石田家
この作品は、フィクションです。作品に登場する人物名・団体名・その他名称などは架空であり、実在する人物・団体・その他名称などとは一切関係ありません。
レースのカーテン越しに、部屋を照らしていた陽光が、翳った。
「父が、家を建てていたんです。」
石田さんの父親が、誰に相談することもなく、つまり石田さんの知らない間に、家を建てていた。
「母がいれば、止めたのでしょうけど。」
石田さんの実母は、お亡くなりになっている。
「建てた場所も、実家の近くではなくて。」
県境に近い場所だった。
「父を連れて、見に行ったんです。」
まわりに田畑が広がる、牧歌的な場所に、白い家が建っていたという。
こんなところに家を建ててどうするの、と問い詰めた。場所も微妙だし、実家は、バリヤフリーに改修したばかりだ。
「息子が住むって、言うんです。」
川島は、途中から、これは、ラジオの電話人生相談案件じゃないのか、と思いながら聞いていた。
ラジオのパーソナリティのように、
「ご兄弟がいらっしゃるんですね。」
と言うと、
「いいえ。」
と首を振り、
「息子なんて、いないんです。」
と言った。
「ん?」
息子が、いない?
「でも、息子さんが住むって。」
「父と母に、男の子はありません。子どもは、私と妹の、2人だけです。」
川島は、日本語になっていない言葉で、相槌を打った。
痴呆を疑って、医者に診せたが、正常だった。セカンドオピニオンでも、同じ結果。他に、そういう兆しは、ない。
とにかく、息子が住む、と言い張っている。
父親の話では、都会にいる息子が、結婚を考えている、と言ってきた。その相手が、ぜん息持ちか何か分からないが、田舎の空気のいいところで、静養させなければならない人だ、と相談してきたのだという。父親が、帰ってくるなら、こっちに家を建ててやる、と言うと、息子が承諾したのだという。
しかし、息子と話し合いを続けていくうちに、実家の近くでは、ダメだ、という話になった。空気がよくない、と。
話を進めていくうちに、だんだんと実家から離れ、今の場所が、有力候補のひとつになった。父親も、ここなら、同じ県内だし、と妥協した。
そして、家が建てられた。
「なかなか息子が帰ってこないから、お前からも言ってくれ。」
ある日、そんな連絡を受けて、急いで実家に帰ってみると、そういう有様だった、という。
いない息子をいると言い張る以外は、いつもの通りの、いたりて普通のお父さんだからこそ、とても怖くなった石田さんは、まず妹に相談した。
妹さんは、隠し子を疑って、色々調べたようだが、何の手掛かりも掴めずに、終わった。興信所にお願いすることも考えたが、父親が変な人、というレッテルを貼られるリスクを避けて、止めた。
父親に、息子はいないと姉妹で説得を続けているが、暖簾に腕押し。
そんな日々の中、妹から一本の電話がかかってきた。
「姉さん。あの家、何かおかしいわ。」




