飴玉一つ
この作品は、フィクションです。作品に登場する人物名・団体名・その他名称などは架空であり、実在する人物・団体・その他名称などとは一切関係ありません。
サイモンに言われた、離さないでください、という言葉で、フラッシュバックした。
「離さないって言ったじゃん!」
泣きながら攻められた。ケンカの果てに、結局は、こっちがフラれたわけだが。しかし、何も言い返せなかった。エモーショナルというか、ノスタルジーというか。思い出の中に意識がぼんやりしているうちに、森の出口近くまで来ていた。
「ん。」
薄々感づいてはいたが、森から離れようとするのがわかる地点から、森の方へ青白いのが引っ張られている感覚があった。出口にきて、それはより顕著な力となった。しかし、
「えい!」
雑草を引っこ抜くくらいの力加減で、その根を絶った。一瞬、青白いのが、何と表現したものか、近い表現だと、波立った。そこから、森を離れるにつれて、青白いのが弱っていくのがわかった。枯れていくというか、色もどんどん青みが消えて、もともとぼんやりしていた輪郭が、さらに暈しが入っていく。手から伝わる感触も弱弱しい。
灰色には、なかった感触だ。
橋を渡るころには、すっかり面影が無くなって、小さなもやのようになってしまっていた。
「せっかく持って帰ってきたのに。」
「森には、戻りませんよ。」
きっぱりと先手を打たれた。
「もうこいつ、離すぞ。」
一応、確認を取った。
「ダメです。」
川島は、飴を最後までなめられない。飴をなめると、小さくなる。飴をなめると、どんどん小さくなって、やがてなくなる。しかし、なくなってしまうくらいとても小さくなった飴を、そのままなくなってしまうまで、川島は待てない。噛み潰して、のみ込んでしまう。
だから、小さなもやを合掌で圧し潰した。そうすると、消え失せてしまった。
「これならいいだろう?」
川島は、飴がまだ原形をとどめている段階でも、噛み潰すことがある。青白いのでも、それが可能なのか、試したくなったが、ハリスを見ても、サイモンを見ても、とても森に戻ってくれそうにない。ひとりで行こうとしたら、たちまち羽交い絞めにされて、町に連行されるのだろう。
川島は、ため息をついて、
「何をしに行ったのか、これじゃわからんな。」
「私たちは、お伴するよう、言われただけですから。」
「あの男の通行手形を探しに行ったんじゃなかったっけ。まだ見つかってないよな。」
「幽鬼を見に行きたいだけでしたよね。あの者の通行手形は、あの者の責任です。我々が探す必要はありません。」
誤魔化せない。
川島をひとりで森へ戻らせないように、サイモンは、隙を見せない。
「早く町の中に入りましょうよ。」
ハリスが急かす。
「わかったよ。」
結局、川島は手ぶらで町の中に入った。




