石田邸にて
この作品は、フィクションです。作品に登場する人物名・団体名・その他名称などは架空であり、実在する人物・団体・その他名称などとは一切関係ありません。
見たことあるな。
表札の石田という文字を見て、デジャブに陥ったが、気に留めるほどのことでもないと、呼び鈴を鳴らした。ほどなくして、上品そうな女性の声で、
「どちら様ですか?」
「五輪建設の川島です。」
「お待ちしておりました。」
玄関で、名刺を渡してご挨拶をすると、家の中に通された。
手入れの行き届いた、いかにもなお金持ちの一軒家に、苦手意識を持ちつつ、廊下を進む。
場違いだな。
川島は、身体が入るスーツがなかったので、作業服でやってきていた。一応、汚れの少ない、洗ったばかりの作業服を選んだのだが、石田邸の応接ソファーは、オーストリッチ。作業服では、なんとも、座りにくい。
かつて、昼飯に、ピザ食おうぜ!とイタリア料理店を選び、作業服のまま入って感じた、あの居心地の悪さを思い出していたら、石田さんが、お茶を出してくれた。
「いただきます。」
ひと啜りすると、目の前に、石田さんも座った。
「石田本部長の、ご親戚の方なんですね。」
「そうです。」
石田さんは、旧姓も石田という。石田と石田が恋に落ちて、愛を育み、ゴールイン。石田から石田になった。こういう場合、手続きは、面倒なのだろうか、楽なのだろうか。独身者の川島には、わからない。
単刀直入にお伺いします、と前置きをして、
「どこで、私のことを?」
なぜ指名したのかではなく、どうして川島を知っているのか、と質問することで、諸々の前提を端折った。それによって、何のことか分かってきている、と暗に伝えたことにもなる。
石田さんは、川島と同じグループのゼネラルフロンティアという会社に勤めていた。親戚である石田本部長のお父さんの紹介で、商業施設や飲食を扱う商事会社に、内勤として勤めていた。石田本部長は、父親も親会社の偉い人だったのだ。
ゼネフロか。
内心、嫌悪感が少し溢れた。
商業ビル、スーパーやコンビニ、飲食店などなどを手広くやっている、グループ内では、それなりの顔だ。
同グループの五輪建設に仕事を出しても、五輪建設は、さも当然という顔をして、ちやほやしてくれない。何より、自分たちにうまみがないから、色々理由をつけて、ちょくちょく他社に発注している。
宮田は、その辺、うまくやっていたので、ゼネラルフロンティアからも、仕事をもらっていた。
しかし、川島は、宮田に拾われる前、五輪建設の社員だったことで、ゼネラルフロンティアとひと悶着あった。だから、少し根に持っている。
元とはいえ、ゼネフロの社員だった人が、五輪建設に頼るのは、変な話だ。
とにかく、石田さんのお話に、耳を傾ける。
仕事で、同グループの不動産会社に勤める平井という女性社員と知り合い、何度か仕事のやり取りをしたりしている内に、お互い、学生時代にソフトボールをやっていたことがわかり、一気に仲が良くなったという。
女傑、平井か。
面識はないが、名前を聞いたことがある。セクハラやパワハラで上司を訴えて、不動産会社の管理職を飛ばした女がいる、と。それも1度や2度ではない。
石田さんと平井は、石田さんが実家に帰る用事があると、連絡を取り合い、都合が合えば、会って食事をする仲らしい。
最近、食事をした際に、平井から、ちょっと聞いて、うちのグループに面白い社員がいるのよ、と川島の話をされたという。
「平井さんから、五輪建設に、いわくつきの工事現場の為に、除霊を担当している、川島という社員がいる、と聞きました。」
水島さんだ。
確か、宮田一家の水島さんは、平井と仲が良かった、と聞いている。
絶対、水島さんだ。
「川島さんは、除霊ができますか?」
川島が現れて、堂々と、何の話か分かっている、と匂わせたことで、ほぼ確信はしているのだろうが、改めて、言質を取りにきた。
「あれを除霊と呼んでいいかどうかは、わかりませんが。相談には、乗れると思います。」




