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2、突然

 セイフィード様は、ガラの悪い男性3人に歩み寄る。


「離して頂けませんか。彼女は、俺の婚約者なので」


 セイフィード様は怒りを抑えながらも、圧のかかった声を発した。


「闇の精霊を連れてやがる」

「婚約者だと、気取りやがって。お前の婚約者は、今から俺達の婚約者になるんだ。残念だったな」

「おいっ、やめろよ。闇の精霊だぜ」


 3人の内、2人は闇の精霊を怖がっているが、もう1人は威勢が良くセイフィード様に一歩近づく。

その威勢のいい人が、私の手を離さない。


「彼女の手を離さないと大変なことになりますよ」


「ふざけんなよ。俺達に喧嘩売ろうってか、こっちは3人いるんだよ」


「俺は、あなた方を思って言ってるんです。死にますよ」


「このやろっ」


 威勢がいい男性が私の手を離すと、拳を振り上げ、セイフィード様に殴りかかる。

しかし、風がふわっと湧き起こり、その男性は一瞬中に浮き、すぐに落下した。

セイフィード様はその男性を見下ろし、冷めた視線を向ける。


「くそっ、なめやがってっ」

「おい、もうやめようぜ」

「もう諦めろ、闇の精霊は、さすがにヤバイぜ」


 他の2人が、威勢のいい男性を止めに入る。

「テメー、覚えてろっ」とおきまりの悪態をつきながら、その男性は他の2人に押さえ込まれるようにして去って行った。


「セイフィード様、あの⋯⋯、」


「アンナは悪くない。悪いのは俺だ。少し目を離しただけで、こんなことになるとは、迂闊(うかつ)だった」


「私も気をつけます」


「参ったな。宿も2つ部屋を予約したが、やはり一緒に居よう。取り直してくる。アンナも一緒に来い」


「はっ、はい」


 宿の手配を済ませると、私達は夕食を取るために、ある池に馬車で向かう。

セイフィード様と手を繋ぎながら。

まるでデートだ。

まるでじゃなく、正真正銘のデートだ。

嬉しくて、頬が緩みっぱなし。


 目的の池に着いた時、あまりに幻想的で美しく、私は胸が一杯になった。

池に咲く大きな蓮の花が、まるでゴンドラのように人を乗せている。

蓮の花びらの中に、ランプが灯してあり、その中で、食事を楽しんでいる。

蓮の花に乗れる人数は2、3名なので、だいたいが恋人同士か、夫婦に思われる。

なんて、ロマンチックなレストランなんだろう。


「素敵すぎですっ、このレストラン。こんな素敵なところで食事ができるなんて、夢のようです」


「それは、良かったな」


 私達は早速、池のほとりから、係りの人に案内され、蓮の花に乗った。

蓮の中は、ふっかふっかで、中央の雌しべがテーブルになっている。

また、花びらは、魔力をかざせば開いたり閉じたりできるそう。

私は、早速、セイフィード様にお願いして花びらを閉じてもらう。

すると、薄暗い狭い空間にランプがほのかに灯り、なんともエロティック。

もちろん、狭いので私とセイフィード様は密着する。


「なんか、すごく、ドキドキする空間ですね」


 と私が言うや否や、セイフィード様はすぐに花びらを開いてしまった。

もう少し、セイフィード様と狭い空間を楽しみたかったのに。

そして、すぐに一隻の小さな船が近づいてきた。


「ようこそおいで下さいました。魚のフライ、如何ですか?」


「2つ下さい」


 私達は、その船から揚げたての魚のフライを受け取る。

他にも小さな船が、個々の蓮の花を周り、色々な食べ物を提供している。

お肉の串揚げ、おつまみ、飲み物、果物、デザート、色々ある。

船が近づく度、私達は注文し、食べ物を受け取った。


「美味しいです。このお魚のフライ。熱々で、もう最高です」


「良かったな」


「こっちの、串揚げもジューシーで、ほっぺが喜んでいます」


 セイフィード様が突然、私の頬にキスした。

そして、嬉しそうに微笑むと、何もなかったように、セイフィード様は食べ始める。

また、突然、キスされた。

これで何回目だろうっ⋯⋯。

嬉しいけど、顔が火照って、ドキドキして、セイフィード様のこと見られなくなる。

頭の中も真っ白になっちゃうから、お話することもままならない。

⋯⋯⋯⋯私も、不意打ちキスを、セイフィード様にしてみたいな。

でも、身長差があるから、立っている時は難しい。

するなら⋯⋯、今だろうか。

でも、周りに人もいるし、ちょっと恥ずかしいような⋯⋯。

私が周りを見渡すと、他の人達は花びらを閉じている。

どうやら、みんな食べ終わると、花びらを閉じて2人だけの時間を過ごすようだ。


「セイフィード様、私達も食事が終わりましたし、花びら閉じましょうよ」


 セイフィード様はじっと私を見つめる。

私の考えが、見透かされそうだ。

けれど、セイフィード様は、何も言わずに、花びらを閉じてくれた。

そしてすぐに、セイフィード様は私を引き寄せ、後ろから抱きしめる。

びっ、びっくりした。

うん!?

でも、この体勢だと、不意打ちキスができない。


「そういえば、アンナ。この花は上に上がることもできるんだ。やってみるか?」


「はい。お願いします」


 どのくらい上に上がるんだろう。

全然、想像つかない。

ワクワクする。


「じゃあ、いくぞ」


 セイフィード様が花びらに魔力を当てると、花びらの何枚かがベルトのように私達をギュッと包む。

そして、次の瞬間、逆バンジーのように、ビューんと花の茎が伸び上がった。


「!!!!!」


 びっくりし過ぎて、声が出ないっ。

胃の中のものが出そうになるし。

花びらの隙間から下を覗くと、クラクラするぐらい高い位置にいることがわかる。

恐怖で体まで震えてくる。


「ククっ、すまない、アンナ。どうやら魔力が強過ぎたらしい」


 セイフィード様は、私が驚いたことに対して、とても面白かったらしく、声を出して笑っている。

本当は、もっとゆっくり上に上がるらしい。

セイフィード様でも、ミスすることもあるんだな⋯⋯、そのことがなぜか嬉しい。


「アンナ、下ではなく、上を見ろ」


「はっ、はい」


 私は、セイフィード様に言われるがまま、上を見た。

すると、私の目の前には、まん丸の大きな月が迫っている。

ここの月は前世の世界と少し違い、黄色ではなく、真っ白だ。


「わぁ、大きい。手を伸ばせば月まで届きそうですね」


「そうだな」


「あの、セイフィード様、私、セイフィード様のお母様と、お話ができて楽しかったです。またお見舞いに行くとき一緒に連れてって下さい」


「あぁ」


「それと、私、目標ができたんです」


「なんだ?」


「私、医術を研究しようと思います」


 セイフィード様は何か言いげな表情をする。

おそらく、魔力がない私には無理だと言いたいのだろう。


「私、帰ったら早速、医術系の学科を専攻できるか問い合わせてみます」


「恐らく、難しいと思うが、やるだけやってみればいい」


「はい」


「そろそろ、降りるか」


「⋯⋯⋯⋯あの、これ、降りる時はどんな感じなんでしょうか? まさかとは思いますが、落下するようなスピードじゃないですよね?」


「次は問題ない。ゆっくり下に降りられる」


 セイフィード様の言うように、お花はゆっくり下に下がる。

振動も、落ちている感覚も全くないので、ゆっくりと外の景色を眺めることができる。

セイフィード様の温もりに包まれながら、遠くの方の街の明かりが見ていると、心がとろけてしまいそう。


 結局、不意打ちキスはできなかった。

いや、まだチャンスはある。

フフフ⋯⋯、今夜こそ、私がセイフィード様をドキドキさせる番。

キスマークの仕返し、しちゃうんだから。


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