1、無理
「痛い」
眼が覚めると、頭がズキズキしている。
なんで、こんなに痛いんだろう。
私は⋯⋯、昨日⋯⋯、カルバドスを飲んだんだ。
そのせいだ。
でも、私、ちゃんと寝間着に着替えられている。
ドレスが、しわくちゃにならなくて良かった。
「おはよう、シャーロット。昨日、カルバドスを飲んでから、あんまり記憶がないんだけど、大丈夫だったのかな?」
「いいえ、問題が大ありですわ」
「えっ⋯⋯?」
「アンナが、巨大スライムを倒すんだって息巻いてましたわよ」
「ええーーー。私が倒せるわけないのに、なぜ⋯⋯」
「ウー様からお守りを頂いたのでしょう。そのお守りが巨大スライム討伐に役立つと、アンナは仰ってましたわ」
なんとなく、思い出してきた。
そうだ、そうだ、巨大スライムは私の前世の名前“スミレ”を叫んでいるんだった。
いや、そんなことよりもっと最悪なことを思い出した。
私ってば、在ろう事か、セイフィード様にキスをねだった気がする。
あっちゃー、どんな顔してセイフィード様に今後会えばいいんだろう。
「でも、私、冷静に考えると、巨大スライム討伐なんて無理な気がする」
「えぇ、わたくしも、そう思いますわ。でも残念ながら、今度の討伐部隊にアンナも同行することに決まったわ」
「いっ、いつのまに⋯⋯⋯」
「アンナが寝入ってからすぐに決定しましたわ。その件で、ゾフィー兄様が朝早くに登城なさいましたわよ」
い、いやだ。
討伐部隊に同行なんて。
足手まといになること決定なのに。
それに、ウー様のお守りが役に立つか定かじゃないし。
「私が同行したくないって、言える状況だと思う?」
「難しいでしょうね。そうそう、セイフィード様のお父様が、ウー様のお守りを持って行かれましたわ。少し調べたいんですって。今日の午後、お返しできるそうよ」
私は、今日の午後、自らセイフィード様のお屋敷に行く事ににした。
セイフィード様に、謝らないと。
念のため、機嫌を取るためにケーキも準備しよう。
「ご、ご機嫌よう⋯⋯⋯⋯セイフィード様」
ガゼボにいるセイフィード様は、明らかに怒っている。
セイフィード様の周りから炎がメラメラと湧き出ているのを感じるぐらい、怒っている。
「あ、あの、ケーキ持ってきました。一緒に食べましょう」
「俺は、アンナに怒っているんだが、何故だかわかるか?」
「ごっ、ごめんなさい。私から、その、あの、キスをせがむようなことして、ほんと、ごめんなさいっ」
「そのことじゃない」
「⋯⋯⋯⋯? 他に私、何かしたのでしょうか? 少し酔ってしまって記憶が飛んでいるんです」
「少し⋯⋯、少しじゃなく、かなり酔っ払っていたぞ。アンナはもう酒禁止だからな」
「ごめんなさいっ」
「俺が怒っているのは、スライムの件だ。無茶なことはもうしないと約束したのに⋯⋯」
「ごめんなさい。まさか自ら名乗り出るなんて、自分自身にビックリしてます」
「いいか、今後、何かを決断する時には俺に相談してからにするんだ。わかったな」
「はい……、反省してます。⋯⋯⋯しばらくセイフィード様と離れ離れになってしまいますね」
「心配するな、俺も討伐部隊に同行する」
「えぇ、本当ですかっ。う、嬉しい~」
セイフィード様と一緒に行けるんだ。
これは、かなり嬉しい。
ウフっ、なんかこれって婚前旅行みたい。
何、着て行こうかな~。
「浮かれている場合か。今回行く場所は、ヴェルジーナ公爵領だぞ。わかってるのか?」
うん?
ヴェルジーナ公爵領⋯⋯、ヴェルジーナ⋯⋯⋯、どこかで聞いたことがある。
たっ、確か、ルシウスのフルネームはルシウス・ド・ヴェルジーナだったよね。
ま、まさか、今回行く場所って、ルシウスの実家なの!?
私とトラブルを何回も起こしたルシウス、私が大嫌いなルシウス、そのルシウスの実家に行くことになるなんて。
嫌だっ、嫌すぎる。
絶対にイヤだーーーー。
って、なんでセイフィード様は、私がルシウスのこと嫌いだって知ってるんだろう。
やっぱり、あの時の犯人をセイフィード様は知ってるんだな。
「嫌です、私、行きたくないです。絶対に無理っ」
「今回は無理だな。国王の承諾が降りてしまったから」
「仮病とか⋯⋯⋯?」
「どうしても、無理だったら仮病でも、なんでもすればいいさ。ただ、俺は行くけどな」
「⋯⋯⋯じゃあ、私も行きます」
ルシウスはかなり嫌だけど、セイフィード様と離れ離れになるのも嫌だ。
今回は、絶対に、ルシウスだけとは関わらないようにしよう。
「それと、アンナの大好きなゾフィー兄様も一緒に行くぞ」
やった!
ゾフィー兄様も一緒なら鬼に金棒だ。
スライムは、確か攻撃してこないって、言ってたし、ゲリーより楽勝なんじゃないかな。
セイフィード様が私に今回の討伐について、詳しく説明してくれている時、セイフィード様のお父様がガゼボに姿を見せた。
「やぁ、アンナ。昨日は実にいい晩餐会だったね。早速だが、ウー様の御守りを返しておくよ」
「はい。ありがとうございます。この御守りについて、何かわかりましたでしょうか?」
「いや、全くわからなかった。ただ、これは人間界で作られた物ではないことは判明した」
「昨日は大見得を切りましたけど、もしかすると、巨大スライムに、なんの効果もないかもしれません」
「まぁ、我々もそこまで当てにしてないから、大丈夫だよ。ちゃんとスライムを倒す作戦を考えている。その為に、セイフィードが今回の討伐に参加するんだ」
それから、私達3人で、私が作ったバナナケーキを食べた。
もし、結婚したら、こういう風に、皆んなでケーキ食べてお茶することが、多々あるのかな。
幸せ。
でも、セイフィード様のお母様のことが、引っかかる。
なんとなく、お母様について、触れてはいけない雰囲気があるから、誰にも詳しく聞けない。
いつか、セイフィード様、話てくれるだろうか。
そして、お母様に挨拶できる日が来るだろか。
4人で、ケーキが食べられたら、幸せなのに。




