キャッチアンドリリース
この作品は、フィクションです。作品に登場する人物名・団体名・その他名称などは架空であり、実在する人物・団体・その他名称などとは一切関係ありません。
生命が脅かされていても、生命が奪われるという事実に気づくその最後の瞬間まで、どこかで自分は死なない、という気持ちがあって、その上で損得、利害を計算して行動する。客観的には、とても愚かだ。その言動が、行為が、死へ続く一本道だというのに、本人は、主観としてそれを認識できていない。
その行動がもたらすものが、どんなに破滅的なものか、どれほど深刻な事態を招くのか。当事者は、理解はしていても、自覚はしていない。冷静に考えればわかることでも、自分はそうではないと棚に上げ、手遅れにならないとわからない。醜聞で燃えて消えていく有名人たちは、それでも中には不死鳥のように蘇るものたちもいるが、力なきものや、潜在的に嫌われていたものたちは、戻っては来れない。
さて、幽鬼というくらいだから、死者なのだろう。
一度、死を経験していて、こうしてまた、存在の存亡にかかわる状態に陥ったことに対し、あまりにも無防備ではなかったか、と自省できているのか。これらには、意識があるのか。記憶はあるのか。感情はあるのか。まさか、一度死んでいるから、もう死なないとでも思っていたのだろうか。
意識、魂とでも呼ぼうか。魂があるなら、思っていただろうな。
青白い。あいつは、灰色だった。
色は、個体差なのか、種別なのか、等級なのか。あいつを掴んだ時より、身体に来る痺れというか、電気信号というか、ビリビリ感は、微弱だ。ならば、暫定的に、等級ということにしよう。こいつは、青白帯。あいつは、灰帯。
じたばたしている。
灰帯が逃げられなかったのだから、こいつが逃げられるわけない。
「カワシマ殿、それ…は…もしかして…。」
頷く。
「町へ持って帰るのは、有りだろうか?」
ハリスがゾッとした表情を浮かべて、断固拒絶した。
「ダ、ダメですよ!!!」
「無し、でしょうね。」
サイモンは、剣を鞘に納めた。
「しかし、捨てて帰るわけにもいかないよな?」
捨て猫を拾ってきた子どもと両親、という図式になったが、ネコではなく、幽鬼だから、しょうがない、という結論を、おまわりさんとしては、出せない。
「そうかそうか。じゃあ、いったん、持って帰って、あのじーさんに見てもらって、で、判断しよう。ダメだったから、また森に持ってきてかえせばいいじゃないか。」
森に引き返すつもりは毛頭ないが、何か案を出さないと、この手合いは、結論を出さない。
質疑書を出す相手の技量にもよるが、問題点を提示して、解決策を相手に全面的に委ねると、なかなか回答は返ってこない。質疑の提出先が、監理でもないかぎり、だいたい専門家ではない。そういう相手に、指示を仰ぐだけでは、回答が止まってしまう。それは、とても不親切なのだ。問題点は明確だが、解決方法が漠然としたままでは、回答できない。だから、解決策を複数案、2案か3案を提案する。案があれば、判断がしやすい。回答が早く帰ってくる。
今回、出した案は、1案だが、先方は、乗ってきた。
「わかりました。そのかわり、絶対に離さないでくださいよ!」




