陰陽師、川島
この作品は、フィクションです。作品に登場する人物名・団体名・その他名称などは架空であり、実在する人物・団体・その他名称などとは一切関係ありません。
「このことは、口外しないように。」
スカルノは、素直に頷いた。
絵島も頷いて、
「わかったよ。」
と答えた。
わかっていなかった。
絵島は、その硬派な見た目に反し、おしゃべりだ。確かに、墓場まで持っていく、という位の秘密は守るが、そうでないような秘密の扱いはぞんざいで、口が軽い。3日後には、退職して隠居生活を送っている宮田から、川島に電話がかかってきた。
「お前、陰陽師なんだって?」
「違います。」
どこでどう話が変わっていったのか。
それはさておき、と宮田は、本題である、グループ内の人事について、耳に入ってきた話を始めた。それは、いつものグループ内政争を面白がる、酒の肴になる話だった。どの派閥にも属していない、遊軍的な立ち位置の、宮田一家だとか宮田班と呼ばれていた、グループ内の一派だったからこそ、ああでもない、こうでもないと、傍観者として面白がっていられる。それはつまり、出世コースから外れているからこその、面白がりだった。
宮田班には、実力者が揃っていた。それぞれが、数字に表れる表れないに限らず、グループへの貢献度が高い。つまりは、稼ぎ頭だった。宮田は、俺が俺がと前に出ていかない。それぞれの顔を立ててうまくやっていた。その宮田班の末席に、かつて川島は、名を連ねていた。残党となった今でも、平社員だというのに、川島の耳には、様々な情報が入ってくる。
どうやら、この話はなかなか遠いところまで広がりそうだ。
宮田の耳に入っているということは、かつての宮田班の耳にも入っているということ。隠居生活で暇を持て余している宮田が、面白がって広めている姿が、容易に想像がつく。絵島も、この現場が終わったら、あちこちの行く先々の現場で、この話を飽きるまで広め続けるだろう。
まあいいさ。この手の話は、眉唾もの。本気で信じる奴なんて、いるわけがない。
川島は知らなかった。世の中には、そういうことを本気で信じてしまう、いや、藁にもすがる思いでいる、困り果てた現場の当事者たちがいることを、知らなかった。




