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4、伝言

 私が石よりも硬いパンを水に浸しながら、なんとか半分食べ終わった時、公爵家のメイドさんが私の部屋を訪ねた。


「ゾフィー様から伝言です。明日は朝5時に大広間にご集合するようにとのことです。また会議は長くかかるため、先に就寝するようにとのことです」


「わかりました。伝えて頂き、ありがとうございます」


「それと、セイフィード様から文を預かってきました。どうぞ」


「ありがとうございます」


 扉を閉め、急いでセイフィード様の文を読んだ。


ーーーーーーーーーーーーー

何かあったら、俺に言え

ーーーーーーーーーーーーー


 一言か⋯⋯⋯。

もっと、愛の表現というか⋯⋯⋯、”大好きだよ、アンナ” とか、 書いて欲しかったな。

でも、セイフィード様の性格からして無理だよね、そんなの。

まぁ、私も恥ずかしくて書けないけど。

やっぱり、セイフィード様に部屋のこと相談しようか⋯⋯⋯。

いやいや、やっぱり言えない。

部屋が汚いことぐらい大したことじゃないし。

それにしても、明日5時か~。

早起きしなければっ。


 次の日、私はまだ暗い中目覚め、支度をした。

朝食は、届けられず、仕方がなく持って来ていたお菓子で空腹を紛らわす。

集合時刻の15分くらいに前に、私は大広間に着いたが、誰もまだ居ない。

仕方がなく、私は集合時間になるまで、じっと待機したが、いくら経っても誰も姿を現さなかった。


 うーーん。

流石におかしいよね。

もう、集合時間過ぎているのに誰もいないなんて。

もしかして、集合場所を間違えたのだろうか⋯⋯⋯。


 私は念のため、違う場所を探し歩いたが、出会う人は公爵家のメイドさんだけ。

私は、メイドさんにゾフィー兄様の部屋を聞き、確認のため訪ねることにした。


コンコンっ。「アンナです。ゾフィー兄様いますか?」


「やあ、おはよう、アンナ。どうしたんだい?」


「集合が5時に大広間でって聞いたのに、誰もいないんです。どうしたのかなって思って⋯⋯」


「いや、集合時間は6時だよ。伝達ミスかもしれない。とりあえず部屋に入りなさい、アンナ」


「はっ、はい」


 またもや、ルシウスだな。

地味な嫌がらせ、しやがってっ。

私の担当メイドさんも要注意だな⋯⋯⋯、気を許しちゃダメだ。


 ゾフィー兄様の部屋に入り、私は愕然(がくぜん)とした。

ゾフィー兄様の部屋は、私の部屋と違って、清潔感があり、調度品も全て高級感がある。

お布団はふかふかだし、灯りは最新式の魔法ランプで部屋全体を明るく照らす。

さらに、テーブルの上には、ちょっとしたお菓子と果物が置いてあり、朝食も運ばれていた。

ゾフィー兄様はもう食べてしまって定かではないが、恐らく今日の朝食はパンに、スープ、ベーコンにスクランブルエッグ、ミルクと推測する。


「アンナ、紅茶いるかい?」


「はい。いります、すっごく飲みたいです」


 ゾフィー兄様は、温かい紅茶を淹れてくれた。

やっとホッとできる。

私の部屋には、水しかなかったから。


「ゾフィー兄様、お菓子食べてもいいですか?」


「もちろん、いいよ。好きなだけどうぞ」


 空腹には勝てず、テーブルの上にあったお菓子を私はペロリと平らげてしまった。


「そろそろ時間だし、行こうか、アンナ」


「はい! ゾフィー兄様」


 扉を開けると、セイフィード様が目の前を通り過ぎようとしていた。

セイフィード様は丁度、集合場所へ向かう途中だったらしい。

どうやら、セイフィード様の部屋は、ゾフィー兄様の部屋の隣の隣だったようだ。


「おはよう、セイフィード」

「おはようございます、セイフィード様」


「⋯⋯⋯⋯⋯おはようございます」


 セイフィード様は、ゾフィー兄様と私に目を向けると、返事はしてくれたが、ムッとし、すぐに立ち去ってしまった。

どうやら、セイフィード様を怒らせてしまったらしい。

ゾフィー兄様と私は兄妹なんだし、別に、やましいことなんてひとつもないのに。

でも、これで、セイフィード様と気まずくなってしまった⋯⋯⋯。

ルシウスの件もあるし、早めに仲直りしよう。


 私はゾフィー兄様の元を離れ、駆け足でセイフィード様に追いつき、腕を掴んだ。


「はぁ、はぁ、昨日の文、あっ、ありがとうございます」


「⋯⋯⋯⋯なぜ、ゾフィーと一緒にいたんだ? 何かあったら俺に言えと伝えたのに」


「それは、その、集合時間の確認でゾフィー兄様の部屋を訪ねたんです」


「一晩、一緒にいたのか?」


「いっ、いません。さっきゾフィー兄様の部屋に行ったんです」


一晩、一緒にって、なんかいやらしい表現。

例え、一晩一緒に居たとしても、兄弟なんだし、別に構わないと思うんだけど⋯⋯⋯。


 集合場所に行くと、さっきとは打って変わり、大勢の人がいた。

もちろん、ルシウスもいた。

ルシウスを見た途端、怒りがフツフツと沸き起こったが、冷静になるため、極力ルシウスを視界から外し、セイフィード様の影に隠れた。

セイフィード様も、何かを感じ取ったようで、ルシウスから私を隠すように立ってくれた。


 どうやら、今日は偵察が主らしい。

ヴェルジーナ公爵も、ルシウスも、同行する。

城を出て、前日に私達が入ってきた方向とは真逆の城壁を(くぐ)ると、大きな湿地帯が見えた。

その中央に、大きな青黒い巨大なスライムが居ついている。

巨大だとは聞いていたが、まさかこんなに大きいとは⋯⋯。

東京ドーム一個分くらいの大きさだ。

そして巨大スライムに近づくと、確かにスミレ、スミレと叫んでいる。


 討伐部隊の何人かが、馬を降り、巨大スライムに徒歩で近づく。

ラルフ隊長も、ゾフィー兄様も、セイフィード様も馬を降り、巨大スライムにギリギリまで近づいたが、全く攻撃してこない。

セイフィード様と、魔法騎士はそれぞれ何かの魔法を発動させた。

攻撃をしているわけではなく、大きさ、重さなどを計測しているようだった。


 私もこっそり馬車を降り、間近で見てみた。

なんでかわからないけど、巨大スライムが、前世で私を殺した変人だって私には、わかった。

一歩、一歩、近づけば近づくほど、巨大スライムの悲痛な叫びが、私の耳にこだまする。


「スミレ~、スミレ~」


 (うるさ)い、ほんと煩い。

前世の私の名前を呼ばないで。

呼ばれるたびに前世の記憶が、パパ、ママの思い出が、(よみがえ)る。

ずっと思い出さないようにしていたのに。

もう、呼ばないでっ。


「スミレ~、スミレ~」


 なんなの、いったい。

私が何をしたって言うのよ、なんで私は殺されなきゃいけなかったのよ。

なんで、変人もこっちに転生しちゃったの。

いやだ、もう⋯⋯⋯。


 私がもう、馬車に戻ろうとした瞬間、突如、大きな光が出現した。

どうやら、魔法騎士が試しに魔法で巨大スライムを攻撃したらしい。

スライムは痛みは感じるようで、大きな声で(うめ)いた。


 私はその光と、巨大スライムが発した呻き声によって、前世で、私が爆発で砕け散った瞬間を思い出した。

いやだっ。

私は腰を抜かし、膝をついてしまった。

体も震え始めている。

立てない、歩けない⋯⋯、情けなくて、目が潤む。

どうして、いつも私は、こんなにも不甲斐ないんだろう。


「大丈夫か、アンナ」


 セイフィード様が私に駆け寄り、私を支え立たせてくれた。


「ごめんなさい、私、怖くなってしまって⋯⋯」


 セイフィード様は私を支えながら、私を馬車に運んでくれた。


「もう、馬車から出るなよ」


「はい」


「まだ、調査に時間がかかるが、アンナは先に帰っているか?」


「⋯⋯⋯⋯大丈夫です。馬車の中にいれば大丈夫です」


「そうか、わかった。それと、ウー様から頂いたお守りを見せて欲しい」


「あ、はい。どうぞ」


 私はポッケの中にしまってあったお守りを出し、セイフィード様に手渡した。

セイフィード様はじっとお守りを見る。

私もつられてお守りを見た。

すると、お守りは今までとは違い、微かに光を帯びていた。


「スライムと、関係があるようだな⋯⋯⋯御神託が本当だったとはな」


 御神託……そんな仰々(ぎょうぎょう)しいものじゃない気がするけど。


「この御守りが、スライムを倒してくれればいいのに、持っていきますか?」


「いや、アンナがしっかり持っていろ」


「はい」


「辛くなったら、俺を呼べ。わかったな」


 そう言うと、セイフィード様は、すぐに巨大スライムの方に行ってしまった。






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