4、独学
私とセイフィード様は宿を朝早く出て、首都に急ぎ戻る。
帰郷するにあたって、1つ、私は気がかり点がある。
それは、セイフィード様は私がつけたキスマークを全く隠そうとしないといことだ。
「セイフィード様、まさか、キスマーク、隠さないでゾフィー兄様に会うつもりですか?」
「そうだ」
「かっ、隠して下さい。私が、恥ずかしいじゃないですか」
「どうやって、隠すんだ? 隠せないものはしょうがないだろ。そもそも、俺はここにつけろとは言ってない」
「それは、そうなんですけど⋯⋯、あっ、セイフィード様だったら、そんなキスマークすぐに治せますよね。治してください」
仕返ししようとした、私が悪かったです。
だから、どうか、どうか、キスマーク消してください。
私は、精一杯可愛らしく、両手を胸の位置に組み、上目遣いで、お願いした。
「やだ」
「⋯⋯⋯⋯」
夕刻に、私達は首都に到着した。
そしてすぐにラルフ隊長とゾフィー兄様が居る城に赴き、帰郷の報告をする。
渋々、私はセイフィード様に連れられ、ラルフ隊長がいる親衛隊の執務室へと、入室する。
そこには、ゾフィー兄様も一緒にいた。
「今、戻りました。隊を離れ、申し訳ございませんでした」
「まぁ、君たちは正式な隊員じゃないしね。無事に戻ってこれて、安心したよ。問題なかったかい?」
「はい」
「そうそう、セイフィードとアンナには王様から褒賞が授与されるはずだよ。後日屋敷に届けられると思うからそのつもりで」
「はい。ありがとうございます」
ラルフ隊長とセイフィード様が話している時、ゾフィー兄様は一瞬、セイフィード様の首筋に目をやる。
絶対にバレた。
だって明らかに、ゾフィー兄様、冷ややかな視線をセイフィード様に向けている。
私の首にスカーフを巻きつけてるのも不自然だし、きっとゾフィー兄様のことだから気づいたに違いない。
お互いにキスマーク付けあいっこして、もしかして私達って、遠巻きに見たらバカップルかもしれない。
「やはり、二人っきりで行かせなければ良かった」
ゾフィー兄様は肩を落とし、ボソッと呟く。
「まあまあ、ゾフィー固いこと言うな。若いっていいよな」
ラルフ隊長はニンマリと微笑む。
もしかして、ラルフ隊長も、ゾフィー兄様も、私達がもっと如何わしいことをしたと思っているのだろうか⋯⋯。
ありえる。
「あのっ、ゾフィー兄様、私達っ」
「では、失礼します」
私が話し始めた途端、セイフィード様は遮り、私の手を掴んで執務室を出る。
「セイフィード様っ、ラルフ隊長もゾフィー兄様も勘違いしてますよ。だから私、弁明しようとしたのに」
「別に勘違いしたままでもいい。それに変に弁明しない方がいい」
本当に、そうなのかな⋯⋯。
次、ゾフィー兄様にあった時、どんな顔して会えばいいかわからない。
その後、セイフィード様は私を屋敷まで送ってくれた。
明日からは、いつも通り宮廷学校に通う。
一週間も経ってないのに、一ヶ月間くらい留守した気分。
それだけ、盛りだくさんなことがあったんだよね。
よし、心機一転、明日から医術の道を極めるぞっ。
翌日、私は早速、学校の事務局を訪れる。
「ご機嫌よう。私、アンナ・フェ・シーラスです。受講に関してお聞きしたことがあるのですが、いいでしょうか?」
「どうぞ」
「私、医術の道に進みたいと考えています。それで、治癒魔法基礎講座を受けたんです。講義を聞くだけでいいんです。お願いできないでしょうか」
「確か、君は魔力がないよね。それに治癒魔法基礎講座は魔法基礎講座の単位が必須だよ。君は単位取得できていないよね。そもそも医術っていうのは、魔法使いと一緒で魔力が不可欠なんだ。だから、諦めなさい。君には無理だよ」
「人を治療するのは無理だってわかっています。ただ、医術を研究したいんです」
「君は、魔法基礎講座の単位が取れてないのに、魔法陣学を受講できているよね。これ以上、君だけ特別扱いはできないよ」
「⋯⋯⋯⋯わかりました。話を聞いて頂き、ありがとうございました」
予想通り、ダメだった。
でも、まだまだ諦めない。
次は平民の人達が医術を学ぶ専門学校へ話を聞きに行くことにした。
「魔力がないのに、医術を研究したいって? 話にならないですね。それにここは、貴族のお嬢様が来るような場所じゃないですよ。お貴族様は優雅にお茶でも飲んでいて下さい」
けんもほろろ⋯⋯、とはこういうことを言うんだろう。
あと残る手段は、独学かな。
セイフィード様の図書室に医術書があるかどうか、とりあえず探してみよう。
「ご機嫌よう、セイフィード様」
「あぁ」
「学校の事務局に問い合わせてみたんですが、やっぱり医術系の講座は受けられないそうです」
「そうか」
「平民の医術専門学校にも行ってみたんですが、全く相手にされませんでした」
「アンナ、1人で行ったのか?」
「馬車は使いましたよ」
「馬車から一人で降りて、専門学校に行ったんだろう?」
「そうです」
「アンナ、忘れたのか? 一昨日、男性3人に絡まれたことを」
「でも、ほんの短い距離ですよ。馬車から専門学校までの距離は」
「一昨日、絡まれた時も、一瞬の出来事だった。アンナはあの時、気をつけるって言ってたよな」
「⋯⋯⋯⋯軽率でした。ごめんなさい」
「それで、医術の研究は諦めたのか?」
「まだ、諦めてませんっ。独学で、少し勉強しようかと⋯⋯。それでセイフィード様の図書室にある医術書を読みたくて、いいでしょうか」
「別に構わない。アンナ、なんなら講師を雇ってここで勉強することも可能だ。どうする?」
そうだった。
セイフィード様の家は大金持ちだから、講師を雇うこともできるんだ。
凄いな⋯⋯。
でも、まだ結婚してないのに、それはちょっと、おこがましいかもしれない。
それに、私はセイフィード様の役に立ちたくて勉強するのに、これじゃあ反対に迷惑を掛けることになってしまう。
本末転倒だ。
「少し、独学で勉強してみたいと思います」
「わかった」
私が医術書というより、前世でいう家庭の医学書みたいな本を、手始めに読むことにした。
集中して読んでいると、セイフィードのお父様が図書室に現れた。
「アンナ、スライム討伐では大変だったね。それと私の妻にも会ったと聞いたけど、どうだったかな?」
「はい。奥様と楽しくお話しさせて頂きました。またお見舞いに行かせて頂きたいです」
「そう、それは良かった。今度は3人で行こう。それとアンナは医術にも興味があるのかい?」
「はい。でも、学校では医術の講座が受けられないので、ここで勉強させて下さい」
「もちろん構わないけど、ここには医術関係の本はあまり無いよ。私の知り合いのマーリン師の医術研究所に行ってみるかい? そこの資料室は医術書の宝庫だ」
「ぜひ、行きたいです」
「じゃあ、話を付けといてあげるから、時間があるときに行って来るといい。セイフィード、その時は案内頼むよ」
「わかりました」
以前、セイフィード様はマーリン師から医術について学んだそう。
マーリン師は、平民の出ながら数々の功績を納め爵位を授与されている。
そんな素晴らしい人の研究所に行けるなんて、それだけで光栄だ。
なんだか、医術研究の道が少し開けてきた気がする。
頑張ろう⋯⋯。




