2、木陰
今日は、第2王子から招待を受けた孤児院のチャリティーイベント当日。
私は子供達のためにクッキーを焼き、シャーロットは使わなくなったリボンを再利用して髪飾りを作った。
セイフィード様はおそらく⋯⋯⋯、現金を寄付したのだろう。
私は以前、セイフィード様から頂いた青色のドレスをまた着て、チャリティーイベント会場に向かうことにした。
シャーロットも、第2王子と会えるからか、とても嬉しそう。
チャリティーイベント会場に行くと、第2王子が私達をお出迎えした。
王子がお出迎えって⋯⋯⋯、全く王子らしくない。
そんな第2王子に私が呆気にとられていたら、第2王子がシャーロットを抱きかかえどこかに行ってしまった⋯⋯⋯⋯。
第2王子は、私達をお出迎えしたのではなく、シャーロットだけをお出迎えしたらしい。
それにしても、抱きかかえるなんて、第2王子って意外に大胆なんだな。
その後すぐに、セイフィード様の馬車がやってきた。
「ご機嫌よう、セイフィード様」
「あぁ」
私はいつものように挨拶し、セイフィード様もいつものように一言返事する。
「シャーロットは第2王子様と一緒に会場の中に行ってしまいました。私達も早く行きましょう」
私はセイフィード様の手を取り、歩き出そうとしたがセイフィード様は動かず、イベント会場をじっと見回す。
「俺は、あの木陰にいる。アンナは楽しんでこい」
セイフィード様は、会場内の人気のない木陰を指差した。
「どうしてですか?」
「俺がいると、子供達が怖がるからな」
「じゃあ、私も一緒にいます」
「勝手にしろ」
「はい! 勝手にします」
私はセイフィード様の腕に手を絡ませ、2人で木陰に行き、腰を下ろした。
私は身体を密着させるように、セイフィード様の横に座る。
自分から密着させておいてなんだが⋯⋯、心臓が爆発しそうなぐらいドキドキしている。
さらに、セイフィード様の肩に、私の頭も乗せちゃおうかと⋯⋯、邪な考えをしてた時、突如セイフィード様の手が私の首筋に伸びてきて、私の鎖骨あたりを指で触れた。
「やっぱり、少し寂しいな⋯⋯⋯」
とセイフィード様が言うと、突如呪文を唱えた。
『ヴィ・デート』
すると、私の首元にキラキラ光るネックレスが付けられた。
ネックレスのチェーンはシルバー色で、ペンダントトップはブルー色の小さな丸い宝石が5つくっつき花の形をしている。
「わぁ~、きれい」
「気に入ったか?」
「はい。頂いちゃっていいんでしょうか⋯⋯」
「あぁ、もちろんだ」
「⋯⋯⋯セイフィード様、この頃、私を甘やかしすぎです」
「そうか、俺はアンナと出逢った頃から、甘やかしてきたと思うが」
セイフィード様はそう言いながら、指で私の鎖骨から首筋をなぞり、口元に触れる。
もしかして、もしかして⋯⋯、とうとう、私とセイフィード様⋯⋯、キ⋯⋯キスしちゃう⋯⋯⋯。
と思い、私は目をギュッと閉じた。
セイフィード様の顔がゆっくり近づいてくるのを感じる⋯⋯⋯。
その時、あろうことか⋯⋯、私のお腹が盛大に鳴った。
「ギューーーーーギュルギュルルっ」
「クククッ」
セイフィード様は笑いだしてしまった。
「ご、ごめんなさい」
私は恥ずかしくて、頬が熱くなるのを感じる。
「アンナ、何か食べてこいよ」
「じゃあ、何か食べ物を取ってきます。それで一緒に食べましょう」
私はイベント会場に設置してある食べ物コーナーに、一目散に駆け出した。
そして私は、セイフィード様と私の2人分の食べ物を両手いっぱいに持ち、イベント会場を歩いていると、前方からオリヴィア様がこちらに歩いてくるのが見えた。
一瞬、逃げ出そうと考えたが、私が逃げる必要はないと思いとどまる。
でも、関わらないほうが無難だよね⋯⋯⋯。
私はオリヴィア様と目を合わせないように顔を伏せる。
それなのに、オリヴィア様は、私に話しかけてきた。
「相変わらず、浅ましいですこと⋯⋯」
オリヴィア様は私の行く手を遮り、冷ややかな視線を私に浴びせる。
「あっ、浅ましいって何がですか?」
「いくら家が貧しいからって、そんなに食べ物を抱えていらっしゃって、意地汚くて、浅ましいってことですわ」
「こっ、これは2人分で⋯⋯」
確かに⋯⋯、ちょっと恥ずかしいくらいの食べ物を持っている。
意地汚いって思われても当然かもしれない⋯⋯。
「それに、そのドレスも、そのネックレスもセイフィード様からの頂き物ですわよね」
「⋯⋯⋯そうですけど」
「アンナ様はそれに対して、何かお返しを差し上げたのかしら」
「そ、それは⋯⋯、それより嘘をつくほうが、浅ましいと思います。オリヴィア様、私に嘘つきましたよね」
「嘘⋯⋯⋯って何のことかしら」
「オリヴィア様がセイフィード様と婚約するって私に言ったじゃないですか、それって嘘でしたよね」
私はオリヴィア様を精一杯、睨みつける。
「わたくし⋯⋯、そんなこと言っていませんけど」
オリヴィア様は素知らぬ顔で平然と答えた。
「えっ、言いました。絶対に私に言いました。ラウル先生のお茶会の時に」
「⋯⋯と言われましても、全く覚えがございませんわ」
そんなっ、オリヴィア様の嘘で私がどれだけ傷ついたと思ってるんだ⋯⋯。
怒りがフツフツとこみ上げるが、反論する言葉が出てこない。
「そうそう、アンナ様。セイフィード様とご婚約されたそうですわね。おめでとうございます」
「あっ、ありがとうございます」
オリヴィア様からお祝いの言葉を頂けるなんて予想外だ⋯⋯⋯。
反対に恐ろしい。
「それで、持参金は用意されたのかしら」
オリヴィア様は意地の悪い微笑みを口元に浮かべている。
「えっ、持参金は⋯⋯」
持参金⋯⋯、必要だったんだ。
知らなかった。
どうしよう⋯⋯、帰ったらすぐにゾフィー兄様に確認しないと。
「アンナ様、まさかとは思いますが、持参金をお持ちにならないことなんて、ありませんわよね。持参金をご用意できないと、婚約解消になるお話を多々、お聞きしますわ。くれぐれもお気をつけあそばせませ」
とオリヴィア様が言うと、私から去って行った。
婚約解消なんて、絶対に嫌だ。
でも、セイフィード様と結婚するのに、どれくらい持参金が必要なんだろう。
全く想像がつかない。
私自身のお金なんて全然ないし、これから先、稼ぐこともできない。
不安で胸が苦しい。
オリヴィア様の言うことなんて気にしたくないのに、今回も私に胸に深く突き刺さる。
私はセイフィード様から色々頂いているのに、確かに何もお返しができていない。
私だってセイフィード様に、何かお返ししたい。
何をあげられるだろうか⋯⋯。




