心霊スポット
この作品は、フィクションです。作品に登場する人物名・団体名・その他名称などは架空であり、実在する人物・団体・その他名称などとは一切関係ありません。
圧巻だった。
そう大きくないトンネルだった。よくある、新しいトンネルが開通して使われなくなったトンネルだ、と思った。実際、その通りだったのだろうが、近づくにつれ、何か異様な雰囲気を持っていることに気づいた。トンネルの中に入って、確信した。これはすごい。
トンネルの中はでこぼこだった。手掘りだ。噂に聞いて、一度見てみたいと思っていた。こんな近くにあったのか、とまじまじと見た。これを、人力で掘ったのか。人の力だけで。
「どう川島君。何か感じる?」
「熱意を感じますね。」
「え?」
想像していた答えとは、違うらしい。しかし、川島が感じたのは、パッションだ。
新見が言うには、どうやらここは、心霊スポットとして有名なトンネルなんだという。よく幽霊が目撃されるらしい。大昔に、ガードレールがない時代、このトンネルの近くで車や人が谷へ落ちる事故が多発して、人がたくさん亡くなっていて、その霊が出るとか出ないとか。それはいい。それはまだわかる。突然の事故で、未練が残って化けて出る。理にかなっている。
気になったのは、もう一つのケースだ。強制労働で働かされ、工事中に死んだ作業員の霊が出る。
そんなわけがない。
ピラミッドも近年では、強制労働ではなかったという説が有力になっている。それは辛かっただろう、苦しかっただろう。死人も出ただろう。ろくに重機もなければ電気もない時代に、あれだけのものを作るのには、大変な労力があったというのは、建設業に携わらない人でも容易に想像できるだろう。だから、強制労働させられたのでは、という短絡的ではあるが、そういうイメージに繋がってしまうのもわかる。でも、大変だからこそ、熱意がなければ成し得ないんだ。俺たちは、俺たちがピラミッドを作っているんだ、作るんだ、という強いモチベーションがあったはずだ。
このトンネルもそうだ。トンネルを掘るんだ!という強い熱意、情熱がきっとあったはずなんだ。例え、工事中に亡くなったとして、悔しさはあったにせよ、恨みつらみなんかは、ない。絶対にないと言い切る。そんな熱いオトコたちが、化けて出るなんてあるわけがない。
思わず、そう力説すると、新見は若干引いた感じで、
「わ、わかったよ。川島君の言うとおりだよ。遅くなるし、帰ろっか。」
と言って、社用車へと戻っていった。もう一度トンネルを見て、川島も後を追った。
それから、ちょくちょく川島は、何かのついでにトンネルを見に行くようになった。
やっぱりすげえな、と呟いて、トンネルから愛車に戻った。Uターンして、国道に入り、山道を少し上った。路肩よりも広く、いわゆる避難場所と呼ばれる広いスペースに、車を止めた。そこは、市街地を見下ろせる有名な夜景スポットで、新見いわく、有名なカーセックスのポイントでもあるらしい。夜遅くに通ることがないので、確かめたこともない。ただ、定年でやめた中山さんが飲み会の席で、カーセックスしている車を揺らして遊んでいた、と笑っていたのを思い出した。ひどいことをするオッサンだ。
「元気かな、中山さん。」
眼下に広がる市街地から少し郊外へ目を移し、社宅に照準を合わせた。
「あれか。」
現場にはまだ行くなと言われている。だからこうして、高台から見ることしかできないが、あれが川島の次の現場だ。
そういえば、いつから新見は、川島のことを君付けからちゃん付けに替えたのだろう。
愛車に乗り込み、エンジンを始動した。




