評価基準
この作品は、フィクションです。作品に登場する人物名・団体名・その他名称などは架空であり、実在する人物・団体・その他名称などとは一切関係ありません。
「そういや観たよ。すすめてくれたアニメ。」
「なんですか急に。」
「いや、思い出したから。」
「話を戻す気ゼロじゃないですか。」
「そんなこと言ったって、しょうがないじゃないか。」
諦めた。これ以上の抵抗は無駄だ。
サブスクリプションの動画配信サービス(有料)に入会し、気になるものを観れるだけみた後、観るものが見当たらなくなって、そのまま放置していたのだが、これではもったいないと退会を決意。しかし、退会する前に、最後のお浚いというか、そういうニュアンスで再び観始めていて、さあ、何かないものか、とオススメを聞いて回っていたのだ。
「どうでしたか?」
「観れなくもなかった。」
ダメだったみたいだ。
「あれ、面白いと思ってすすめたのか?」
「話題の新作でしたし、評価も高かったので、」
ん?
「まさか、観てないものをすすめたのか?」
「そうですね。そのサブスク、僕は入っていないので、」
「えー!」
「言いましたよね。僕は入っていないからわからないって!」
「そうだっけ。」
「そうですよ。」
ふたりとも複雑な表情を浮かべて、それぞれが別々の甘そうなコーヒーを啜った。
「どこがダメだったんですか?」
「ダメというか…」
強く批判するほどではない、という。
だが、案の定、始まった。
まず、そのアニメは、『冒険者パーティーを追い出された』というよくある設定だった。
「追い出された経緯と理由に対し、少し納得がいかない。」
おそらく、いや、確実に、少しではない。
「俺の経験則によるものだから、異論は認めるのだがな、」
認めるものの、受け容れはしない。そういう男だ。
「実力不足だからクビだ!とおっしゃるわけだ。」
「ああ、そういうパターンなんですね。」
「で、しばらく観ててな、」
「はい。」
「パーティーがメンバーである主人公を実力不足だと判断した経緯と、主人公離脱後のパーティーの働きがな、はてなはてななんだ。」
「はてなはてなですか。」
「隣の芝生は青く見えるって奴なのかな。他者と比較して明らかに実力が劣っているから、これから先、自分たちが上に行く為には、切り捨てるしかない、と言っているんだ。」
「はい。」
「でも、その主人公、めちゃめちゃすげーんだわ。」
「そうでしょうね。大体、追い出され系は、古巣に対して、ざまぁみろパターンなので。」
「それはいいんだが、」
それはいいんだ。
「主人公を追い出した後のパーティー側が総崩れを起こすんだ。」
「胸がスカッとする展開じゃないですか。」
「まあそれはいいんだが、」
よくないのだろうけど、
「追い出す側の連中が、定量化による評価をしているんだ。」
「はい?」
「わが社の人事考課ではな、社員を査定する場合、資格をいくつ持っているとか、売り上げがいくらだったとか、数値としてわかりやすくしないと、上の人間は評価の判断材料として見てくれないんだよ。」
「あ、はい。」
「あの子はすげー頑張っているとか、あの人じゃないとあの現場はおさまらないとか、そういう数値化できない、定量化が難しい評価基準は、上に上がっていけばいくほど、なかなか認められないんだ。」
「なんとなくわかります。」
「だから、若手には、資格を取れ、と言っている。仕事がいくらできても、それは定量化が難しい。資格を取った方が分かりやすいから、評価されるぞ、と助言している。」
「そうなんですね。」
「上層部や第三者には、定量化して評価の基準をわかりやすくしてあげないと、親切ではない。」
何の話だ?
「だがな、現場レベルではな、肌で感じ取れるんだよ。」
「何をですか?」
「その人ができるかできないかを、だ。」
「あー、そういうことですか。」
「前線である現場で、それも長年同じ作業班で従事していたメンバーの貢献度を、感覚的にも掴めていないってのは、致命的すぎる。いるよ、そういう奴。でもチームのほぼ全員がそうってのは、少しおかしい。」
「は、はあ。」
「排除が、上層部や第三者による誤った判断ならわかる。だがそうじゃない。」
あ、ヒートアップしてきた。
「人間関係によるものならわかるよ。虐めだとか嫉妬だとか差別だとか、そういう人間関係によって排除するというのは、わかる。でもそうじゃない。」
「そうですね。」
「同じチーム内で、定量化による評価の排除だった場合、その評価は絶対的に正しい判断でなければならない。なんで追い出した側がめちゃめちゃ崩れるんだよ!」
「はい、はい。」
「相性というものがあるし、適材適所というものがある。追い出された後の主人公が大活躍する理由がそこならわかる。でも主人公はちゃんと機能していたんだ!なんで追い出したんだ!バカなのか?バカなんだろうな!追い出した理由が理由になってないんだからな!」
「少しも納得していないじゃないですか!」
「うん。そうだな。熱くなった。パフェでも食べて少し冷やそう。」
メニュー表を手に取る。
「川島さん。」
「何かね中務君。」
「会社の人事で、何か腹の立つことでもあったんですか?」
「うん。」
社外秘なので言えないけど、とデザートのページを探してメニュー表を捲った。




