1、青色
第2王子へお礼の挨拶に行く前日に、セイフィード様から私宛に大きな箱が2つ届いた。
箱には可愛らしい青色のリボンが巻かれている。
「セイフィード様からのプレゼントだわ! アンナ、早く開けてみて」
シャーロットは目を輝かせながら、私が箱を開けるのを楽しみにしている。
「うん。なんだろうね⋯⋯」
私はドキドキしながら、リボンを解き箱を開ける。
箱の中には、ドレスが入っていた。
1つの箱には、アフタヌーンドレス、もう一つの箱には、イブニングドレスが入っていた。
アフタヌーンドレスは、青色で、スカート部分には洗練されたレースが何重にも使われている。
イブニングドレスは、紺色で、藤の刺繍が豪華に施されていた。
どちらとも、ひと目で高価なものだとわかる。
「まぁ、なんて素敵なの。どちらのドレスも、セイフィード様の家の紋章をモチーフにしてるわ」
シャーロットはうっとりしながら、そのドレスを見つめた。
セイフィード様の家の紋章は青色の藤が描かれている。
その藤のモチーフが施されたドレスを着るのは、なんだか、セイフィード様の色に私が染まるようで、気恥ずかしい。
けど⋯⋯⋯、とっても、嬉しい。
翌日、私は青色のアフタヌーンドレスを着て、シャーロットに化粧をしてもらった。
私も化粧ぐらい一人でできるが、シャーロットの方が断然上手だ。
早く、セイフィード様に会って、ドレス姿を見て欲しい、そして、お礼を言いたい。
嬉しくて、私の頬は緩みっぱなしだ。
私とシャーロットがお城に着くと、すぐにセイフィード様に出会えた。
「ご機嫌よう、セイフィード様。素敵なドレスをプレゼントして頂き、ありがとうございます。とても嬉しいです」
「あぁ」
セイフィード様は顔を横に背け、いつも通り素っ気なく一言だけ言葉を発した。
けれど、セイフィード様は、私と腕を組むために、腕を差し出す。
私は、ドキドキしながら、セイフィード様に寄り添い、セイフィード様と腕を組んだ。
この時⋯⋯⋯、私って本当にセイフィード様の婚約者になったんだと自覚した。
とても嬉しいけど、照れ臭い⋯⋯⋯。
第2王子と面会するために案内された部屋は、豪華さに目が眩むような部屋だった。
壁も、カーテンも、椅子もワインレッド色で統一されており、至る所に金縁の肖像画が飾られている。
私達が案内されて、少し経った時に第2王子が現れた。
第2王子が姿を表すと、セイフィード様もシャーロットも深くお辞儀をする。
私も遅れて深くお辞儀をする。
「お礼なんて別にいいのに。まぁ、俺も話があったからいいけどさ。とりあえず座って」
第2王子はドカドカと大股で近づき、席に着く。
私達も第2王子に続いて席に着いた。
そしてすぐに、第2王子は、話を切り出す。
「ええっと、あの時、拉致されてた子だよね、元気そうで良かった。⋯⋯、名前はなんだっけ?」
私が緊張してたからだろうか、第2王子は私を見て、ニコっと笑った。
第2王子は、意外と気を使ってくれている。
「はい。あの時はありがとうございました。私はアンナ ・フェ・シーラスです」
「あの時は、ビックリしたよ、いきなりシャーロットに鷲掴みされたからな」
第2王子はシャーロットの方を見てニヤニヤし出した。
「あ、あの時は気が動転してしまって⋯⋯、申し訳ないことをしてしまいましたわ。申し訳ございません」
シャーロットは顔を赤らめながら謝罪した。
私が拉致された時、気が動転したシャーロットは、最初、ゾフィー兄様がいる親衛隊の駐留所に行ったらしい。
しかしゾフィー兄様はいなく、その場にたまたま居合わした第2王子に助けを求めた。
その際、シャーロットは勢いあまって第2王子を鷲掴みにしたらしい。
「それで、アンナ、君はゲリーの顔を知ってしまったし、ジークとも接点がある。また、何かしら命を狙われるかもしれない」
「⋯⋯はい」
そうだった⋯⋯、ゲリーはまだ生きている。
ゲリーに髪を鷲掴みされた感触が、私の記憶に⋯⋯未だ、べっとりと染み付いている。
怖い⋯⋯。
私は恐怖で身をすくめると、セイフィード様が優しく私の手を握りしめてくれた。
セイフィード様の手は暖かくて⋯⋯、私は少し、心を落ち着かせることができた。
「あ、怯える必要はない。アンナはセイフィードが盾になって守るから心配いらないよ。ただ、アンナにもセイフィードにも、ゲリーとジークのことを話しておこうと思ってね。まずは、ジークだが、本名はウォーレン・ヘルト。俺が管理している孤児院出身だ。ウォーレンには兄がいて、今は魔界の守人をしている。知っての通り、兄も弟のウォーレンも、魔力が非常に強い」
第2王子は、少し辛そうに話を続ける。
「ウォーレンには、幼なじみの女の子、クララがいた。クララは、足が不自由だったけど、とても明るく可愛らしい女の子だった。クララとウォーレン、そしてウォーレンの兄は、いつも3人一緒にいて、とても仲良しだったんだ。しかし、ある時、クララが拉致された⋯⋯、奴隷商人に⋯⋯」
第2王子は、一呼吸し、目を閉じた。
そして、拳を強く握り締めながら、さらに話を続けた。
「俺は⋯⋯言い訳になるが、まだ幼く、奴隷商人を捕まえることはできなかった。⋯⋯⋯⋯クララが拉致されて、1年ぐらい経った時だろうか⋯⋯⋯、クララは無残な姿で発見された。奴隷として買った主人に、クララは酷い拷問をされ、死に至った」
「その奴隷を買った主人は貴族なのですか?」
セイフィード様が第2王子に質問した。
さっきまで暖かったセイフィード様の手は冷たく、私の手を強く握りしめていた。
「ああ、そうだ。クララを買った主人は貴族だ。クララが殺された後も、その主人は裁かれることなく優雅な生活を送っていた。俺はその時、その主人を裁くことができなかった。まだ俺には権力という力がなかったからな⋯⋯。それに当時は、孤児院を管理していると言っても、名目上だけで、大して何もしていなかった。王子として、管理者として、孤児院に警備の傭兵を雇ったりすることができたのに、俺は何もしなかった。ウォーレンが貴族や、俺を恨むのは当然さ」
第2王子は、お茶を一口飲み、一息つく。
「今もなお、クララを買った主人は裁かれていないのですか?」
セイフィード様が私も気になっていたことを質問してくれた。
「いや⋯⋯、一年前に殺された。おそらくウォーレンの仕業だろう」
第2王子はどこか遠くを見ながら答えた。
そして、第2王子は姿勢を一回、正すと、また話を続ける。
「で、ゲリーだが、奴隷商人だ。クララを拉致したのもゲリーだ。今回、ウォーレンがアンナを罠にはめたのは、ゲリーを誘き出すためだろう。そして隙をみて始末する予定だったが、セイフィードの邪魔が入りできなかった」
「まだ、ゲリーの消息はつかめていないのですか?」
「あぁ、ゲリーは今、行方不明だ。⋯⋯⋯おそらくゲリーを匿っている黒幕がいるはずだ。だが、なかなか正体がつかめない。セイフィードも、何か掴めたら、すぐに俺に知らせて欲しい」
「わかりました」
「で、これからが俺の本題だが、今度、俺が管理している孤児院で、チャリティーイベントがある。君たちも、出席してくれ。もちろん君たちは貴族として何かしらの寄付をしてもらう。セイフィード、多額の寄付を期待しているよ」
「⋯⋯わかりました」
「詳しいことは、後日連絡する。では、またな」
要件を全て話し終わると、第2王子は満面の笑みをし、颯爽と私達から去って行った。




