渋滞
この作品は、フィクションです。作品に登場する人物名・団体名・その他名称などは架空であり、実在する人物・団体・その他名称などとは一切関係ありません。
川島は、町へ入る検問の列に加わった。隊商の一団の後ろ、最後尾につけた。
手持ち無沙汰だったので、ポケットに手を突っ込んで、自分の順番が来るのを待った。ちらちら、と物珍しいものを見るように、商人らしき男が何度か振り返ってきたが、視線が合うたびに顔を背ける。失礼な男だ。あと3回目が合ったら、何の用か聞いてやろう。じっと見ていると、もう振り返らなくなった。
少しずつ、ゆっくりと列は進む。城壁の門がよく見えるところまできた。約束があるのだから、もしかしたら行列に並ぶ必要は、なかったんじゃないのか、と考えたが、もうここまで並んでしまったのだ。待っていよう、と思っていると、ある男が門番と揉め出した。
ETCレーンをくぐろうと思ったら、前の車がカードを挿入していなくて、止められる。それに巻き込まれたようなもんだろうか。まあいいさ、待つのは慣れている。
やんややんやと騒いでいる。一向に収まる気配がない。
思っていたより時間がかかっている。これくらいで終わるだろうという、根拠のない想定だが、想定よりも時間がかかっている。後ろにも、何組か並んでいて、日が傾き始めたこともあり、今日中に入れるのか、などと言い合って、少し焦っているようだ。
少し、列を離れて、どんな按配なんだろうと、騒ぎが見やすい位置に移動した。
そこを、門の近くにいた老人に発見された。川島も、老人を視界に捉えた。
小人じゃないのか。
老人は、隣にいる背の高い若者に何か言いつけた。言いつけられた若者は、老人に指差された川島を見付け、小走りで川島のところまでやってきた。
意外に、意外というのもおかしな話だが、美形だった。背が高く、シュッとした美形。小癪だ。
「お待ちしておりましたカワシマ殿。どうぞこちらへ。」
美形を使って、川島は、行列をごぼう抜きして行った。
途中、揉めていた男が、川島を見て、なんであいつが入れるんだ、と喚いた。大人なので、いい年齢の大人なので、捨て置いてもよかったが、川島は、まだ丸くなっていなかった。いや、流石に、年齢的にも、もう丸くなりかけてはいたのだが、言い方に、少し引っ掛かった。ハッキリ言えば、カチンときた。文句を言われたままでは、気持ちが悪い。言い返しておこう。
男の元へ引き返し、
「なんでお前は入れないんだ?」
と詰め寄った。そして、
「なんでこいつは、入れないんだ?」
と門番に尋ねた。
「カワシマ殿…」
いいから、と美形の二の句を遮って、門番に答えるよう、促した。
門番は、後ろの美形を一瞥した後、
「この者は、通行手形を持っておりませんでしたので。」
外見なんかで判断するのは如何なものか、とはいうものの、ここに来たのはついさっきのことだが、この文明の感じで、この見た目の門番が、見ず知らずの、おそらくこの辺ではよくわからない格好(ジャージ上下)をした男に、敬語を使うとは思えない。背後の美形は、この町では、それなりの立場の男なのだろう。
「だから、落としたんだって!」
男は、悲痛な叫びを上げている。当人としては、そうなんだろう。だが、入場許可証をなくした奴を簡単に受け入れると、管理に綻びが生まれる。
川島は、新見の尻拭いをした、ある現場を思い出していた。




