1、病院
祝賀会の翌日、私とセイフィード様は部隊を離れ、セイフィード様のお母様が静養している街へと向かう。
向かう途中、セイフィード様が魔法を使ってくれたお陰で、お昼過ぎには到着した。
この街は、どうやらセイフィード様の母方の領地で、そこに大きな病院がある。
その病院に、セイフィード様のお母様は入院している。
「セイフィード様、私、変じゃないでしょうか」
「アンナは、いつも変だぞ」
「違いますっ。私の服装が、変じゃないでしょうか? こんなことなら、キチンとした服装を持ってくるべきでした」
「気にするな」
気にするなと言われても、気にします。
緊張で、手が汗ばむ。
どうしよう⋯⋯、今更、婚約に反対されたら。
魔力がない嫁なんて、いりませんとか言われたら⋯⋯。
怖くなってきた。
でも、お花も購入したし、キスマークもスカーフで隠したし、大丈夫だよね。
セイフィード様は病院の受付を済ませると、勝手知ったる様子で、どんどん奥に進む。
遠巻きではあるけど、みんなセイフィード様にお辞儀をしている。
何故だろう。
「セイフィード様のこと、病院の人達みんな、知っているみたいですね。そんなに良く来ているんですか?」
「あまり来てないが⋯⋯、ネヴィリス家がこの病院を経営しているからな。俺のこと、知っていて不思議じゃない」
セイフィード様って、大病院の御曹司でもあったんだ。
知らなかった。
私達って、ほんと、格差婚。
いや、まだ、格差カップルかな。
そして、セイフィード様は、ある扉の前でピタリと止まる。
どうやら、セイフィード様のお母様の病室に着いたようだ。
「アンナ、申し訳ないが、俺はあまり母親に近づけない」
「なぜですか?」
「俺が近ずくと、発作が起きてしまうからだ。母親の病気は、魂が傷ついたことで魔力が暴走し、その暴走した魔力が自分自身を傷つけてしまうといものだ。今は魔法と薬で状態は安定してるが、強い魔力を持った人が近づくと干渉を受け、魔力が暴走しやくなる」
「そうなんですね⋯⋯」
「それと、母親の魂を傷つけた原因は、俺にある」
「⋯⋯⋯⋯」
原因は、聞けない。
けれど、セイフィード様が、傷つけたくて傷つけたんじゃないと思う。
それだけは、わかる。
「だから、アンナ。この扉を開けたら、アンナだけで俺の母親と話すことになると思うが、大丈夫か?」
「私は大丈夫です」
私は、セイフィード様をギュッと抱きしめ、慰めるように背中をさする。
自分の母親に近づけないなんて辛いだろうな。
何故、幼頃、もっとセイフィード様のこと、労われなかったんだろう。
自分の幼稚さに腹がたつ。
いつもセイフィード様を頼ってばかりで、私は何もしてあげられてない。
けれど、これからは少しでも、セイフィード様を支えられるようになりたい。
できるだろうか⋯⋯。
セイフィード様が扉を開けた。
その部屋は、とても広く、扉の先にも、薄く膜を貼ったような透明な壁がある。
その壁が、余計な魔力が入ってこないように遮断している。
私は大丈夫だが、魔力の高いセイフィード様は、その壁を通り抜けできない。
透明の壁の先には、セイフィード様のお母様が優雅なカウチに寝そべり、外の景色を見つめている。
カウチはベランダに置かれ、そのベランダから、敷地内にある美しい池を見渡せる。
私が、透明な壁を通り抜けると、セイフィード様のお母様が気づき、私を見る。
セイフィード様のお母様は、顔は青白く、髪の毛は色素が抜けてしまったような銀髪で、目はセイフィード様と同じくダークグリーンの儚げな美人だ。
「突然の訪問、お許しください。私はアンナ ・フェ・シーラスです」
「まぁ、貴方が。お会いできて嬉しいわ」
セイフィード様のお母様がふんわりと微笑む。
そして、セイフィード様に視線を向ける。
その視線は、何かを渇望するような切ないものだった。
「あの、良かったら、このお花どうぞ」
私は、色取り取りのガーベラの花束をセイフィード様のお母様に手渡す。
「素敵ね。まるで貴方のように元気で可愛らしいわ。そうそう、わたくし、貴方のことをアンナとお呼びしてもいいかしら。わたくしの娘になりますしね。私のことも、お母様と呼んでいただけると嬉しいわ」
「はい。お母様、アンナと呼んでください。あの、ここに座ってもいいでしょうか?」
「もちろんですわ、お座りになって色々お話ししましょう」
私はお母様の側に置いてある、椅子に腰掛ける。
セイフィード様の方をチラッと見ると、セイフィード様は腕を組み、壁によりかかりながら、私を優しく見つめている。
「あの、ご存知だと思うんですが、私、魔力がないんです。それでも、その、認めて頂けるのでしょうか、セイフィード様の婚約者として⋯⋯」
「セイフィードの、あんな穏やかな顔は初めて見ましたわ。それだけで充分、アンナはセイフィードにとって素晴らしい婚約者だとわかります。認めないはずがありません。それに、魔力が強ければ、魔力があったから幸せになれるというわけでもありませんしね」
「ありがとうございます。私、セイフィード様が幸せになれるように頑張ります」
「アンナは、そのままで、セイフィードの側にいて頂ければ、きっとセイフィードも幸せですよ」
「そうでしょうか⋯⋯。私、いつもセイフィード様に頼ってばかりなんです。だから私も何かセイフィード様のためにしたいんですけど⋯⋯、何も思いつかなくて⋯⋯」
「では、セイフィードのために、1つ、わたくしとお約束して頂けないかしら」
「なんでしょうか?」
「何があっても、セイフィードから離れないとお約束して下さい」
「はい。もちろんです」
「わたくしは⋯⋯、セイフィードを拒絶し、離れてしまいましたから。セイフィードは私の魂が傷ついた原因が自分にあると言ってませんでしたか?」
「はい。そう言ってました」
「それは、違うのよ。原因は誰のせいでもなく、わたくし自身にあるの。闇の精霊に祝福されたセイフィードをどうしても抱くことができなかったの。母親として、抱きしめたい、抱きしめなければいけない、けれど恐ろしくてできない、そんな毎日を過ごすうちに、私の心、魂は壊れてしまったの。私が弱すぎたのが全ての原因なのよ。本当に酷い母親だわ」
「そっ、そんなことは⋯⋯」
「いいの、慰めはいらないわ。アンナがセイフィードと一緒に居てくれるだけで、私の心は軽くなるわ」
「わかりました。私、何があってもセイフィード様と離れません」
「ええ、約束ですよ。必ず守ってね」
話がひと段落着くと、病院の先生が部屋を訪れ、魔法の治療を行うこととなった。
私とセイフィード様はお母様に別れを告げ、病院を出て、今日宿泊する宿に向かう。
その宿は、病院に隣接してあり、その病院を訪れる多くの関係者が利用する。
セイフィード様も、その宿の常連なので、受付を一人でし、私は外で待つことにした。
この街には、色々な池が多く点在し、その池は多くの人を引き寄せる。
虹の池には観光客が、癒しの池には静養目的の人達が多く集まる。
そのため、お土産屋さんも多くあって、私は覗いてみたかったが、セイフィード様と行き違いになっても嫌なので、宿の前のベンチで大人しく座って待つことにした。
今日は、セイフィード様のお母様に会えて、そして認めてもらえて、本当に嬉しい。
これからも、度々、お見舞いに来てもいいかな。
後で、セイフィード様にお願いしよう。
私がセイフィード様のためにできることは、一緒にいることだけなのかな⋯⋯。
そんなんじゃ、物足りない。
私も、医術を勉強してみようか。
そうしたら、セイフィード様の役に立てるかもしれない。
なんか、将来の目標が見えてきた気がする。
私が、自分の考えに興奮していると、目の前に人影が現れる。
セイフィード様だと思って顔あげると、ガラの悪そうな男性3人が私の目の前にいた。
「可愛いね、お嬢さん」
「俺たちと一緒に、遊ばない?」
「ねーいいでしょ」
これは、もしかしてナンパ!?
前世も含めて、生まれて初めてナンパされた。
貴族ぽい服装してないから、気軽に話しかけられたのかも。
これって喜んでいいのかな。
「私、あの、人を待ってるんです。だから一緒に遊べません」
「えー、つれないなぁ。そんな奴ほっといて、俺らと遊ぼうよ」
「そうそう、いい店知ってるんだ。楽しいよ」
「ご馳走してあげるからさ」
その男性の1人は、私の隣に座り、肩を組んできた。
さすがに、これはまずい。
セイフィード様に見られたら、何を言われるか分かったものではない。
「あの、私、もう行くんで、さようなら」
私は、肩に置かれた手を振りほどき、立ち上がって急いで、宿の中に入ろうとした。
しかし、1人に手を掴まれ、もう1人にまた、肩を組まれてしまう。
「やっ、やめて下さい。大声出しますよ」
「えー、そんなこと言わないで。さあ、行こう行こう」
引きずられるように歩き出そうとした次の瞬間、セイフィード様が宿から出てきた。
セイフィード様はすぐに私に気づき、わなわなと体を震わせ、殺気立つ視線を男性に向けた。




