9、魔剣
「チっ、魔剣か⋯⋯」
頬に傷がある男性の腕は、蛇に咬まれ青緑く変色し始める。
また、その男性は、セイフィード様から、数歩退く。
その時、神々しい光が暗闇を切り裂いた。
その切り裂かれた光の中から第2王子と、騎士が現れる。
「お前は……、ゲリーか!」
第2王子は、頬に傷がある男性を指差しながら叫んだ。
「チっ、厄介な奴が来やがった」
頬に傷がある男性、ゲリーは、また数歩、退く。
蛇に噛まれたところが痛いのか、ゲリーは顔を歪ませている。
「ここで、決着をつけてやる」
第2王子は、剣を、エクスカリバーを出現させ、力強く握りしめた。
「俺も、お前を始末する。俺のものを傷つけた奴は、絶対に許さない」
セイフィード様も怒りを滲ませながら剣を構える。
「チっ、しょうがない⋯⋯」
突如、ゲリーは、近くにいた店主を剣で串刺しにした。
同時に、ゲリーは呪文を唱える。
『エビーレ・エビーレ・ハウレス・贄を捧ぐ・血肉を貪れ・地獄より出でよ』
店主の串刺しされたところから、血が滴り、その血によって魔法陣が形成された。
そして、その魔法陣は、店主の肉体を飲み込み、新たな物体が魔法陣から這い上がってきた。
この現象、本で読んだことある。
闇の精霊が物質化したんだ!
精霊を物質化するには色々な方法はあるけど、特に闇の精霊を物質化するには、人間や動物の血肉が必要だって書いてあった。
また精霊が物質化すると、力がかなり増すとも記載があったはず。
もちろん、精霊が物質化してるから、私にも見える。
物質化した精霊ハウレスは、長い槍⋯⋯、とてつもなく長い槍を持ち、豹の姿をしている。
豹の姿だが、二本足で立ち、鎧を着ている。
そして精霊ハウレスは、第2王子とセイフィード様に狙いを定めたように向き合った。
その隙にゲリーは懐から、何かを取り出し、地面に叩きつけた。
その地面から煙が上がったかと思うと、ゲリーはいなくなっていた。
「クソっ、ゲリーの奴め⋯⋯、また逃げやがった」
第2王子が悪態を吐く。
一方、セイフィード様は精霊ハウレスが出現したと同時に、持っていた剣を地面に突き刺し、呪文を唱えた。
『エビーレ・ボーティス・地を這え・牙を剥け』
すると、突き刺した地面から、精霊ハウレス目掛けて一直線に地割れが起こり、精霊ハウレスの足は地面に沈んだ。
その精霊ハウレスの沈んだ足には、蛇が絡みつき、その蛇の牙が食い込んでいる。
精霊ハウレスは絶叫し、倒れ込んだ。
その隙に、セイフィード様は地面から剣を抜き、精霊ハウレスの首元に斬り込む。
精霊ハウレスは首を切られると、一瞬にして黒い塵となり、飛び散った。
全く、精霊ハウレスに攻撃を与えなかった。
一瞬で、勝負がついてしまった。
その様子を見ていた第2王子は物凄く不満そうにセイフィード様を見つめ、盛大にため息をついた。
そして一言、呟いた。
「俺にも残しておいてくれよ⋯⋯」
セイフィード様は、剣を消すと第2王子に質問した。
「ゲリーという奴を、知っているのですか?」
「あぁ、因縁のやつだ。ゲリーは奴隷商人で根っからの悪だ。タチの悪いことに、そこそこ強く、しぶとい。おそらくあの毒牙でも死んでない」
第2王子は目をつぶり、何かを思い出しながら説明している。
「ゲリーの居場所は掴めてないのですか?」
少し苛立ちながら、セイフィード様は質問を再度、第2王子にした。
「あぁ、ゲリーは神出鬼没だからな。足取りも掴めていない」
「そうですか⋯⋯、では俺はもう戻ります」
「あぁ、あの娘のこと任せたぞ」
セイフィード様は、私に近づき、再度、私の顔を隠すように、マントをすっぽりと頭から覆い被した。
きっと、私が貴族だから、騎士達に顔を知られないように配慮してくれたのかもしれない。
そして、セイフィード様は私を抱きかかえた。
「帰るぞ」
セイフィード様が私にそう言うと、私達は光に包まれ一瞬にして、セイフィード様の庭園にあるカゼボまでワープした。
ワープした後も、セイフィード様は私を降ろさず、お姫様抱っこしている。
「あ、あの⋯⋯、セイフィード様。今さっきいたところに戻りたいです」
「何故?」
「それは⋯⋯、私の腕輪が入っている鞄を落としてしまって、それを探したいんです」
私は、セイフィード様から頂いた腕輪を失くしたくない。
だから、どうしても私は腕輪を探しに戻りたかった。
「それは、俺が持っている」
セイフィード様が持っているなんてビックリしたけど、失くさずに済んで本当に良かった。
「あの⋯⋯、返して貰えますか?」
「ダメだ」
私は、セイフィード様に愛想を尽かされたんだ⋯⋯、だからセイフィード様は私に腕輪を返してくれないんだ⋯⋯。
そう思ったら、今までの辛かったことと重なって、私の目から滝のように涙が溢れ出た。
「おっ、お願いです⋯⋯、返してください」
私はセイフィード様の服を握り締め、懇願した。
「アンナ⋯⋯、腕輪を改良するために、暫く預かるだけだ。別にずっと返さないわけじゃない」
「早とちりしちゃいました⋯⋯、ごめんなさい」
セイフィード様は、私をガゼボに置かれたソファーに下ろし、同時にセイフィード様も腰を下ろす。
すぐにセイフィード様は私を後ろから抱きしめ、落ち着くように何回も頭を撫でてくれた。
私は、少し顔を横にし、セイフィード様の胸の鼓動を聴く。
トクンっ、トクンっ、胸の鼓動が私の耳に響く。
なんて心地いいんだろう、このまま眠りにつけそう⋯⋯。
「それで、今回の件でアンナから色々聞きたいことがあるが、傷が癒えて落ち着いてからでいい。ただ、1つだけ今、教えてほしいことがある」
セイフィード様が真剣な目つきで私を見る。
「な、なんでしょうか⋯⋯?」
「なぜ、あの時、アンナだけ殺されそうになっていた?」
私を抱きしめているセイフィード様の手が、こわばる
「それは⋯⋯、腕輪の入った鞄を荷台から落としたことがバレてしまって⋯⋯、それと、腕輪と私が離れると何かの魔法が発動することもバレてしまって⋯⋯それで⋯⋯」
「はぁ⋯⋯。いいか、アンナ。腕輪の魔法が発動しなくても、俺がどんなことをしてでも、必ず探し出すから⋯⋯、必ず助け出すから、頼むから、もう無茶なことはするな」
セイフィード様は強く私を抱き寄せながら、強い口調で言葉を発した。
「⋯⋯はい。今回もいっぱい迷惑かけて、ごめんなさい」
「そうだな、シャーロットの家も大騒ぎになっているぞ。今日、アンナが中々帰宅しないから俺の所にメイドを引き連れて怒鳴り込んできた、で、俺の所にもいないからパニックに陥って、第2王子に相談しに行ったようだ」
「そうなんですね⋯⋯そんなことになっていたんですね」
すっかり忘れていた。
怖い、怖すぎる。
シャーロットもだけど、シャーロットの両親や、ゾフィー兄様も今回は怒っているんじゃないだろうか。
「どうしよう⋯⋯、私⋯⋯、家から追い出されるかもしれない」
「そしたら、うちに来ればいい」
「えっ⋯⋯⋯」
私はなんて返答すればいいか、わからなかった。
「とりあえず、応急処置してやる」
セイフィード様がそう言うと私の体がほのかに温かくなる。
そしてセイフィード様は呪文を私の耳元で囁くように唱えた。
『サーナ・サーナ・光の精霊よ・息吹を注げ』
私の体は一瞬光り輝き、小さな傷が消える。
それを確認したセイフィード様は、私のおでこに口づけをした。




