なんだネコか
この作品は、フィクションです。作品に登場する人物名・団体名・その他名称などは架空であり、実在する人物・団体・その他名称などとは一切関係ありません。
結論から言えば、ネコだった。
森にネコがいるのか、と思ったが、そりゃまあ、いるよな、と思い直した。
見慣れた日常からは、かけ離れたところだから、非日常的な、何か珍しいものが見れるのではないか、と期待していた。タヌキは、里によく下りてくるようになったから、よく見かける。ハクビシン、テンもよく見る。サル、イノシシ、シカ、クマ。このあたりの出没は、よく夕方のニュースのネタになるくらいには出てくる。だが、ニュースになる程度には、まだ珍しい。しかし川島個人は、見かけたことがないから、出たら、ちょっとテンションが上がっただろう。
日本のオオカミは、絶滅したから、オオカミだと、かなりテンションが上がったかもしれない。
リスクは承知だが、珍しいものを見るとやはり、少しテンションは上がる。だが、もしトラが出てきたら、物珍しさのテンションよりも、危険だ、と緊張が高まるだろう。オオカミやクマも危険なのだが、オオカミは大きな犬だな、と思ってみてしまうだろうし、クマも、トラよりは遥かに身近な分、何とかなるのでは、という傲りがある。だがトラは、テレビ画面などを通して、捕食姿を見ることが多々ある。危険な肉食動物だ、と刷り込まれている。流石に、トラは、怖いが勝つ。
さあ、いったい何が出てくるのか、と身構えていた。
それが、ネコだ。
ネコは、日常的によく見かける。なんなら川島は、ブン太と名付けた白い猫を飼っていたこともある。生活圏に密着している動物だから、川島にとって、非日常的な場所である森の中に、ネコがいることは、違和感でしかない。犬なら、かつて子どものころ、野犬から同級生を守る為に、釣り竿を振り回して大暴れして追い返した時に、裏山に逃げていった記憶があるから、まあ森に居てもおかしくはないか、という認識だ。だがネコは、野良猫は、確かにあちこちでは見るが、ネコが山や森にいるイメージを、川島個人としては持っていなかった。しかし、冷静に考えれば、居てもおかしくはない。
がさがさと茂みから出てきたのは、ネコだった。
もしかしたら、こっちでしか見られないような、珍しい動物を拝めるかもしれない、と思ったところに、人生で最も見たことのある動物の1種、ネコだったものだから、拍子抜けした。
何事も、構えている時は、大丈夫なものだ。台風対策の例のごとく。
生命を脅かされるような相手ではないから、ホッとしたハリスが口走った。
「なんだ、ネコか。」
おいおい、その台詞は危険じゃないのか。いやまさか、まさかだ。現実にそんなお約束が成立するわけがない。成立するわけがないのだ。
川島が、社用車のバンで、片側一車線の市道を走っていると、路肩に、歩道がないから路側帯か、とにかく左に寄せた車が1台、ハザードを焚いて停まっていた。追い越そうと対向車確認、前後確認を息を吸って吐くくらい自然にこなしていると、止まっている車の向こうから、ボールが跳ねて出てきた。教習所の教科書に載っていたり、免許更新で違反者が見せられるビデオの、危ない瞬間の事例そのまんまの出来事が起きた。まさかこの後、子どもが飛び出してくるのか?とブレーキを踏むと、本当に子どもがボールを追いかけて出てきた。まさか、そのまんまのことが、現実でも起こるのか。
まさか、と思った。しかし、それは兆しだったのかも知れない。あえての兆し。川島への知らせ。
特に、ホラー映画で、中でもスプラッター映画で、この台詞をつぶやくと、その直後、呟いた本人は襲われる。ホラー映画をよく知る川島への知らせ。
川島がいなければ、ハリスは襲われてしまっていただろう。
だが、川島が居た。そして、川島は、それが現れた瞬間に、それを察知していた。
「突然、現れたりもできるのか。」
川島は、幽鬼を捕まえていた。




