晩酌
この作品は、フィクションです。作品に登場する人物名・団体名・その他名称などは架空であり、実在する人物・団体・その他名称などとは一切関係ありません。
初日から、人海戦術ですべての部屋の建具を取外して、畳を運び出した。これに2日かかった。3日目からは、ぐんと人数が減り、備え付けの家具などを運び出す作業が2日続いた。1日程度だと考えていた比嶋は、山本を怒鳴りつけた。初日に、意外と物が多いことを伝えていたのに、勝手に人数を減らしたのは社長じゃないか、と苛ついたが、すぐに、でももうこの怒鳴り声を聞くのも最後になるのかも知れない、と思うと、許す気持ちになった。
5日目からは、木造作の解体に取り掛かった。屋上では、他の班が防水シートを剥している。
鉄筋コンクリート造3階建て。エレベーターはなし。階段は3箇所。階段を上がると各階左右に部屋が1つずつあって、3階で2部屋ずつ6部屋。階段が3箇所だから、都合、18戸前。各階の部屋は廊下でつながっていないから、同じ階の部屋、例えば1階端の301号室から最も遠い3階の306号室に行く為には、1度階段を下まで降りて、再び上がらなければならない。
「ビールが美味しくなるなァ。」
と最初は強気に冗談を飛ばしていたが、毎日の移動で疲労が蓄積していった。
1階の部屋から取り掛かると、移動ルートの階段に木くずがたまるので、3階からやっつけることにした。比嶋社長に2人と言われていたが、小椋に頼み込んで応援を回してもらい、3人。1人がひとつの階段、6部屋を担当する。木くずをコンテナまで運ぶのは、インドネシア人たちだ。
山本は、一番奥の階段の6部屋を受け持った。
1日に2部屋。土曜日、1階を残し、その週の仕事は終わった。
新見は、土曜日に一度も顔を出さなかった。これが武村や川島や梶だったら、現場に最低でも1度は顔を出す。いや、梶あたりなら、今のご時世、ひょっとしたら土曜を全休にして工程を組んだかもしれない。そもそも新見は工程すら引かない。工程表を出してね、と営業への一言で終わりだ。
引き上げてくる山本を労いながら、来週、1階の和室が終わったら、倉庫の棚と木建をいってくれ、と指示を出した。
「グマさん、スレートも俺らで?」
と山本が訊いてきたので、アスベストが入っているから、再来週に専門の連中を呼んでいることを伝え、山本の肩を叩き、山本がサービスでやってくれるなら呼ぶのを止めるのだがな、と笑った。
その週の小椋の歩数は、6万を超えていた。晩酌のビールが、たまらなく美味しく感じた。




