8、荷台
頬に傷がある男性が呪文を唱え終わると、牢屋全体に巨大な魔法陣が出現し、黒いモヤが私達の喉に張り付く。
すると、牢屋にいる女性全員、声が出せなくなった。
その様子を確認した店主が牢屋の鍵を開け、女性全員の足の縄を紐解く。
「牢屋から出るんだ。もし変な真似してみろ、殺すぞ」
頬に傷がある男性は剣を抜き、その剣を私達に見せつけながら脅す。
店主が先頭で私達を手引きし、店の外に出る。
店の外は、もう真っ暗で、全く人影がない。
そして店主は、店の横に待機していた荷馬車の荷台に、私達を全員押し込む。
その荷馬車付近には、4、5人ほどの男性も待機しており、全員剣を持っている。
またその荷馬車は、木製の屋根付きで、前方と後方には布が垂れ下がっている。
簡素な作りでできているが、私達を隠し移動することができる。
私は荷台の一番後方に座っていたので、布の隙間から外を覗いてみた。
先程の剣を持った男性達がそれぞれ馬に跨り、馬車の周りを取り囲みながら移動している。
店主と頬に傷がある男性は、おそらく荷馬車の御者席にいるようだ。
どこに連れて行かれるんだろう。
怖いよ、セイフィード様、ゾフィー兄様⋯⋯。
助けて⋯⋯、お願い⋯⋯。
恐怖で震えが止まらない。
私は、震える体を押さえつけ、鞄から腕輪を取り出そうと試みた。
しかし、店主が、私の鞄を縄でグルグルに巻きつけたせいで、できなかった。
おそらく荷馬車の揺れで、鞄から中身が飛び出すのを防ぐためだろう。
そのせいで、腕輪を鞄から取り出すのは、ほぼ不可能だ。
残る手立ては、腕輪が入った鞄ごと、荷台から放り投げるしかない。
そうすれば、私と腕輪の距離が離れ、腕輪の魔法が発動するかもしれない。
しないかもしれないけど⋯⋯。
もし、何も魔法が発動しなければ、ただ腕輪を失ってしまうどころか、助かる機会も完全になくなってしまう。
どうしよう⋯⋯。
でも、違う国に入ってしまったら、それこそ助けに来るのは困難だ。
⋯⋯⋯⋯。
⋯⋯⋯⋯⋯。
⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯。
決めた、鞄を放り投げよう。
どんな魔法が施されているかわからないけど、セイフィード様ことだ、きっといい魔法を施してあるはず。
信じよう。
再度、私は外を覗いてみる。
もう既に、荷馬車は城下町を抜け出し、平野を走っている。
私は、馬に乗った男性の様子を伺いつつ、荷台から鞄を落とした。
放り投げたかったけど、私の力がなく、落とすのが精一杯だった。
どうか、見つかりませんように⋯⋯、と願ったが私の考えは甘かった。
すぐに、馬に乗った男性の1人が声を上げる。
「止まれーー」
直後、荷馬車は停車した。
やっぱり私はバカだ。
なんて浅はかなことをしてしまったんだろう。
もっと機会を伺えば良かったのに⋯⋯。
恐怖で身体がこわばる。
そして、荷馬車が完全に止まると、頬に傷がある男性が、御者席から飛び降り、声を発した。
「どうした? 何があった?」
「なにか、荷台から落ちたぞ」
すぐさま、頬に傷がある男性と、店主が荷台に入ってきた。
そして頬に傷がある男性が店主に尋ねた。
「何が、落ちたかわかるか?」
店主がキョロキョロと荷台の中を見回し、じっと目を私に留めた。
「やばい、嬢ちゃんの鞄がない。鞄が落ちたんだ」
「鞄? なぜそんなもの持ってきた」
「イヤ~⋯⋯、それが、嬢ちゃんの鞄の中には腕輪が入ってまして、その嬢ちゃんと腕輪が遠く離れると腕輪から何かの魔法が発動するらしいんで⋯⋯」
店主は、たどたどしく、頬に傷がある男性に説明する。
「チッ、だから貴族はダメなんだ」
頬に傷がある男性が私をギロリと睨む。
その時、外にいた男性が荷台の中に声を掛けた。
「少し探してみたが、見つからない。この暗闇じゃ無理だ」
どうやら私の鞄は見つからなかったらしい。
ほっと胸をなでおろす⋯⋯。
しかし、頬に傷がある男性が、私の髪を思っ切り引っ張り上げ、冷酷な視線を向けた。
「しょうがない、この女を殺して、先を急ぐぞ。」
今まで必死に堪えてたけど⋯⋯、ダメだ⋯⋯。
涙がこぼれ落ちる。
私は殺される、殺されるんだ。
こんなとこになるんだったら、セイフィード様に素直に謝って仲直りすれば良かった。
セイフィード様にダメ元でも告白すれば良かった。
もっともっと、セイフィード様と一緒にいたかった。
どうして、こんなことになってしまったのだろう。
そして私は、荷台から乱暴に引きずり降ろされた。
体中傷だらけで、服もボロボロだ。
頬に傷がある男性は、私を引きずりながら草むらに移動させ、剣を抜く。
一切躊躇わず、頬に傷がある男性は、剣を私に振りかざした。
しかし、剣が私の首に触れる寸前、突如、鋭い突風が吹き、頬に傷がある男性は吹き飛ばされた。
同時に、他の男性達が一斉に騒ぎ出す。
「闇の精霊だ、闇の精霊がいるぞ」
「くそっ、どうする」
私は何が起きたか確かめようと、体を起こそうとした時、突然、私の体は引き寄せられ、強く抱きしめられる。
「アンナ、バカアンナっ」
強く、強く私を抱きしめたのは、セイフィード様だった。
セイフィード様が助けに来てくれた⋯⋯。
そして、セイフィード様は私が声が出せないことが分かると以前と同じく、呪文を唱え、私にかかっている魔法を解いた。
また縛られていた手首の縄も、セイフィード様は何かの魔法を唱えながら紐解く。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
涙が溢れ、止まらない。
私はセイフィード様にしがみつき、ぎゅっと服を握りしめる。
セイフィード様は優しく私の涙を拭い、私の顔を覆い隠すように、マントを私に被せる。
同時にバリアを私に施してくれた。
「話は後だ。これから起こることを見るなよ」
セイフィード様は立ち上がり剣を持った男性達に向き合う。
頬に傷がある男性は、吹き飛ばされたが無事で、すぐに立ち上がりセイフィード様と対峙した。
相手は6人もいる。
店主を入れると、7対1だ。
セイフィード様、大丈夫だろうか。
いくらなんでも、相手の人数が多すぎる。
私はセイフィード様から見るなと言われたが、バッチリ見てしまっている。
頬に傷がある男性は、セイフィード様が1人だと分かると馬鹿にしたように笑った。
「1人か⋯⋯、それも若造か。多少強い魔法使いかもしれないが、剣の早さには敵わないぜ」
と頬に傷がある男性が言うと、いきなりセイフィード様に斬りかかった。
それを合図に他の男性もセイフィード様に斬りかかる。
同時に、セイフィード様を中心に魔法陣が浮かび上がり、その魔法陣は7つに分かれ小さな魔法陣を形成する。
その小さな魔法陣から黄色い強い光が矢のように飛び出した。
「チッ、姑息な。裏で詠唱してたか」
頬に傷がある男性は瞬時に剣を盾にし、その光を防いだが、他の男性達の体は光が突き刺さり、血が噴き出した。
しかし、頬に傷がある男性は、すぐに反撃に転じ、セイフィード様に襲いかかる。
「ボーティス・我が剣となれ」
セイフィード様がそう叫ぶと、セイフィード様の手に漆黒の剣が現れ、頬に傷がある男性の剣をギリギリのところで防いだ。
しかし、力では頬に傷がある男性の方が上まるらしく、セイフィード様が押されている。
頬に傷がある男性の剣がセイフィード様の肩に食い込もうとした時、セイフィード様の剣の柄から蛇が湧き出て、頬に傷がある男性の腕を蛇が咬んだ。




