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11、謝罪

 祝賀会会場につくと、そこにはもう大勢の人がいた。

祝賀会は立席形式で、みんなそれぞれ(にぎ)やかに話したり、寛いでいる。

会場中央奥には、立派な椅子が2つ置かれていて、恐らく公爵夫婦が座ると思われるが、まだ姿が見えない。

私達がその会場に入るとゾフィー兄様が気づき、近づいてくる。

私は、今回ばかりは、ゾフィー兄様に近づいて欲しくなかった。

だって、もし、ゾフィー兄様にキスマークを見られたりしたら⋯⋯、破廉恥な妹と思われ失望するに違いない。


「ごっ、ご機嫌よう、ゾフィー兄様」


「ご機嫌よう。私の可愛いアンナ。それにしても今日のアンナは、花のプリンセスのように優雅で麗しい。アンナからいい香りがしてきそうだね」


「ありがとうございます。ゾフィー兄様」


「⋯⋯? アンナ、どうしたんだい? 首を抑えて」


「あの、なんか、首を捻ったみたいで⋯⋯」


「セイフィード、これくらい治せるだろう?」


「えぇ、後で治します」


「そう、頼むよ」


 祝賀会の開始時刻に鐘が鳴り、執事が「これよりヴェルジーナ公爵、公爵夫人が入場されます」と皆に号令を掛けた。

その際、全員にシャンパンが配られる。

公爵夫婦は、腕を組みながら仲睦まじく登場し、中央奥に立つ。

そして、ヴェルジーナ公爵は喜々とした表情をし、皆を見渡し、声を発した。


「我々は、神託の乙女に祝福され、勝利の恵みを得た。今宵は、その恵を存分に享受し、楽しもうぞ。皆、大義であった。乾杯!」


「乾杯!」


 みんな、シャンパンが入っているグラスを高く掲げ、口をつける。

私も、口をつけ、飲もうとすると、セイフィード様の突き刺さる視線を感じる。


「一口、飲むだけですよ」


「怪しいな」


「そういえば、セイフィード様。神託の乙女って、私って、どうなるんでしょう? もしかして、凄い事になってしまうのでしょうか!?」


「別にどうにもならない。昔、調子に乗った神託の乙女が色々やらかしたからな。それ以降、あまり(たてまつ)らなくなったんだ。アンナも調子に乗るなよ」


 危うく、調子に乗りかけていた。

もしかして、凱旋パレードとかして、みんなに手を振たりするのかと、少し想像してしまった。

実際、そんなことになったら嫌だけど⋯⋯。


「私、公爵夫人に、ドレスの御礼を言いに行きます」


「俺も一緒に行く」


 公爵夫人は、私達が目の前に現れると、優しく微笑む。


「ヴェルジーナ公爵夫人、こんなに素敵なドレスを頂けて嬉しいです。有難うございます」


「気に入って頂けたようで嬉しいわ。⋯⋯⋯⋯。本当に御免なさいね。ルシウスが酷いことをしてしまって」


「先程、ルシウス様からも、謝罪して頂きました。だからもう、大丈夫です」


「⋯⋯⋯⋯、そう言って頂けて嬉しいわ。けれどルシウスには、当分、謹慎させます。夫も謝罪するべきですが、立場があるので、差し控えさせて下さい。私だけで許して下さいね」


「本当に、もう大丈夫です。気にしないでください」


「アンナは、お優しいのね。それと、首を抑えていらっしゃるけど、どうかされたの?」


「あの、ええっと、その、首を捻ってしまって」


 セイフィード様のせいで、皆んなに指摘される。

そのたびに、恥ずかしくて、顔が火照る。

セイフィード様は、私のそんな様子を見て、とても、嬉しそう。


「まぁ、それは大変だわ。治癒魔法ができる魔法使いにお願いしましょうか?」


「いえいえ、セイフィード様が、治してくれるそうです」


「確か、魔法長官の御子息でしたわね。ご活躍なされたとか。ご苦労様でした」


「有難うございます」


 セイフィード様は無表情で礼を述べた。

そして私達は、公爵夫人のもとを離れ、食事が置かれたスペースに行くことにした。

食事は、どちらかといえば庶民的な料理が大皿に盛ってある。

物凄く食べたいが、流石にこのドレスを着ながらでは、食べられない。

こぼして汚してしまったら、取り返しが付かない。

また今回の祝賀会は堅苦しくなく、みんな陽気にお酒を飲んだり、歌を歌ったり、カジュアルにダンスを楽しんでいる。

私まで、愉快になる。


「それで、セイフィード様、治して頂けるんですよね? 私もダンスしたいのに、これじゃあ出来ないです」


「アンナ、ダンス好きだったのか?」


「好きじゃないです。でも、セイフィード様とダンスしたかったです」


 まだ、私は一度もセイフィード様とダンスをしたことがない。

私はダンスが下手だから、積極的になれないけど、セイフィード様とは踊りたい。


「ふーん。しょうがないな」


 いきなり、セイフィード様は、私の手を取り、早足でどこかに行く。

どんどん歩き、とうとう城の外に出てしまった。

そして、月明かりが差し込む広場にでた。

そこには、誰もいなく、優しい風が肌をかすめる。

また、青白い月明かりが、セイフィード様のクールさを引き立てる。

なんて、セイフィード様は、カッコイイんだろう。


「ここなら、誰もいない」


 セイフィード様は、私の手を取り、私を引き寄せた。

そっと、私がセイフィード様の肩に手を置くと、セイフィード様は流れるように、ステップを踏み出した。


 セイフィード様って、ダンスがとても上手だ。

私まで、華麗にステップが踏める。

それに、セイフィード様だからか、安心して体を預けられ、疲れない。

ダンスって、こんなに楽しかったんだ。

いつまでも、踊っていたい。


 しばらくの間、踊っていたけれど、流石に疲れて私達は動きを止めた。

まだ離れたくなかった私は、ぎゅっと、セイフィード様に抱きつき、顔をセイフィード様の胸に埋める。

セイフィード様の胸の鼓動が聞こえる。

私は、セイフィード様の胸の鼓動を聞くのが大好きだ。

安心するし、心がぽかぽかしてくる。

この時が、永遠に続けばいいのに。


「セイフィード様と踊れて、私、幸せです」


「良かったな」


 セイフィード様も、幸せそう。

いつもに増して、優しい笑顔をしている。


「それで、いつ治して頂けるんですか?」


「⋯⋯⋯⋯。そうだ、アンナ。帰りに、俺の母親のところに寄るか?」


 セイフィード様は話をはぐらかした。

どうやら、キスマークを消してくれる気は、なさそう。

でも、とうとう、セイフィード様のお母様に会える。


「はい! 是非、セイフィード様のお母様にお会いしたいです」


「俺の母親が静養している街は、この前、アンナとオムレツを食べた街から近いんだ」


 ということは、セイフィード様と2人っきりでデートが出来ちゃうかも。

妄想が膨らむ⋯⋯。


「それは、駄目だよ。アンナ、セイフィード」


 突如、ゾフィー兄様から声を掛けられた。

ゾフィー兄様だけでなく、ラルフ隊長まで一緒にいる。

私は、急いでキスマークがある首筋を手で覆い隠した。


「ゾフィー兄様、ラルフ隊長、どうしたんですか?」


「ラルフ隊長が、アンナに用事があってね。だいぶ探したよ」


「ごめんなさい、ゾフィー兄様」


「セイフィードがアンナを振り回したのだろう。だから、アンナは悪くないよ」


「ゾフィー兄様、私が無理言ってここに連れてきてもらったんです。だから私が悪いんです。勝手に祝賀会を抜け出してしまってごめんなさい」


 ダンスして欲しいとお願いしたのは、私だし、悪いのは私だよね。

チラリとセイフィード様を見ると、セイフィード様はそっぽを向いている。

全く悪びれる様子がない。


「まあまあ、ゾフィー。彼女達は婚約者同士だろう。2人で抜け出したくなるさ」


 ラルフ隊長が助け舟を出してくれた。

いい人だ、ラルフ隊長って。

それにしても、月夜にイケメン3人、絵になる。


「しかし⋯⋯、まあ、今回抜け出したのはともかく、2人きりで隊を離れ、違う街に行くのは許さない」


「セイフィード様のお母様がいる街に行ってはいけないの? ゾフィー兄様」


「駄目だよ、アンナ」


「そんなに時間は掛かりません。恐らく隊と同じぐらいに首都に帰郷できるはずです。だからアンナと一緒に行くのを許して頂けませんか」


 セイフィード様がゾフィー兄様を真剣な表情で説得する。

しかし、ゾフィー兄様は険しい表情のままだ。


「駄目だ」


「ゾフィー、そう硬いこと言わずに、許してあげたらどうだ。それこそ、また2人で抜け出し、母親に会いに行くかもしれないぞ」


 またまた、ラルフ隊長が助け舟を出し、ゾフィー兄様を説得してくれる。

ラルフ隊長って、ほんと、いい人。

部下の信頼が厚いのも頷ける。


「お願い、ゾフィー兄様。私、どうしてもセイフィード様のお母様に会いたいの。お願いです」


「⋯⋯⋯⋯、はぁ。しょうがないな。わかったよ、アンナ。会いに行ってきなさい」


「ありがとうございます、ゾフィー兄様」


「セイフィード、わかっていると思うが、アンナに何かあったら許さないよ」


「わかっています」


「それで、いいかな。私はアンナに謝罪したい。ルシウスが酷いことをしてしまって、本当に申し訳ない。今後、このようなことは、ないよう努める」


 ラルフ隊長が頭を下げ、私に謝罪してくれた。

こんなにも、偉い人たちから謝罪されると、恐縮してしまう。

全く、ラルフ隊長は悪くないのに。

とても、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。


「あの、本当にもう大丈夫です。気にしないでください」


「ありがとう、アンナ。そう言ってもらえて良かった」


「では、会場に戻ろうか」


 結局、セイフィード様は、キスマークを消してくれなかった。

だから、私は祝賀中ずっとキスマークを隠すために首筋に手を当てていた。

そにせいで、みんなからジロジロ見られ、恥ずかしくって、居た堪れない。

もうっ、絶対に、セイフィード様に仕返ししてやるんだから。

私だって、ずっとやられっぱなしじゃない。

目には目を、歯には歯を、覚悟してくださいね、セイフィード様!



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