2、一族
パーティー会場が真っ暗になり、何も見えない。
同時に、会場の人達が何事かと騒ぎ出す。
「セイフィード様っ」
私も、怖くなりセイフィード様を呼ぶ。
「アンナ、大丈夫だ。俺はここにいる」
セイフィード様が私をギュッと抱きしめ、すぐに呪文を唱える。
『イルミナータ・ルークス・ミサーム・闇を消し・光で満たせ』
セイフィード様の手から、拳大の光の玉がいくつも現れ、その光の玉が空中に浮遊する。
その浮遊している光の玉は、風船のように大きく膨らむと、弾け、闇を振り払う。
闇が消え、再びパーティー会場に明かりが戻ると、そこにいる人達が、私達の方を指差し、悲鳴をあげた。
王様、王妃様、セイフィード様、私を取り囲むように、黒いローブを着たいかにも怪しい人物4人と、なぜかオリヴィア様がいた。
オリヴィア様は以前のような美しい面影は全くなく、髪は痛み、乱れ、体も痩せ衰えている。
また、オリヴィア様の薄汚れた赤いドレスから見える腕や首、頬にまで、痛々しく術式が彫られ血を滲ませている。
かなりの痛みを伴うはずなのに、オリヴィア様の表情は焦点が合っていなく虚ろだ。
「アンナ、動くなよ。オリヴィアは精霊に憑依されている」
セイフィード様が私の耳元で囁く。
一体全体何が起きているの。
全くわけがわからない。
怪しい人達は剣を持っていて、今にも私達に斬りかかってきそう。
私は怖くてセイフィード様にしがみついてしまっている。
私は、いつも情けなく、不甲斐ない。
でも、もし戦いになったら、私はセイフィード様から離れなきゃいけない。
この手を離せるだろうか⋯⋯。
「さすがだな、セイフィード。あの闇を一瞬のうちに打ち消すとは」
後方より新たに黒いローブを着た人物がゆっくりと、セイフィード様に近づく。
その人物は、ローブを脱ぎ捨て姿を露わにし、私に一瞬視線を向ける。
しかしすぐにセイフィード様に視線を戻した。
その人物は、男性で、青黒い艶やかな長い髪を持ち、死人のような青白い顔をしている。
どことなく、魔法陣学の助手のジークさんに似ているが、私は会ったことがない人物だ。
「ようやく本来の姿に戻ったか。ウォーレン」
第二王子は既に戦闘態勢で、剣を構え、ウォーレンに近づく。
ウォーレンって、確か、ジークさんの本名だ。
あの人物は、顔も体も違うけど、魔法陣学助手のジークさんなの⋯⋯?
私は確かめるようにじっとウォーレンを見つめていると、セイフィード様が耳元で「アンナ、あの男は、魔法陣学助手のジークでもあり、マーリン師の助手のフェリックスでもあり、魔界の守人の弟のウォーレンでもある。ウォーレンは王族を殺すべく計画を立て、今ここにいる」と教えてくれた。
「久しぶりだな、王子様。殺される運命なのに婚約するとはな⋯⋯」
「残念だが、俺はお前に殺されるつもりはない」
第二王子がウォーレンに斬りかかる。
しかし、ウォーレンに剣が当たる瞬間、跳ね返される。
どうやら、ウォーレンの周りには強力な結界が張ってあるようだ。
「王、もろとも死ね」
ウォーレンが何かの魔法を発動した。
すると、オリヴィア様が雄叫びをあげ、巨大な黒炎が両手から吹き出し、私とセイフィード様、後方にいる第二王子、会場内にいる人達に襲いかかる。
同時に怪しい人達も王様、王妃様目掛けて襲いかかる。
私が、もうダメだっ、殺されるっ、と思った次の瞬間、巨大な生き物が私とセイフィード様をすっぽりと覆い、黒炎から私達を守る。
その巨大な生き物は、頭に王冠を載せているフクロウ、闇の精霊ストラスだ。
昔、本で見た闇の精霊ストラス、常にセイフィード様の周りにいるというストラスが私の目の前にいる。
ストラスが実体化したんだ。
その姿は凛々しく、あまりに可愛らしく、私は思わずギュッと抱きしめる。
フサフサして気持ち良く、闇の精霊なのに温もりを感じる。
私は、嬉しくて、嬉しくて、ストラスに頬ずりをする。
「アンナ、今はそんなことしている場合じゃない」
セイフィード様は呆れている。
第二王子も、ウォーレンまでも呆れて私を見ている。
何やってるんだっ、私は。
こんな非常事態なのに、私って大馬鹿者だ。
気を取り直して辺りを見渡すと、可愛くて大きなストラスが合計7体もいる。
第二王子や、マーリン師の所、シャーロットやゾフィー兄様の所、会場内の人々を守るべくストラスが配置されている。
ただ、会場内にいる人々は、ストラスに対しても怖がり、青ざめ、失神している人までいる。
そういえば、王様と王妃様はどうなったんだろう。
私が王様と王妃様の方を見ると、そこには親衛隊の人と、ラルフ隊長が立っていた。
ただ、服装は王様と王妃様の服を着ている。
私の視線にラルフ隊長が気づくと、王妃の服を脱ぎ捨て、ティアラを取る。
王妃の服を脱ぎ捨てたラルフ隊長は裸ではなく、軽装な肌着とズボンを履いている。
親衛隊の人も王様のマントを脱いだ。
驚いたことに、王様と王妃様は偽物で親衛隊の人とラルフ隊長が化けていたらしい。
また、王様と王妃様に襲いかかった怪しい人達は、1人は完璧に倒れびくともしない。
残りの3人は、少し離れた所で態勢を整えている。
「やはり、偽物だったか」
ウォーレンは王様、王妃様が偽物だったのに、少しも動揺していない。
どうやらウォーレンにとって想定内の事のようだ。
「フェリックスさん、もうやめてっ。もうこれ以上、罪を犯さないで」
「フェリックス、お願いだ。もう辞めるんだ」
ミランダさんとマーリン師は、ウォーレン(フェリックスさん)に懇願する。
「罪? 私は何も間違った事はしていない。こいつらに制裁をしているだけだ。罪を犯しているのはここにいる奴らだからな」
「クララを守れなかった罪は、俺だけにある。王や王妃は関係ない。もちろんここにいる人達もだ」
第二王子は声を上げ、ウォーレンに一歩近く。
「王は、ロキ一族を滅ぼしただろう。そこにいる者はロキ一族の生き残りだ」
ウォーレンは、怪しい人物に視線を向ける。
ローブを被った怪しい人物はロキ一族の生き残りのようだ。
ゲリーと同じく獣化できる民族。
獣化できるが故に滅ぼされた一族。
「それは、前王の時代の話だ。今の王は違う」
「ロキ一族は、幼子や力の弱い女も皆殺しにされている。一族を殺されたんだ。だから王の一族を皆殺しにするのは理にかなっているんじゃないか」
ウォーレンはそう言うと、手を地面につけ呪文を唱える。
ウォーレンの手元が光ると、同時にロキ一族3人の足元に魔法陣が出現する。
その魔法陣から鋭い風が起こると、いつのまにかロキ一族は消えていた。
「第二王子、セイフィード、我々は城に戻る。恐らくロキ一族は王と王妃を狙うはずだからな」
ラルフ隊長がそう言うと、セイフィード様は地面に手をつけ、魔法陣を出現させる。
その魔法陣の中に、ラルフ隊長、親衛隊の人、ゾフィー兄様が加わると瞬時に姿を消した。
「決着の時だ」
第二王子がウォーレンに向き合い、剣を構える。
ウォーレンはオリヴィア様に近づき、背中に触れる。
オリヴィア様は獣のような声で呪文を唱えると、あの美しかった赤い髪が燃え、塵となった。
そして魔法陣が6つ現れ、精霊ブァレフォールが6体現れる。
精霊ブァレフォールはロバの体をし、羽が生えている。
「アンナ、アンナはストラス3号と一緒にいるんだ。絶対に離れるなよ」
「はい」
オリヴィア様が出現させた精霊ブァレフォールと、ストラスは戦い始める。
お互い空が飛べるので、天井をぶち抜き、空中で激しい戦いを始めた。
空中で衝突があるたびに風が吹き荒れ、天井の破片が私がいる会場へと落ちてくる。
シャーロットや、マーリン師が大丈夫か心配になり、辺りを見回すと、他の人たちと一緒に後方で固まっている。
その人達の前方にラウル先生が杖を持って立っており、魔法陣を作り出している。
その魔法陣によって魔法の防御壁が作り出され、その防御壁はあらゆる衝撃、攻撃を防いでいる。
精霊ブァレフォールとストラスの戦いは、ややストラスが優っているが、なかなか決着がつかない。
第二王子はウォーレンではなく、オリヴィア様に剣を向け攻撃を仕掛けた。
しかし、オリヴィア様にも強力な結界が張っているらしく、やはり跳ね返されてしまう。
じっとその様子を伺っていたセイフィード様は何か閃いたように目が輝き、呪文を唱える。
『ドゥーコ・オーミ・オーミ・生き血をすすえ・全てを食い尽くせ』
セイフィード様からオリヴィア様まで一直線に地割れが起き、オリヴィア様がいる真下から蔦のような木が湧き出て、オリヴィア様に絡みつく。
その木はオリヴィア様から何かを吸い取るように膨張と萎縮を繰り返す。
吸い尽くし終わると、その木は実を付け、その実がセイフィード様へと飛ばされ、セイフィード様はそれを受け取る。
そしてオリヴィア様は白目を剥き、ガクリと膝をつく。
と同時、精霊ブァレフォールも消え去る。
また、その一連の行為は一瞬で終わり、誰も手出しが出来なかった。
「オリヴィアの魔力を吸い尽くした。今なら結界も無くなったはずだ」
セイフィード様は第二王子に言葉を発した。
「小賢しい真似を。またオリヴィアに魔力を注げばいいだけのことだ」
ウォーレンはオリヴィアの背中に触れようとしたが、第二王子がそれをさせない。
第二王子は瞬時にオリヴィア様とウォーレンの間に入り、剣をウォーレンに斬り上げる。
ウォーレンは剣を避けようとしたが、遅く、まともに剣が入り血が吹き出す。
セイフィード様も更に呪文を唱え、ウォーレンに楔を打ち込んだ。
ウォーレンは全く動けなくなった。
「終わりだ⋯⋯。ウォーレン」
第二王子は剣をしまい、悲しみに満ちた視線をウォーレンに向ける。
「終わりじゃない⋯⋯」
ウォーレンは目を瞑り、呪文を呟く。
すると、オリヴィア様の体から煙が立ち込め、しまいには火がボッとつく。
その火は徐々に燃え上がり、オリヴィア様の体を包み、渦を巻く火柱となって空高く噴き上がる。
その次の瞬間、大爆発が起きた。




