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2、隊長

私は、討伐に同行するため、荷造りをした。

討伐がメインなので、使用人の数は少なく、基本、自分のことは自分自身でやらなければならない。

歩きやすいブーツや、華美じゃない帽子、1人で着られる服装などを準備した。

あと、お菓子も。

討伐に参加するのに、私の心は、浮かれ、楽しい旅行にでも行く心持ちになっていた。


「私の可愛いアンナ、準備は万端そうだね」


「はい、ばっちりです。ゾフィー兄様」


「今回は、親衛隊の隊長も行くし、魔法騎士も同行するから、危険なことはないと思うけど、私から離れてはいけないよ」


びっくりしたことに、親衛隊の隊長、ラルフ隊長は、私が大嫌いなルシウスのお兄さんだ。

ただ、ルシウスと違って、部下から厚い信頼もあり、戦闘能力も高く、見るものを全て魅了してしまうほどの美しい男性だとか。

また、ゾフィー兄様に聞いたところによると、ルシウスのお母様は、隣国のお姫様で絶世の美女らしい。絶世の美女過ぎて、海に棲む太古の魔物に狙われて、仕方がなく生贄として捧げられようとした時、ルシウスのお父様が、その魔物を倒し、ルシウスのお母様を救い出した。

だから、ルシウスのお父様は、隣国では英雄と称えられている。

私だったら、そんな両親、凄すぎて嫌だ。

周りが優秀過ぎる環境の中、平凡に生まれてしまったルシウスを少しだけ、私は不覚にも同情してしまった。


討伐部隊は、総勢30人と小規模だが、みな精鋭な騎士ばかり。

もちろん、みんな攻撃魔法が使える。

魔法が使えなのは、私だけ⋯⋯⋯。

惨めだ。

どうか、足手まといになりませんように⋯⋯。


ラルフ隊長の合図とともに、巨大スライム討伐部隊は城から出発した。

私は、ラルフ隊長が、どんなにカッコいい男性なのか、もちろん確かめた。

ラルフ隊長は、あまりに美のオーラがありすぎて、少女漫画のように、美しい薔薇をまとっているように見えた。

もう、目を覆いたくなるぐらい輝いている。


そんなラルフ隊長と、ゾフィー兄様、セイフィード様が、3人並ぶと、まるで映画に出てくるようなイケメン三銃士に見える。

その3人がマントをたなびかせ、颯爽と馬に乗る姿はため息ものだ。

私はそんな3人の姿を馬車から、こっそり覗いている。

見ていて思ったけど、やっぱり、私は、セイフィード様が一番好き。

男ぽいし、なんと言っても影がある雰囲気がたまならなく好き。

そういえば、第二王子も同行するかと思いきや、奴隷売買の後処理で手一杯とのことだ。


討伐部隊の日程としては、中継地の街に一泊し、次の日にはもう、巨大スライムが居座っているヴェルジーナ公爵領に到着する予定だ。

中継地の街は美食の街として有名で、私は訪れるのをとても楽しみにしている。

特に、卵料理オムレツが有名らしい。

想像しただけで、お腹が鳴りそう。


私達は中継地の街に行くまで一回、昼休憩し、すぐに出発した。

まだまだ道のりは遠い。


「アンナ、少し急いで中継地まで行くよ。急がないと夜遅くに街に着くことになるからね」


ゾフィー兄様が私の馬車に近づいて、声を掛けた。

同時に馬車が揺れ、スピードが早くなる。

整備されていない道だから、小石にぶつかるたびに激しく揺れる。

なんか、とても気持ち悪くなってきた⋯⋯。

耐えろ、私。

そうだ、無心になるんだ。

気持ち悪いことを忘れ、無心になれ、私。

⋯⋯⋯⋯。

⋯⋯⋯⋯うぷっ。

ダメだ、気持ちが悪い。

窓開けて、外の空気を吸おう。

そうすれば少しは良くなるかもしれない。

窓を開けると、セイフィード様が真横にいた。


「アンナ、顔が青いな。気持ちが悪いのか?」


「だ、大丈夫です。セイフィード様。全然平気です。全く気持ち悪く、うぷっ、ありませんっ」


「相変わらず、嘘が下手だな。これを飲むといい」


セイフィード様は窓越しに、小瓶を渡してくれた。


「これは、なんですか?」


「酔いに効く薬だ。早く飲んだ方が、いい」


「ありがとうございます」


私は、小瓶に入っている薬を一気にグビっと飲んだ。

スッキリとしたレモンの味がして、口の中がさっぱりした。

そして薬が胃に染み込むと、胸のムカムカが取れ、気分が落ち着いた。

今まで気持ちが悪く感じていた馬車の揺れが、逆に揺りかごのように心地よく眠気を誘う。

私は、そのまま、ウトウトし眠りについた。


「アンナ、おい、アンナ、起きろっ」


セイフィード様が私の肩を揺らしながら声を掛けた。


「うっううん⋯⋯⋯ここ、どこ?」


「街についたぞ。早く馬車から降りるんだ」


「⋯⋯⋯⋯⋯えっ、もう」


「アンナ、早くしろ」


私は、ぼーっとしながら、なんとか馬車を降りた。

どうやら私が一番最後まで馬車に乗っていたようで、他の騎士達は既に馬から降り、今夜宿泊する宿にもう入っていた。

辺りはもう薄暗く、夕食時のようで、あちらこちらから、いい匂いが漂う。

そんな中、セイフィード様は私の荷物を持ち、私の手を引いて、私が泊まる部屋まで誘導してくれた。


「アンナ、今、夕食を持ってきてやる。明日も早くに出発するから、食べたらすぐにまた寝たほうがいい」


「私、自分で取りに行きます。いっぱい寝たので元気になりました」


「そのようだな。でも、俺が取りに行くから待ってろ」


「自分で行けますよ⋯⋯⋯」


「食堂は、男だらけなんだ。アンナが行ったら目立つからダメだ」


「わかりました⋯⋯。卵料理でしょうか?」


「確か、スープにパンだ」


「そうなんですね⋯⋯⋯。この街は卵料理が有名だって聞いて楽しみにしてたのに、ちょっと残念です」


何から何まで、私は、すっかりセイフィード様のお世話になってしまっている。

情けない⋯⋯⋯。

何か出来ることがあれば、と考えるけど変に動かない方が、迷惑かけなさそう。

私って、ダメだな。


セイフィード様は、すぐに戻って来たが、手には私の夕食を持っていなかった。

代わりに男性用の衣服を手に持っている。


「これに、着替えろ。卵料理のお店に連れてってやる」


「はわぁーーっ、嬉しいっ、嬉しいです。早く着替えますね!」


私はすぐに、男性用の衣服に着替えた。

でも、これってもしかして、セイフィード様の服?

心なしか、セイフィード様のいい匂いがする。

私ってば変態⋯⋯⋯。


「ぶかぶかだな」


「はい。でも、ローブを着れば分かりません」


私はローブについているフードを目深に被った。

これで、私の髪も見えないし、変装は完璧だ。


私達は、そっと誰にも気づかれないように、外に出ようとした。

ところが、行く手を塞ぐように、ゾフィー兄様が仁王立ちしている。


()()可愛いアンナを、どこに連れて行く気だ。セイフィード」


「ゾフィー兄様、わっ、私が、卵料理が食べたくって、セイフィード様に無理言って連れて行ってもらおうとしたんです。セイフィード様は悪くありません」


「では、私が連れて行ってあげるよ。アンナ、こっちに来なさい」


「⋯⋯⋯⋯私はセイフィード様と行きたいです。ごめんなさい、ゾフィー兄様」


()()アンナも、そう言ってるので、行ってきます。すぐに戻りますから心配いりません」


「⋯⋯⋯⋯⋯君のじゃない。まだ、私のアンナだ。⋯⋯⋯仕方がない、食べたらすぐに戻るように。わかったね、セイフィード」



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