きちんとやる
この作品は、フィクションです。作品に登場する人物名・団体名・その他名称などは架空であり、実在する人物・団体・その他名称などとは一切関係ありません。
「こういうことは、きちんとやりましょう。」
そう言うと、川島は上司に連絡を入れた。そこからは、あれよあれよと段取りが決まり、祭事が執り行われ、およそ10日で現場は再開した。工事の遅れは、川島が施主担当者に掛け合い、もしもの時の工期延伸の約束を取り付けた。
駅前にある古い木造平屋建て。かつては、社宅に使われていたらしいが、何十年も放置されていた。駅の高架事業が進み、駅前開発が計画され、経営会議で、駅前の死んだ土地をどうするのか、という議題が上がった。話し合いを重ね、売り払うことが決まった。そのまま売るか、更地にして売るか。専務は、そのま売る派、常務は、更地にして売る派。社内は真っ二つに割れた。といっても、出世争いをしている連中の間で紛糾しているだけで、全社員が二分されたわけではない。
またやってるよ。と、喫煙所の話題になるだけだった。
今は、専務に勢いがあるから、専務の言い分が通るだろうと考え、担当者は、そのまま売る方向で話を進めていた。川島にまで、その話は流れてきていて、解体されないから、買う奴が誰かにもよるが、我々の出る幕はないだろう、と上司に言われていた。
ところが、どんでん返しが起きた。
古い建物だから、何が出るかわからない。社長の一声で、更地にして売る話にまとまった。
社長の一声は、効果的だ。それまでやっさもっさ騒いでいた連中は何も言わなくなった。発注業務の速度も速い。社長決裁が下りるのが先に分かっているようなものだから、滞りなく、速やかに、工事は発注された。
担当は、川島に決まった。
自動的に、解体業者は、安全衛生協力会の丸末興業株式会社となった。
丸末興業の担当は、当初は若手の西川だったが、担当していた現場の基礎解体に手間取り、間に合いそうになかったので、小椋にお鉢が回ってきた。
内装の解体が始まり、床を剥すと、床下から井戸が現れた。発見した作業員は小椋を呼び、小椋は川島を呼んだ。
川島は、井戸を確認すると、落ち着いた口調で、小椋の目を見て、このまま壊せないよね、と同意を求めた。いや、もっと強い意志を持って下知した。異議を認めない迫力を込めていた。
そして、次いで出した言葉が、
「こういうことは、きちんとやりましょう。」
だった。
節を抜いた竹を差し、息ができるようにして埋めた井戸の記憶がオーバーラップして、目の前にある井戸に重なって見えた。
目の前の埋められた井戸には、息抜きがない。
「グマさん。これ、どうする?」
スカルノが井戸を指差し、問う。その手を下ろさせて、忠告した。
「大統領、これを指さしてはいけない。」
そして続けた。
「こういうことは、きちんとやろう。」




