないのは、経験上、分かっている。仕事が出来る連中のように、予め準備しておけば、効率がいいことも理解している。しかし、居るだけでいい、と言ったのなら、という部分に拘る。社員として行くのだから、しないといけなくなるのは、自分でもわかっているし、子どもみたいに駄々をこねて、何もしないわけにいかないのは、納得している。ただ、一旦は、額面通りに受け取る。面倒くさい性格なのだ。
それに、準備していかなくても、何とかなる。大概のことは、強者が言う、その技は一度見た、というレベルだからだ。
だから、サイモンの苦戦も、結果論から言えば、想定内。思ったより、兄ができる、というだけで、どうしようもないレベルではない。余裕を持って、やり合えているじゃないか。川島から、聞いたこと以上のことが起こっているか?
子どもの遊び程度、と聞いて、どこまで油断していたか知らないが、キレがいいだけで、やっていることは、子どもの遊びだ。川島が言ったことから、逸脱は、していない。
しかしまあ、文句がありそうだから、後で少しだけ聞いてやろう。ガス抜きも、現場監督の仕事のひとつだ。いや、上司の仕事か。
「とああああ!」
暗黒騎士が、空高く跳びあがった。
「いやいや。それは、正義の味方の必殺技だろう。兄ちゃん。」
まさか、天空十字剣を出すとは、思わなかった。悪役好きが、正義の味方の技に頼った。
「宴も酣ではございますが、かな。」




