送迎
この作品は、フィクションです。作品に登場する人物名・団体名・その他名称などは架空であり、実在する人物・団体・その他名称などとは一切関係ありません。
例えば、目当ての定食屋の駐車場は、台数が限られていて、すぐに満車になる。だから、近くのスーパーに駐車して、定食屋に飯を食いに行く。その行為で、良心の呵責に苛まれる小心者の善人は、そのスーパーで、何か買い物をするだろう。
川島は、駐車場がいっぱいだったら、諦める。
そういうことが嫌いな大人なのだ。
だから、トンネルの近くの少し開けた場所に、車をとめたままには、できない。トンネルを見ている間くらいは、置いておけるが、それ以上は、無理だ。ほとんど誰もこない場所だから、誰かに迷惑をかけるということは、ほぼないだろうが、そういう問題じゃない。自分の行いは、誰かが見ているかどうかじゃない、自分の行いは、自分が見ている。
トンネルは、歩いて行ける距離じゃない。極端な話をすれば、地続きなのだから、歩いていくことはできる。ただ、現実的に、歩いていくような距離じゃない。公共交通機関を使ったとして、最寄り駅からも、最寄りのバス停からも、遠い。頑張れば、歩けないこともない距離だが、そこまでの労力を費やす場面ではない。
誰かに送り迎えを頼むとする。事情と関係性から挙がる候補は、母親、妹、そして絵島だ。母親と妹は巻き込みたくない。絵島は巻き込んでもいいのか。他人を巻き込んではいけないだろう。しかし、絵島は、もう巻き込んでもいい。
絵島に連絡して、家の近くのコンビニまで迎えに来てもらった。
道中、少し楽しそうな絵島に、釘を刺した。
「木村建設の専務から電話あったよ。言い触らしすぎでしょう。」
絵島は、あちゃー、という顔をしただけで、すぐに上機嫌に戻って、運転を続けた。やがて、目的地に着くと、川島は、車を降りた。
「ありがとう。帰りは、また電話するけど、タイミングが合わなかったら、最悪、駅まで歩いて帰る。」
「いや、必ず迎えに来る。」
と言って、絵島は川島を見送った。




