10、特許
「すぐに、オズロー男爵の令嬢、オリヴィア・フォン・オズローを拘束するんだ」
第二王子は、セイフィード様から録音機能があるネックレスを受け取ると、騎士を数人呼び寄せ、様々な命令を下した。
命令を受けた騎士達は、オリヴィア様を探しに行ったり、リーフセラーの瓦礫を撤去したり事態の収拾に動き出した。
私達は、その様子をジッと見ていたら、第二王子が私達に声を掛けた。
「セイフィード、アンナ、シャーロット、ご苦労だったな。ここからは俺と騎士らで解決する。そうだ、アンナ、せっかくだから食事をしていくといい、美味いぞ」
第二王子はそう言うと、騎士達に混じり、颯爽とどこかに行ってしまった。
「わたくしたちは、とりあえず⋯⋯、ティールームに戻りましょうか」
「うん。なんか、私って、みんなから食いしん坊だと思われているのかな⋯⋯」
「実際、食いしん坊だろ」
セイフィード様が、私のお腹辺りを見ながら、私をからかった。
私達は、戦いに勝利したせいか、テンションが高めで浮かれながら、ティールームまで歩いた。
私達が、ティールームに着くと、私がさっきお願いした料理が運ばれて用意されていた。
少し冷めてしまっているけど、本当に美味しそう。
湖で取れた魚料理で、トマトとオリーブオイルで調理されているようだった。
また、リーフセラーが半分吹き飛んだというのに、ティールームは、至って平和な雰囲気だった。
「わぁー、美味しそう。セイフィード様とシャーロットも何か料理を注文してきたら?」
「俺が、何か注文してくる。シャーロットはここにいるといい」
「セイフィード様、ありがとうございます。お言葉に甘えますわ、よろしくお願い致します」
私は、セイフィード様がいなくなると、シャーロットに聞きたかったことを質問した。
「ねえねえ、シャーロット。いつ、セイフィード様からネックレス貰ったの?」
「今朝早くに、セイフィード様の執事が届けてくださったわ。それとアンナ、貰ったわけじゃなくてよ」
「そっか⋯⋯⋯、別に妬いているわけじゃないからね」
「えぇ、わかっていますわ」
「それに、もうセイフィード様のこと⋯⋯⋯、闇の精霊が苦手じゃなくなったの?」
「もう⋯⋯⋯、さすがに慣れましたわ」
「そうなんだ!良かったぁ」
私は、心底嬉しかった。
これで、みんなとケーキ食べたり、一緒に勉強したりできるかも!
人数多い方が、やっぱり楽しいことの方が多いし。
私達は楽しく、おしゃべりをしていたら、ティールームに入ってくる人影が見えた。
セイフィード様が戻ってきたと思って振り向いたら、オリヴィア様が恐ろしい形相をし、息を切らせながら立っていた。
「はぁっ⋯⋯⋯、はぁっ⋯⋯⋯⋯。わたくしを嵌めたのは、あなた達ねっ」
オリヴィア様は私達を指差し、大股で近づいてきた。
ティールームにいた人全員がオリヴィア様を凝視した。
「許さないわ、絶対に許しませんことよっ」
オリヴィア様は手に持っていた何かを私達のテーブルに叩きつけた。
その叩きつけた物から、モクモクと煙が湧き出た。
恐らくそれは、ゲリーが持っていたワープする魔法道具と同じものだと思うが、離宮全体に魔法がかかっているため、オリヴィア様も私達も、ワープしなかった。
「どっ、どうしてっ⋯⋯⋯」
オリヴィア様は激しく狼狽した。
その時、セイフィード様と騎士らが、ティールームに駆けつけた。
「オリヴィア、そこまでだ」
セイフィード様がオリヴィア様を責め、近付こうとした。
「⋯⋯っ、近付かないで頂戴!」
「⋯⋯⋯大人しく、投降するんだ」
「私は、何もしていない、何も悪くないわっ」
「だったら、尚更、大人しく投降しろ」
「⋯⋯⋯⋯⋯いいわ。お父様が必ず、わたくしを解放してくださるわ」
オリヴィア様は私達を睨みつけ、セイフィード様を避け、騎士達の所へ足を進めた。
騎士はオリヴィア様には特に縄を掛けず、連れ立って移動した。
私はオリヴィア様が、正直、怖かった。
もし、オリヴィア様が無罪になったら、また私に何かしてくるんじゃないかと思うと、とても怖くなった。
「大丈夫だ、アンナ。何があっても俺が守るから⋯⋯」
セイフィード様は私の恐怖心を察知したのか、安心させるように私の頭を優しく撫でてくれた。
「ふぅ、せめて紅茶の一杯は頂いて帰りましょう。わたくし、紅茶を頂けるようにお願いしてくるわ」
シャーロットは立ち上がり、ティールームのメイドさんの所にお願いをしに行った。
テーブルの上の料理は、オリヴィア様が変なものを投げつけるから、滅茶苦茶になってしまっている。
さすがの私でも、食欲が失せてしまった。
シャーロットも、セイフィード様も同じく食欲が失せたに違いない。
セイフィード様はシャーロットがいなくなると、私の隣の椅子に腰掛け、足を組み、気怠い表情を見せた。
私は、疲れ気味のセイフィード様に、申し訳なく思いながらも質問をした。
「⋯⋯⋯⋯オリヴィア様、無罪放免になったりしませんよね?」
「それは、ないだろう⋯⋯。アンナが考えた音や人の声を保存できる魔法陣は、既に特許申請しているんだ。それが承認されれば、ネックレスに保存してある音声も証拠として有効になるはずだ」
「早く、承認されて欲しいな⋯⋯⋯」
「すぐに、承認されるさ。承認するのは、俺の父親、魔法長官だからな」
「それは⋯⋯、すごいコネですね」
「そうだな。あぁ、特許の発明者はアンナで申請したから」
「ええぇーーっ、何でですか?」
「⋯⋯⋯発明したのはアンナだろう」
「それは⋯⋯⋯、あの、はい、そうです」
前世の録音機器を発明した偉人さん、ごめんなさい。
こっちの世界では私が発明者になってしまいました⋯⋯⋯、前世の知識をパクっただけなのに⋯⋯。
でも、私が書いた録音の魔法陣は、不完全なはず⋯⋯。
それを一瞬で見抜き、改良したセイフィード様って、やっぱり天才だ。
「これで、特許料がアンナに入るぞ。持参金なんて目じゃないくらいのお金が入るはずだ」
「⋯⋯⋯⋯あっ、セイフィード様、ごめんなさい。私、持参金が無くて⋯⋯ごめんなさい」
「だから、アンナには持参金以上のお金が今後手に入るんだ。そもそも、アンナは持参金なんて気にしなくていいんだ」
「どうして、私が持参金のこと気にしてるって知ってるんですか?」
「アンナの大好きなゾフィー兄様から、俺は直接、嫌味を言われたんだ。アンナが持参金を気にしてるから、用意できるまで結婚は待って欲しいってね。どうやらアンナのために持参金は貯めていたらしいがまだ充分じゃないようだ」
「ゾフィー兄様が⋯⋯⋯、私のために⋯⋯⋯」
嬉しい。
ゾフィー兄様が、私のために色々考えてくれていたんだ。
ゾフィー兄様、大好き!
「⋯⋯⋯⋯そんなの待っていたら、いつになるかわからない」
セイフィード様は小さな声で、ボソッと呟いた。
「⋯⋯⋯? な、なんて言ったんですか?」
「何でもない。とにかく、アンナは余計な心配はしなくていいんだ。わかったかっ」
「⋯⋯⋯⋯わっ、わかりました、セイフィード様」
本当に、録音の特許で、私にお金が入るんだろうか⋯⋯⋯。
いいのかな、私が貰っても。
発想は私⋯⋯じゃなく前世の偉人さんだし、その発想をキチンと実現できたのは、セイフィード様なんだから、セイフィード様が貰うべきお金じゃないんだろうか⋯⋯⋯。
私達の話がひと段落した時、シャーロットがメイドさんを連れて戻ってきた。
メイドさんは、私達のテーブルの上を綺麗にし、紅茶を注ぎ入れてくれた。
紅茶の匂いに、ようやく私もホッと一息できた気がした。
「ふぅ、なんかすっごく疲れたー」
「そうね、アンナ、囮、お疲れ様でした」
「⋯⋯⋯私、囮にならなかったね。結局何も役に立たなかった」
「そんな事はない」
「そんな事は、ないですわっ」
セイフィード様とシャーロットが同時に声を発した。
「⋯⋯⋯⋯でも、シャーロットが囮になったようなものだし。初めから私じゃなくシャーロットが囮の計画だったんですか?」
「いや、そんな事はないが⋯⋯⋯はっきり言うと、どう攻めてくるかわからなかった。だから対応策を色々と講じたんだ」
「シャーロットが起こした爆風って、もしかして⋯⋯⋯、」
「そうですわ。セイフィード様が施してくれた魔法道具を口の中に入れてましたの。とても嫌でしたけど⋯⋯」
「そうなんだ⋯⋯⋯。私にも色々教えおいて欲しかったな⋯⋯⋯」
「それは、無理だな。アンナはすぐに顔に出るから」
「そうですわね」
⋯⋯。
⋯⋯⋯⋯。
ふーーーんだ。
セイフィード様とシャーロット、なんか、息ぴったり。
ふーーんだ。
ふーーーーんだ。
「今、アンナは不貞腐れてるわ。わたくしたちが仲がいいから」
「あぁ。アンナはすぐわかる」
「べっ別に、不貞腐れてなんかないですっ」
私は顔を隠すようにして、紅茶を飲んだ⋯⋯⋯。
そんなに私って顔に出るのかな。
でも⋯⋯、もっと私も役に立ちたかったな。
魔力があったら⋯⋯、シャーロットみたく役に立ったんだろうな⋯⋯。




