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ファンタジーな世界に転生したのに魔法が使えません  作者: 花が咲く
第5章<恋敵オリヴィア様>
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3、黒猫

 私、セイフィード様に何をプレゼントしよう⋯⋯。

というか、何をプレゼントできるんだろう。

刺繍なんて下手すぎて論外だし、愛の詩とかプレゼントしたら、セイフィード様、絶対に腹抱えて笑いだすに違いない。

あとは私のお小遣いの範囲で、セイフィード様にあげられる物と言えば⋯⋯⋯、ペンも意外に高いし⋯⋯⋯、うーーーん⋯⋯⋯。

悶々と考え込んでいたら、突如、1匹の黒猫が私の方向へ歩いてくるのが見えた。


私は、食べ物を一旦、側にあったテーブルに置き、パンの端を少しちぎり、そっと黒猫に近づいた。


こっちの世界にきて、私は初めて黒猫を見た。

三毛猫とか、トラ猫は見たことあるけど、黒猫は初めて。

前の世界では、私のおばあちゃんが猫好きだからか、私も自然と猫好きになった。

特に、生意気そうな猫の目つきがたまらなく好き。


私はその黒猫に餌をあげようと、(かが)み、そっとパンのかけらを差し出した。


「猫ちゃん、おいで、おいで、パンだよ」


すると黒猫は驚いたのか、一瞬固まり、私に視線を向けた。

その黒猫の顔には傷がある。

猫同士、喧嘩したのかな⋯⋯、すごく痛そう。


「ねこちゃん、顔の傷どうしたの、喧嘩でもしたの?」


私は黒猫に声をかけ、撫でようと手を伸ばした。

しかし、黒猫はシャーと威嚇(いかく)し、すぐにどこかに逃げてしまった。

あ〜ぁ、黒猫抱っこしたかったなぁ。

私は食べ物を再度抱え、セイフィード様の元へと急いだ。


「セイフィード様、お待たせしました」


「すごい量だな」


やっぱり、食べ物を欲張り過ぎて、多く取り過ぎてしまったんだ。

オリヴィア様から(さげす)まれても、当然だったのかも。


「オリヴィア様にも、同じこと言われちゃいました」


「オリヴィアがいたのか……もう関わるなよ」


「私は、関わらないようにしたのに⋯⋯」


「アンナは、隙だらけなんだ、もっと警戒しろ」


「⋯⋯はい。あ、ここに来る途中、黒猫に会ったんです。でも、顔に怪我していて。パンあげようとしたのに、すぐに逃げちゃいました」 


黒猫の話をセイフィード様が聞いた途端に、セイフィード様の表情はみるみる険しくなり、何か考え始めた。


「どんな、傷だった?」


「えぇっと、頬辺りに斜めに傷がありました」


私の返事を聞くと同時に、セイフィード様は呪文を唱える。


『シ・メーゼ・我に道を示せ』


「セイフィード様、どうしたんですか?」


「黒猫を追う、アンナはここで待っていろ」


「はっ、はい」


「いや、やっぱり一緒に来い。アンナを1人にすると何をしでかすか、わからないからな」


「は、はい。⋯⋯⋯⋯⋯黒猫、そんなに好きだったんですか?」


「違う。いいから、黙ってついてこい」


私は黙ってついて行こうとしたのに、私のお腹はまたぐぅーっと鳴ってしまった。

はっ、恥ずかしい。

セイフィード様は(あき)れ、私にサンドイッチを握らせる。


「食べながら、歩くんだ」


「はい⋯⋯」


だって、しょうがないじゃない。

美味しそうな食べ物が目の前にあるんだもの。

お腹ぐらい鳴ってしまう。

でも、シャーロットもそうだけど、なんで貴族の人達は少ししか食べないのに、お腹が鳴らないんだろう。


私はサンドイッチを頬張りながら、セイフィード様に手を引かれ、遅れないように必死に歩いた。

セイフィード様は、チャリティーイベント会場を離れ、どんどん人気がない細い路地に歩みを進める。

私がサンドイッチをペロリと1つ食べ終わった時に、突然、セイフィード様に後ろから抱きしめられ、口を塞がれ、物陰に引きずり込まれた。


「声をだすな。黒猫を見つけた」


セイフィード様は私の耳元で囁く。

あーびっくりした。

突然なんだもん。

セイフィード様、私を抱きしめるのは全然構わないんだけど、いや嬉しいくらいなんだけど、もうちょっと手の位置、下にしてくれないかな。

身長差があるからか、セイフィード様の手の位置が、私の胸に近い⋯⋯、というか胸に触れている気がする。

1人でドキドキしちゃうんだけど⋯⋯。


私とセイフィード様は、体を小さく屈め、物陰からこっそり黒猫がいる方向を覗き見る。

そこには、黒猫とオリヴィア様、ハンチング帽を深く被る伊達男がいた。

オリヴィア様は黒猫の方に向かって何か、話をしている。


「⋯⋯⋯⋯⋯⋯では、よろしくお願いしますわね」


オリヴィア様の話がひと段落したら、黒猫はすぐにどこかへ行ってしまった。

オリヴィア様⋯⋯、どうしたんだろう。

黒猫に人間と話をするように、話掛けていたけど⋯⋯。

謎だ⋯⋯⋯。


黒猫がいなくなると、今度は伊達男が、オリヴィア様に話をし出した。


「そんなことまでして、あの魔法長官の息子、セイフィードと結婚したいのか?」


「えぇ、そうですわ。わたくし、一度欲しいと思ったものは、何が何でも手に入れないと気が済みませんの」


「うへー。確か、そいつって闇付きだろ?  物好きだな」


「あら、誰がセイフィード様が欲しいと言いましたかしら」


「は? あんなに楽しそうにダンスしてたじゃないか」


「⋯⋯⋯⋯、あの時のことを思い出すと鳥肌が立ちますの。思い出させないで頂きませんこと」


「⋯⋯? じゃあ、なんで奴と結婚したいんだ?」


「わたくしはネヴィリス家の名誉、伝統、財力が欲しいのですわ」


「なるほどな。でも、どうするんだ、もしうまく結婚できたとして、闇付きと子作りできるのかよ」


「その時は、またあなた達に協力してもらいますわ。偽装工作、お得意でしょう」


「大した女だな、お前は」


伊達男がオリヴィア様にそう言うと、オリヴィア様の腰を引き寄せ、濃厚なキスをした。

キスをし終わると、オリヴィア様は伊達男に手を振りながら去って行った。

伊達男も、オリヴィア様とは違う方向に歩きいなくなった。


しばらくセイフィード様はじっと周りの様子を伺う。

誰もいないことがわかると、セイフィード様は口を開いた。


「アンナ、もう起き上がって大丈夫だ⋯⋯うん? アンナ泣いているのか?」


「だ、だって悔しいんです、あんなこと言われて⋯⋯、セイフィード様は悔しくないんですか」


「俺は大丈夫だ。アンナがいるからな」


セイフィード様は私の涙を拭い、額にキスをした。

セイフィード様って、たまに赤面するようなことを、さらりと言うよね。

ずーーーっと、思ってたけど、私のことを俺のものだとか平然と言っちゃうし⋯⋯。

こっちは心臓がばくばくして、大変なのに。


「⋯⋯黒猫、もう追いかけなくていいんですか?」


「あぁ」


「オリヴィア様⋯⋯、どうやってセイフィード様と結婚するつもりなのでしょうか⋯⋯」


「さあな⋯⋯⋯⋯⋯」


「私って、オリヴィア様にとって、とても邪魔な存在ですよね⋯⋯」


「そうだな、でも心配するな。今度は俺がちゃんと守るから」


「⋯⋯⋯はい。よろしくお願いします」


セイフィード様は私を安心させるように、頭をポンポンしてくれた。

きっと、セイフィード様は犬好きに違いない。



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