ご安全に!
この作品は、フィクションです。作品に登場する人物名・団体名・その他名称などは架空であり、実在する人物・団体・その他名称などとは一切関係ありません。
「GLÜCK AUF!」
ドイツの炭鉱夫たちの合言葉だ。
「ご無事に!」
お互い無事にまた会おう、だとか。
「幸運を!」
運が良ければまた会おう、だとか。
英語でいうところのグッドラック。
炭鉱に潜む危険は、落盤だけではないそうで、少しのミス、少しのアクシデントが、死に直結するという。炭鉱夫は、死と隣り合わせの仕事。かっこよく言えば、命知らず。それだけに炭鉱夫は、高給取りが多かったらしい。
似た話で、安全な環境を整えている現代の日本においても、トンネル堀りは、高給取りだと聞いた。
「あいつらは、命を顧みずに手に入れた大金を、明日をも知れぬ命だからと散在してしまうんだよ。」
高給に飛びついてトンネル堀りになる奴は、大体が、せっかく稼いだ銭をすぐに使い果たしてしまうのだ、と教えてもらった。
「ご無事に。」
親善によりドイツに派遣された日本の炭鉱夫が、ドイツの炭鉱夫と共に労働に従事し、その言葉を覚え、交わし合い、日本に持ち帰った。
そして、日本中に広めた。
ご存じ、
「ご安全に!」
である。
変異してはいないか?
直訳ではないし、もともとの意味合いとは少し、ニュアンスが違うように思う。
「GLÜCK AUF!」
幸運を祈る、だとか、成功を祈る、という意味合いだろうか。言語学者ではないから、自信はない。
言葉から感じるのは、運任せ、天任せ。どこか豪放な感じだ。命があればまた会おう、というような。
だが「ご安全に!」は、少し違う。意思を感じる。より存命への強い意志を感じる。
人事を尽くし、天命を待つ。
という諺の前半が「ご安全に!」で、後半が「GLÜCK AUF!」にあたるのではないだろうか、というのは、個人の感想である。
「よくそこまで話を広げられますね。」
「訊くから教えてやっているんじゃないか。」
「それはありがとうございますですけれども。」
時折、口癖のように、いや口癖か、結びの言葉によく使う、
「ご安全に。」
という言葉をまた使ったので、ふと、
「それって何なんですか?」
と訊いただけなのだが、ここまで話が膨らむとは、恐れ入った。
「で、広めたのは、今では日本最大手の鉄鉱メーカーで、源流は世界最古の財閥の…、」
「いいですいいです。」
NOのいいですだ。
「もういいです。話を戻しましょう。」
「なんだよ。ここからが面白いのに…、」
「本題に戻りましょう。」
「わかったわかった。」
どうにも、横道脇道、道草を食べる癖は、直らないらしい。
「話を戻そう。」




