説教
この作品は、フィクションです。作品に登場する人物名・団体名・その他名称などは架空であり、実在する人物・団体・その他名称などとは一切関係ありません。
川島は、理詰めではなく、どちらかといえば、どんぶり勘定で仕事をするタイプだ。大枠を決めておいて、その枠を逸脱したり、小賢しいことでもない限り、ええようにやっておいて、という指示を多用する。そして、問題が起きれば、その急所にフォーカスして、解決する。
先攻のトラブルバスターが、トラブルの先読みに長けているように、後攻のトラブルバスターとしてキャスティングされることが多い川島は、その場しのぎに長けている。だから、前もって、綿密に計画することは、苦手だ。必要に迫られない限り、やりたくはない。
トラブル処理をしていくうちに、どのようなトラブルが起こるのか、前もってわかるようになる。なのに、その予防線をきっちりと張らない。解決方法が分かっているだけに、そのトラブルが起こったら、こうすればいいわ、と呑気に構えている。強者でいうところの、その技は一度見た、という奴だ。一度、見破ったトラブルに、いちいち構いたくないのだ。
偉くなる奴は、比較的、先攻タイプが多い。川島の会社も例に洩れず、そうだ。その面々からすれば、川島が、何度も同じパンチを食らっている、パンチドランカーのように見える。つまり、会社の評価基準からすれば、川島の評価は低い。なかなか出世できない一因でもある。
しかし、トラブルを解決してきた実績がある。そこを認めている一部の上層部に、言葉は悪いが、いいように使われている。
川島が若い頃、上司に理詰めで追い込まれたことがある。なぜ、前もって対処しないのか、答えに困窮してもなお、なぜ、なぜ、なぜ、と詰められ、心が病むような性質ではなかったが、少し凹んだ。たとえば、失恋や身内の不幸とか、心の居所がぐしゃぐしゃになった状態では、仕事には、身が入らない。ふわふわと仕事をするから、ミスも多く、成果を出せない時期が続いた。
今では、そういう上司の追い込みも、右から左へ躱せるようになったが、当時は、ずっと陰鬱に過ごしていた。やがて、その上司がどこかへ異動すると、解放された川島は、水を得た魚のように、また泳ぎ始めた。あのままだったら、どこかで自由を求めて、違う場所へ行ったかもしれない、と川島は、後述する。相手が居なくならないのなら、こっちが居なくなればいい。それは、場所を変えればすむ話だ。先に、相手が居なくなったから、川島が残っているだけだ。
理詰めとどんぶり勘定は、水と油だ。じゃんけんで例えるなら、理詰めはチョキで、どんぶり勘定は、パーだ。理詰めの方が強い。川島は、経験上、よくわかっている。
この文明の感じで、粗暴とまでは言わないが、この面々から察するに、おそらく育成方法は、強い言葉や拳骨による叩き上げだろう。口よりも手が出る。見て覚えろ、だとか、技は盗むもの、だとか。川島は、自らも、割とそうやって鍛えられたくちだから、よくわかっている。
叱る時は、怒鳴りつけるよりも、理詰めの方がよっぽど効く、と。
町のおまわりさんは、全員凹んで、うなだれてしまった。
もう日は高い。そういえば、朝飯も食べていない。川島のお腹が、ぐぅ、と鳴った。




