12、念願
「コホンっ。お熱いところ邪魔しちゃって申し訳ないね」
第二王子がシャーロットを連れ立って私達の所に合流した。
私達のキスシーン、第二王子とシャーロットに、見られてないよね。
大丈夫だよね。
シャーロット、私と目線合わせてくれないけど⋯⋯⋯。
「何のようですか?」
セイフィード様は少しムスっとしながら、第二王子に質問をした。
「オリヴィアとゲリー達の件を話しておこうと思ってね。気になっていただろう」
私とシャーロットは庭園のベンチに座り、第二王子とセイフィード様は私達の前に立って話をすることにした。
その際、セイフィード様も、第二王子も、上着を私達に羽織わせてくれた。
2人とも、こういうことをスマートに出来ちゃうあたり、紳士で貴族だわ⋯⋯。
「驚いたことに、ゲリーが全て自供した⋯⋯。ネックレスに録音されていた会話を聞かせたら、あっさりと観念し、罪をみとめたよ。今まで悪事に加担した全員の名前をペラペラ喋ったんだ」
「それで、ゲリーの処遇は決まりましたか?」
「ゲリーも、ゲリーの仲間達も、全員、打ち首だ」
ゲリーには、忠誠心とか仲間意識とか皆無なんだろうな⋯⋯。
だから、ゲリーと関わった人達を同じく道ずれにして、地獄に落とすんだ。
⋯⋯⋯でも、ゲリーって、地獄に行っても悪さしそう。
「オリヴィアは、どうなりましたか?」
「オリヴィアだが⋯⋯⋯、彼女は貴族だからな。資産没収の上、平民に降下することが決まった」
オリヴィア様には、いっぱい嫌なことされたけど⋯⋯なんか後味が悪い。
オリヴィア様はお父様も亡くされたし⋯⋯。
はぁっ⋯⋯⋯。
でも、私はオリヴィア様に同情しちゃいけないんだ。
シャーロットを殺そうとしたオリヴィア様を許しちゃいけないんだっ。
「これで、俺の念願だった、この国の奴隷売買を撲滅できそうだ。セイフィード、アンナ、シャーロット、礼を言う」
「⋯⋯⋯しかし、まだウォーレンがいます」
セイフィード様が険しい表情をして言葉を発した。
ウォーレン⋯⋯⋯、あっ、魔法陣学助手のジークさんの本名だ。
そっか⋯⋯⋯ジークさんっ、じゃなくウォーレンさんは第二王子を殺そうとしてるんだもんね。
ウォーレンさんには、私、いっぱいお世話になったから複雑だな⋯⋯⋯。
「そうだな。ウォーレンは貴族全員恨んでいるからな⋯⋯。また何かしらしてくるだろう」
第二王子は話がひと段落すると、美味しいお菓子とカルバドスを手土産に持ってきたから中に戻って食べようと提案した。
カルバドスは、林檎のお酒で、紅茶に数滴入れて飲むと、リンゴの香りが鼻をくすぐり、芳醇な紅茶を楽しめる。
おそらく紅茶好きのシャーロットのことを思ってカルバドスを持ってきたに違いない。
私達が部屋に戻ると、第二王子が手土産に持って来てくれたお菓子が、用意されており、紅茶も準備されていた。
そのお菓子は、果物を砂糖漬けにしてあり、イチゴ、林檎、みかん、色とりどりで種類が多く、まるでキラキラと散りばめられた宝石のようだ。
「わぁぁぁぁー。素敵っ。食べるのが勿体無いくらい」
「アンナ、本当ね。ずっと飾っておきたいわ」
と言いつつ、私もシャーロットも、一口づつ、そのお菓子を堪能した。
私が食べたのはイチゴの砂糖漬け。
甘くて、ほのかに酸っぱくて、満面の笑みになっちゃう美味しさだ。
またシャーロットは紅茶にカルバドスを数滴垂らし、美味しそうに紅茶を味わっている。
他の人も、カルバドスを入れて、林檎の香りを堪能している。
私も、みんなに習ってカルバドスを紅茶に垂らしてみた。
「ドボッン」
なんか、嫌な音がした⋯⋯⋯。
紅茶の水位も高くなり、今にも溢れそうになっている。
数滴じゃなく、大量にカルバドスが私の紅茶に入った気がする。
でも、第二王子から頂いたものだし、飲み干さないと⋯⋯⋯やっぱりダメだよね。
私は意を決して一口、その紅茶を飲んでみた。
おっ、おいしい~。
なにこれ、紅茶が数倍まろやかになって、林檎のさわやかな香りがして、最高に美味しい!
私は、美味しくて、グビグビその紅茶を飲んだ。
「気に入ってもらえたようで、良かった。それで、セイフィードとアンナはいつ頃、結婚するんだ?」
第二王子は、答えにくい質問を躊躇することなく私達に質問した。
その質問に答えたのは、ゾフィー兄様だった。
「まだまだ、セイフィードも、アンナも若いので、当分、先でしょう」
「⋯⋯⋯⋯俺は、別にすぐにでも構いません」
「だけど、持参金もやっぱり持たせてあげたいし、結婚はやっぱりすぐにってわけにはいかないよ」
「⋯⋯⋯持参金については解決したはずです」
「そうだけどね。やっぱり兄として持参金を用意したいんだよ」
なぜか、ゾフィー兄様とセイフィード様が険悪な雰囲気で言い争っている。
私も相当ブラコンだけど、ゾフィー兄様も、シスコンだったんだろうか。
⋯⋯⋯⋯それにしても、なんだか体が熱い。
お酒のせいだろうか、気分も高揚して、決して面白い状況じゃないのに、愉快になってきた。
顔も、なんとなく⋯⋯緩む。
「それに、セイフィードは学校を卒業したら、魔法騎士団に入団するのだろう。もし入団したら2、3年はとても忙しいから、アンナに寂しい思いをさせる」
「まだ、魔法騎士団に入団するとは、決まっていません。それに、結婚を先延ばしにする方が、アンナに寂しい思いをさせるかもしれません」
「そんなことはない。アンナには私がついているからね。心配しなくても大丈夫だよ、セイフィード」
「親衛隊の方が、忙しいと思いますが⋯⋯⋯」
「ゾフィーに、セイフィード、そのくらいにしとくんだ。結婚の時期についてはセイフィードとアンナで決めればいい」
第二王子は最初、2人のやり取りを面白おかしく見守っていたが、収まるどころか白熱しそうだったので、2人をなだめ、なんとかその場を納めた。
そして、第二王子は話題をかえるために突然、セイフィード様のお父様、魔法長官に話を振った。
「そういえば、巨大スライムの件、どうなった?」
「えぇ、それが収束するどころか、ますます大きくなるばかりで⋯⋯」
魔法長官曰く、以前魔物が出現した際に討伐から逃れたスライムがいて、そのスライムは湿地帯に居座っているため、湿地帯の水をどんどん吸い込み、巨大化してしまったとのことだった。
その巨大スライムを、退治しようと攻撃しても、些細な傷はすぐに湿地帯の水を吸収して回復してしまうとのことだった。
「なんとか、倒せないだろうか。確かその巨大スライムは攻撃を一切してこないんだろう?」
「えぇ、珍しいことに攻撃されても、一切、攻撃して来ません。ただ、湿地帯の水を吸い込み、巨大化するばかりです。ただ、これ以上、巨大化すれば街をも飲み込んでしまいます」
どうやら、その巨大スライムは遠く離れた国境にある湿地帯に居座っており、徐々に近くにある街を飲み込もうとしているらしい。
ただ、国境近くの重要拠点なので、早期に解決しろと、王様に指示されているとのことだ。
「変なスライムだな」
「えぇ、変といえば、そのスライムの鳴き声が変なのです。“スミレ~”、“スミレ~”と鳴くのです」
⋯⋯⋯⋯うん!?
スミレって、まさか、私の前世の名前じゃないかっ。
いや、聞き間違えかも。
お酒飲んだから幻聴が聞こえてきたのかも。
きっと、そうだ。
「“スミレ”という言葉を、色々な言語で調査したのですが、該当するものがなく、何を意味してるのか不明なのです」
魔法長官は再度、“スミレ”と言葉を発した。
やっぱり、スミレってそのスライムが言ってるんだ。
まさか⋯⋯⋯、前世で私を殺した変人がこっちでスライムに転生したのだろうか。
物凄くありえる。
私を転生させたウー様も気になることがあるって言ってたけど、このことかもしれない。
あの、変人め~~っ。
許せん!
私が、退治してやる!
「私、その巨大スライム、退治しましゅっ」
私は大きな声で宣言した。
同時に、セイフィード様は頭を抱えた。
第二王子は笑いを堪えている。
「クククっ、アンナ、どうやってその巨大なスライムを倒すんだ?」
「ええっと⋯⋯⋯どうやって倒すかは⋯⋯⋯、わかりましぇん。けど、ウー様にお守りを頂いていて⋯⋯⋯⋯、そのシュライムと関係がありしょうなんです⋯⋯」
なんでだろう、うまく呂律が回らない。
頭もボーーっとして、瞼が重い。
「御神託かっ。アンナ、そのお守りを見せてくれ」
「ええっと⋯⋯⋯、確か⋯⋯⋯、わたしゅの部屋に、あります」
「セイフィード、アンナを部屋に連れて行って休ませるんだ。その際、お守りを持って来い」
セイフィード様は、私を抱き上げ、メイドに案内されながら、部屋まで私を運んでくれた。
私はその際、まじまじと、セイフィード様の顔を近距離で見つめた。
セイフィード様って、最高にイケメン。
肌もツヤツヤしちゃって、目なんかとってもセクシー。
それになんかいい匂いする。
なんて、心地いいんだろう。
部屋に着くと、セイフィード様は私を優しくベットに下ろし、寝かせてくれた。
「ありがとうございましゅっ、お守りは⋯⋯ええっと、たしかぁ、その棚の上にあります」
「わかった。少し借りるぞ」
「はぁ~いぃ」
「じゃあなっ」
「⋯⋯⋯セイフィードさま、もう一度、キシュしてください」
「この状況をよく考えろ」
私は、念のため、キョロキョロと辺りを見渡した。
もちろん、誰もいなかった。
「誰も、いましぇんよ」
「そういう問題じゃない」
「もう一度、しゅてくださいっ。だって、さっきは、突然すぎて⋯⋯⋯、んっ」
私が話している途中に、セイフィード様は私にキスしてくれた。
し、幸せ⋯⋯⋯。
私は、その後の記憶は全くなく、深い眠りに落ちた。




