白羽の矢
この作品は、フィクションです。作品に登場する人物名・団体名・その他名称などは架空であり、実在する人物・団体・その他名称などとは一切関係ありません。
かいつまんで言うと、叔父は、再び暗黒騎士の宇宙船を作り、暗黒騎士のコスチュームも作った。それに喜んだ兄が、暗黒騎士になり、宇宙船に乗って、遊びに出かけていった、つまりこの地を去ったというのだ。
そして、四十年近く経って、再び舞い戻ってきた。
「蘇った、というのは、言葉のあやか?」
川島の問いに、老人がわずかに首を振り、
「いや、少し事情がある。」
と言葉を濁した。
事情ね、と老人の様子を見て、この場では、それ以上の追及をしなかった。後回しにしただけで、放免したわけではない。
それにしても、前回は、叔父が来ていたのか。定職に就かず、放浪癖のある叔父だから、しばらくいなくなっていても、誰も不思議に思わなかったのだろう。
その四十年の間に、ときどき、家に帰ってきていたのかも知れない。じゃあもう、あの足音は、兄でいい。
叔父の方針に倣えば、遊び疲れさせて、おうちに帰る、と言わせるように仕向けなければならない。つまり、暗黒騎士の敵役が必要だ。いや、そもそも暗黒騎士が番組としては、敵役だったのだから、味方役が要る、ということか。
暗黒騎士は、主人公のライバルだった。どちらも、武器は剣を使う。
「剣か。」
自然と、サイモンを川島は見た。
ここに居るのは、漁業組合の組合長、船を出してくれる漁師のハンス、警護を仰せつかったおまわりのサイモンとハンス、いやハリス、魔術師の老人、領主の息子だ。順繰りに見て行った。頭の中で、まるばつさんかくを付けながら。
やっぱ、サイモンかな、とサイモンを見た。
「なんですか?」
二度も見られると、流石に、勘づく。
兄の剣技が、子どものごっこ遊びの域を出ないのであれば、都の訓練所で一番、という鳴り物入りのサイモンで、十分間に合う、と踏んだ。
「幽鬼王と立ち会ってほしい。向こうが疲れるまででいい。」
「なぜ、私が?」
消去法だ、とは言わず、
「都の訓練所で、一番なのだろう?」
と煽った。
「いくらサイモンでも、幽鬼王相手では…。」
ハリスが口を挟んだ。
「大丈夫だ。向こうの剣技は、子どもの遊び程度だ。」
「なぜわかるのですか?」
「子どもだからだ。サイモンも、俺と幽鬼王の会話を聞いただろう?」
「確かに…。」
と納得しかけて、
「しかし、それなら、誰でもいいのでは?」
妹家族が実家に遊びに来ると、おじいちゃんおばあちゃんと共に、おじちゃんも、へとへとになる。まだ遊ぶ、まだ遊ぶ、と言ってきかない。エンドレス高い高いに、ひとり、またひとりと、家族が倒れてゆく。最後の砦となる川島は、腕がパンパンになるまで持ち上げて、勘弁してくれ、と悲鳴を上げる。それでもなお、ねだってくる。
子どもの成長は、早い。少し見ない間に、大きくなり、重くなる。遊びに来るのが分かっている日の前日は、絶対に筋トレをしない。
「子どもだから、スタミナが無尽蔵だ。適度に手加減をして、スタミナを温存しながら、となると、サイモンしかいないだろう。」
ハリスも、その通りだ、と言った。サイモンが断れば、次は自分に指名がくる、と察知したのだろう。
サイモンは、観念した。短い間に、川島のスタイルを知り、抵抗は無駄だと、結論付けた。
「わかりましたよ。それで、幽鬼王が疲れ果てたら、どうするんです?」
「俺が、家へ連れて帰る。」
はっきりと、宣言した。




