山本の小さな嘘
この作品は、フィクションです。作品に登場する人物名・団体名・その他名称などは架空であり、実在する人物・団体・その他名称などとは一切関係ありません。
わき腹がどうしようもなく痛く、呼吸もつらい。寝られない。
医者は嫌いだ。脅すことしかしない。そんなことは大丈夫だろうというようなことでも大げさに言う。何より面倒くさい。病院は、誰かに無理やり連れて行かれるか、行けと強く命令されてやっと行くところだった。
風邪は基本的に、自然治癒だ。咳き込むと、仕事仲間はとても嫌な顔をするが、マスクもしない。診断されるわけではないが、おそらくインフルエンザらしい風邪の時も、高級栄養ドリンクを飲んで、熱いお湯に手先のジワジワが無くなるまで浸かって、でかいスポーツドリンクを枕元に置いて、タオルにくるまって寝れば治った。
打ち身捻挫、骨にヒビくらいでは、医者の世話にならなかった。鉄筋が刺さりかけて、いや少し刺さったが、それでも市販品の諸々で済ませた。おかげで、残った傷跡はキレイではないが。錆が入っていたらどうするんだ!と小椋に叱られた。
そこまでして医者に行きたくなかった山本が、どうしても耐えられず、自発的に医者に行くことを決意し、救急に緊急通報をした。
「どうされましたか?」
「わき腹が痛くて眠れない。」
山本は、救急で運ばれた最寄りの病院から、ドクターヘリで医大に搬送された。
後日、携帯を見ると、比嶋社長と小椋から何十件と着信履歴があった。
ICUに入って、ようやく落ち着いたのは、何日も経ってからだった。労災のことで、比嶋社長、小椋、サークルエンドの営業と色々話をした。元請けの新見からは、何度も電話が直接あって、状況を事細かに聞かれた。何度もかけてくるから何度も同じ説明をする。こちらの都合はお構いなしだ。事故報告書を作成しないと怒られるのだ、という。
後で聞いた話だが、適当に作っては(本人は至極真面目に作っているそうだが)、上司にダメ出しをされて、その都度電話をかけていたらしい。メモをとればいいのに、と思ったが、そんなことができるならこんなことにはならないのだろう。
また新見から電話があり、いちから説明した。
床板を剥ぐと、根太が出てくる。剥いだ床板を1枚1枚、和室の外の廊下に立て掛けていく。床板が残り少なくなると、当然、足場も悪くなる。バールを使って剥ぐ際に、力んだ拍子、バランスが崩れて転び、根太にわき腹を打ちつけた。
「何回説明すればいいんだ。これくらいのことが覚えられないのか!もう全部話した。何回もだ。もう何も言うことはない。」
と文句を言って電話を切った。
全部は、話していない。




