枯れ木も山の賑わい
この作品は、フィクションです。作品に登場する人物名・団体名・その他名称などは架空であり、実在する人物・団体・その他名称などとは一切関係ありません。
「場違いだな。」
川島は、思わずそう感想を洩らした。
現状は、川島の予想とは違った。川島は、老人の秘密基地のようなところへ連れていかれて、弟子なのか従者なのかよくわからない若者と3人で、一体、何の助けを必要としているのか、幽鬼王とは何か、何故、川島なのか、その他諸々について、忌憚なく意見交換をして、折り合わせた上で、その発生している問題であるところの幽鬼王というものを、どう処するのか、という、現場の打合せを想像していた。
そこそこ大きな工事の、JVでも組むような規模の現場事務所で、よく隣室に配置される打合せ室あたりで開かれる、ちょっとこみいった話し合い、程度を想像していた。
それがどうだろう。どこかのホテル、それはもうビジネスホテルなんかではなくて、結婚式とかやっていそうなクラスのホテルだ。2階の鳳凰の間、なんて呼ばれていそうな、立派な会場に通されていた。いや、鳳凰の間は言い過ぎか。第三セクターか公共施設の、第2会議室…よりは、少し上か。鳳凰の間と第2会議室の間くらいだ。なんにせよ、ジャージ姿が相応しいとは言えない場所だ。
領主様のお屋敷の、謁見の間とでもいうのか、広い部屋に、川島は、立っている。
隣には、老人。あの若者は、奥にある玉座、玉座は王様か?じゃああの椅子は何というのだ。どっちにしても、うちの社長の椅子の方がふかふかだろうな。いやいや、そうじゃなくて、そう、あの若者は、奥の立派な椅子の傍らに立っている。
そして、両サイドには、警備兵、この場合は、近衛兵か?おまわりとは制服の癖が違うから、領主様とやらの私兵か。いや、おまわりも領主が雇い主なのか。どっちでもいいが。いやいや、そうじゃなくて、両サイドには、近衛兵が数名、並んで立っている。おまわりよりは、礼儀がわかっていそうな雰囲気はある。
さて、このお白洲に、遠山左衛門尉景元様は、いつお成りあそばされるのか。
などと呑気に待っていると、俄かにざわつき始めた。
枯れ木のような、という表現がぴったりくる。枯れ木が立派な服を着ている。しかし、ちゃんと使用感があるというか、実用感があるというか、コスプレ特有の現実的じゃない感は、ない。いやまあ、これがコスプレだったらだたの大掛かりなドッキリなわけだが。サラリーマンのおっさんをこんな大掛かりなドッキリを仕掛ける理由は、川島には想像できない。だから、ドッキリではない、と判断している。
枯れ木のような、立派な服を着た枯れ木のような男が、椅子に座り、何やら一通りのマニュアル化された儀礼というか、段取りが終わると、老人が前に進み出て、領主に、こそこそと耳打ちをした。
老人は、川島を手招きした。
「近う寄れ、か。」
少し笑って、進み出る。
茶番だ。川島が抱いた感想は、茶番だった。裸の王様とでも言おうか。似合わない立派な服、あれは権威のアピールだ。
格式の高い、謁見の作法のようなことをしているが、この文明の感じで、この町の感じで、この屋敷の感じで、それは、過度に行儀が良すぎる。似合っていない。もっと言うと、虚勢にしか見えない。大げさすぎる。偏見を疑わないほどに、無理をしている、させているように見える。
そうありたいものと、現実とが、乖離している。
他人を蹴落として上に上がり、それ以上、上はない、という位にまで上がった男が居た。そうやって上がった男の下には、蹴落としてきた奴らしかいない。誰も、言うことを聞かない。自分を蹴落としていった男の言うことを聞く奴はいない。男は、役職にしがみついた。男には、役職しか残っていない。失うわけには、いかなかった。役職が人を育てるというが、男にとっての役職は、ゴールだった。ゴールすれば終わりだ。ゲームオーバー。その先はない。
この領主様は、そいつに似ている。川島に、お前の代わりはいくらでもいる、と言ったその男に。
領主は、川島に、えらく勿体をつけて、
「幽鬼王を、始末すれば、元の世界に帰らせてやろう。」
と言った。
思わず、視線だけ、老人に向けた。
老人は、伏し目がちに、黙っていた。




