有給休暇
この作品は、フィクションです。作品に登場する人物名・団体名・その他名称などは架空であり、実在する人物・団体・その他名称などとは一切関係ありません。
石田さんは、もともとこちらの出身だったが、ご結婚されて、旦那さんの転勤に伴い、今は、県外に住まわれている。石田さんの住まわれているところは、グループの圏外、縄張りの外だった。つまり、グループと命運を共にしている五輪建設の管轄外。移動範囲の外。社用車で行く為には、何か理由付けが必要だった。
「困ったな。」
川島は、宮田一家の残党。社内情勢、グループ内情勢について、少し詳しい。建築部長が、何に困っているかは、大体察しが付く。
経理部長は、経費削減に煩く、かつ、派閥争いの相関図でいうと、石田本部長と繋げた線には、バツがつく間柄の男。
「都合よく、石田さんの住んでるあたりで、製品検査があるとかは。」
「ない。」
「ないなあ。」
「こっちに来てもらうのも、ちょっとなあ。」
「うーん。」
唸っている。
分かっている。部長発で、指示ができない内容の提案を、川島がするのを待っている。部長が指示した、となると、後々、何かあった時に、部長の責任問題になる。どちらでも責任問題にはなるが、部下からの提案を、しょうがないな、と親身になった、という前提があった方が、発覚した時の、部長のダメージが少ない。
パワハラだというなら、間違いなく、パワハラだろう。結局、権威を以って、実行犯に最大限の罪を被せる行為なのだから。
川島は、出世を諦めている。経歴に少々の傷がついたところで、何ともない。
詰め腹を切らされたとて、解雇には至らないし、今回も、解雇に至るレベルの話ではない。
汚れ役をさせるかわりに、建築部長の権限による、フォローはある。
川島は、しくじったことがないが、もし失敗して、懲罰委員会にかけられ、何かしらのペナルティをくらっても、後で必ずフォローがあるだろう。
だから、実行する。
「有給取って、自分の車で行きましょうか?」




