深酒
この作品は、フィクションです。作品に登場する人物名・団体名・その他名称などは架空であり、実在する人物・団体・その他名称などとは一切関係ありません。
酔った。
川島は、酔うと眠たくなる。今、眠たくなっている。眠いということは、酔っているということだ。この1杯でやめるか、もう1杯頼むのか。もう1軒、行こうと思っている。ならば、この1杯でやめた方がいいのか。
ガス抜きで、飲みに出た。最初にケチがついた現場は、最後までケチがつく。川島は、ケチがついているな、と判断すると、地元の神社を詣でる。気持ちを改めて、現場に臨む儀式としている。
その神社は、地図には載っていない。
川島の父は、いわゆるマスオさんだ。妻の実家に一緒に住んでいるが、養子には入っていない。川島の実家とは、母の旧姓、藤田の家である。実家は、両手で数えられる程度の家々からなる、小さな集落にある。そこにある家はすべて、藤田姓で、かつては侍であったという。実家から見える山に、大昔にお城があって、その城に勤めていたという。
藤田一族が、裏山に建てた小さな社では、荒神さまを祀っている。いつ祀ったのか、祖父が言うには、豊臣秀吉の四国平定の頃らしい。その神社には、藤田一族しか参らない。
この日は、仕事を早く上がった。休日出勤だったから、家に直帰した。だが、家に帰って直ぐに出たのでは、飲みに出るような時間にはならない。ちょうど神社に参るだけの時間が空いていた。
だから、その神社に参ってから、飲みに出た。
グラスを傾けて、丸氷が、ウィスキーにじんわり溶けていくのを眺めながら、もう1軒行こう、と決意を固めた。
心地よい眠気にゆだねて、しかし眠りに就かないように、まどろみながら、次の店への行程を想像していた。
まず、指で作ったバッテン印をバーテンダーに見せて、お会計をして、本気で帰る気ですか?と伝票を渡されて、俺は本気だ、のくだりをやって、見送られて店を出る。向かいにあるパーキングを、ごめんなすってしながら通り抜け、歩道を左に、3軒目の古い古いビルに入る。奥のエレベーターで、上りのボタンを押して、エレベーターを待ち…
「よぉ。」
呼びかけられて振り返ると、ビルの階段に、何人かのオトコたちが居た。
「え。」
目が覚めた。今、想像の中のオトコに話しかけられた。夢か、それにしてはハッキリ聞こえた。だが、夢だろう。川島はまだ、バーにいる。
今のはなんだったんだ。次の店には、行かない方がいいのか。いや、悪いイメージはなかった。あれは、あの雰囲気は、よく知っている。
大きく、深刻なトラブルに見舞われた現場で、それを解決する為の本当の会議。実際に動く者たちが集まり、解決を主題とする、最前線の会議。四の五の言っていられない、とにかく解決しなければならない。どういう方法で解決するのか、具体的な案を持ち寄り、本気でぶつけ合い、ブラッシュアップし、方針を固める。それでいこう。俺たちがやるしかない。仕方ない、誰もいない、俺たちが解決するしかない。オトコたちが腹を括った、あの独特の雰囲気。
それに似た雰囲気を、纏っていたような気がした。
その雰囲気に触れたからか、川島は目が覚めた。そして思い出した。ガス抜きもいい。愚痴を並べて、くだを巻くのもいい。だが、そうなんだ、仕事の悩みは、仕事でしか解決しない。
俺がやるしかない。
残っていたウィスキーを一気に飲み干した。




