呼出音
この作品は、フィクションです。作品に登場する人物名・団体名・その他名称などは架空であり、実在する人物・団体・その他名称などとは一切関係ありません。
川島の性格上、はじめてしまうと、逃げなくなる。
部長の話では、石田さんは、川島とだけ、話がしたい、と言っている。
「いや。俺、現場の人間ですよ?」
「わかっている。」
すっ、とメモを寄越した。
「石田さんの連絡先だ。」
「はい。」
受け取って、数字を読む。
「……。」
「……。」
「かけろよ。」
「え?」
「石田さんに、連絡しろ。」
「部長の目の前で、ですか?」
「そうだ。」
「それは、石田さんの意に反するのではないかなあ。」
ぶつくさ言いながら、会社から支給されている携帯で、石田さんに電話を掛けた。
リングバックトーンが、1回、2回、3回、
川島は、呼び出し音のコール6回以内に、相手が出なかったら、電話を切ると決めている。
4回、5回、6回、切る。
「出ません。」
「そうか。ま、掛かってきたら、教えてくれ。」
部長が席を立ったので、一緒に席を立った。打合せ室の使用中を空室に替えて、部長とわかれた。
この話で、川島の心当たりは、ひとつしかない。
そして想像する。石田さんが、奇妙な依頼方法だと認識した上で、ここまで慎重に、川島だけとコンタクトを取ろうとしているのは、どういう状況かを。
おそらく、末期だ。
何かが、起こった。
石田さんを、常識的な一般人だと、仮定する。だから、その何かに対しての初動は、怪談でよくあるように、お祓いには、頼っていないはずだ。そもそも、そんなものは信じていないのだから、常識的に考えられる範囲で、一般的な手段で、解決に向けて動いたと、推測する。
そして、その常識的な解決策が、すべてうまくいかなかった。
八方塞がりになっていたはずだ。
常識的な一般人と、お祓いができる霊能者は、同じ圏内にはいない。
しかし、調べれば、ちゃんとした会社と分かる五輪建設は、常識的な一般人と同じ圏内にいる。
常識的な一般人は、超常的な解決方法に対し、強い疑いを持っている。
これについては、超常現象を信じざるを得ない体験があったのかも知れない。
体験を経て、一般常識を捨てたにしても、大多数が、一般常識を是としている世の中である、という認識はある。つまり、あちこちに、超常現象の相談をするのは、思慮の足りない行動だ。ましてや吹聴などもってのほか。現代社会で、世間の目を考えた上で、生活を続けていく上で、超常現象を信じている、というのは、大変に、よくない。
どうしたものか、と悩み事を抱えているところに、川島の噂が聞こえてきたのだろう。
あやしい霊能者よりも、相談しやすい相手として、川島は最適だ。
まちがいない。これは、逃げられない奴だ。
もう、はじまってしまっている。




