7、牢屋
店のカウンターに置いた私の腕輪を、店主は勝手に取り上げ、ジロジロ見定めている。
特に、ダイヤの部分を念入りに見ている。
「すげーなあ、嬢ちゃん。この腕輪、ダイヤがはめ込まれているじゃないか」
私は、ベタベタ触らないで下さいと、強く言いたかったが、ぐっと堪えた。
そして、私は店主が差し出してくれた腕輪をはめてみる。
「どうだい、嬢ちゃん。いいだろ」
「はい⋯⋯」
そう答えたけど、私は自分の腕輪の方が断然良かった。
試しにつけた腕輪はやっぱり重いし、なんとなく手錠を付けている気分になる。
しかし……、贅沢は言ってられない。
「嬢ちゃん、そこにある魔術書開いてみろよ。ちゃんと腕輪が機能しているか確かめてみな」
「はい」
私は指示された魔術書をそっと開く。
次の瞬間、つけていた腕輪がバチバチと音を立て、黄色の閃光が走り、私の身体にまとわりつく。
同時に、全身が痺れ、私は床に倒れこむ。
また倒れた拍子に私は頭を打ち、じんわりと血が滲む。
そしてすぐに、強烈な痛さが全身に襲ってきた。
「うぅ⋯⋯」
私は痛さに耐えきれず、小さく呻く。
なんとか私は身体を起こそうと試みるが、身体は全く言う事を聞かない。
けれど、意識だけはかろうじて私は失わなかった。
一体、何が起きんだろう。
物凄く痛い、全身が痛いよ。
もしかして腕輪は不良品だったのだろうか⋯⋯。
私が痛みに、もがき苦しんでるいると、店主はニヤニヤしながら近づいてきた。
「はは、嬢ちゃん。警戒心なさすぎ」
店主は倒れた私の顔を覗き込むと、臭い息を吐き出し、私に言葉を投げかけた。
「なんっ、うっ、うぅ⋯⋯」
私は、なんでこんなことしたんですか、と問い詰めたかったが痛みでそれどころじゃなかった。
そんな私をよそに、店主は私の鞄の中を漁り、何かを探し始める。
ウー様から頂いたお守りを探しているのだろうか⋯⋯。
私は、ウー様から頂いたお守りは、小さな袋に入れ、ポケットに入れてある。
店主が夢中になって私の鞄の中を探していると、突如、店の奥から、黒ずくめの怪しい人物が現れる。
私はどこかで、見覚えがあるような気がした……。
そして、その黒ずくめの人物が、店主に尋ねる。
「あったか?」
「いや、それらしきノートは、ありませんぜ」
「見せてみろ」
今度は、黒ずくめの人物が私の鞄の中を漁る。
「チッ……、ないな」
「どうしやすか?」
「もういい。後はお前に任せる」
「エヘヘ。いいんすか。じゃあ遠慮なくそうさせて頂きやす。あ、この腕輪も頂戴しても?」
店主は気味悪く笑い、私の腕輪を黒ずくめの人物に見せる。
「それは、やめたほうがいい。この女から腕輪を遠く離せば、何かの魔法が発動するはずだ」
「くそ、ダイヤは高く売れるのに。じゃあ、嬢ちゃんに腕輪させといた方がいいんすか?」
「それも、やめたほうがいい。その女の鞄にでも入れておけ」
「へい、わかりやした」
店主が私の鞄に、私の腕輪を放り込んだ。
そして店主が、私と私の鞄を持ち上げ、肩に担ぎ、店の奥に行く。
店の奥の部屋には地下に続く階段があり、その階段を店主は、私を抱えたまま降りる。
地下は意外に広く、荷物が所狭しと置いてある。
その地下の一角に、牢屋があった。
私はその牢屋に乱暴に降ろされ、手と足に縄をかけられ拘束される。
驚いたことに、私と同じような年代の女の子が5人もいる。
みんな、恐怖に震え、泣き腫らした顔をしていた。
「嬢ちゃん、大人しくしてるんだ。そうすれば痛い目にはあわないぜ」
店主はそう言うと、牢屋に鍵をかけ、どこか行ってしまった。
牢屋に入れられ、どれくらい時が過ぎたんだろう⋯⋯。
だいぶ、身体の痛みが取れてきた。
私は思い切って、うつ伏せの状態から、身体をくねらせ、上体を起こす。
一瞬、鈍痛が襲うが何とか耐え、私は牢屋にいる女性たちに話しかけた。
「あ、あの⋯⋯、これから私達、どうなるんでしょか⋯⋯」
「ひっく⋯⋯ひっくっ⋯⋯売られるのよ」
泣きながら、可愛らしい女性が答える。
「みんな、他国のお金持ちに奴隷として売られるの、性奴隷よ」
青ざめた女性は、吐き捨てるように言葉を発する。
最悪だ、奴隷だなんて。
私はなんて馬鹿なことを、してしまったんだろう。
腕輪さえ外さなければ、こんな事に、ならなかったかもしれない。
セイフィード様も、私の腕輪には特殊な魔法が施してあるって言ってたのに⋯⋯。
もう、セイフィード様に会えないかもしれない。
嫌だ、そんなの⋯⋯。
涙が溢れ出そうになる。
⋯⋯ダメだ、泣いちゃ。
何か考えないと⋯⋯、脱出する方法を。
私には力も魔力もない⋯⋯、考えるだけしか能がないんだから。
私は出来る限りのことをしようと試みた。
まず、手足に縛られた縄を解こうとしたけど、全く無理だった。
牢屋にいる女の子達に、お互いの縄を噛み切ろうって提案したけど、この縄は魔法の縄だからナイフでも切れないとのことだった。
他に何かいい手は⋯⋯、あ!そうだ。
ウー様のお守り⋯⋯、ウー様のお守りにお願いすれば助けてくれるかもしれない。
私は、ポケットに入っているウー様のお守りに手を当てて、一心にお願いをした。
ウー様、お願い、助けてくださいっ。
⋯⋯⋯⋯⋯。
⋯⋯⋯⋯⋯。
⋯⋯⋯⋯⋯。
全く、何も起きなかった。
あと残る手は、私の腕輪だ。
私の腕輪をどうにかして鞄から出して、つけることができたら腕輪が助けてくれるかもしれない。
私は牢屋にいる女の子に協力を仰ごうと、話しかけた。
「あの⋯⋯、皆さんにお願いがあります。私の鞄から腕輪を出すのをてつ⋯⋯」
と私が言いかけた時、階段を降りる足音が聞こえてきた。
「ヒィッ、こ、怖いよ⋯⋯」
女の子達はその音に反応し、泣き始めパニックに陥ってしまう。
足音が近づけば、近づくほど、私も恐怖で体が震え、何も考えられなくなってしまう。
落ち着かなきゃ、落ち着いて何か考えなきゃ⋯⋯。
そして、その足音は牢屋の前で止まり、店主と、頬に傷がある男性が私達を見下ろし、立っていた。
また頬に傷がある男性は、目が鋭く、剣を携えている。
「あの、女は?」
頬に傷がある男性が私を指差しながら店主に尋ねる。
「あぁ、この嬢ちゃん、貴族のご令嬢らしいですぜ」
「貴族には手を出すなと言ったはずだが⋯⋯、後々面倒なことになる。だが、この女⋯⋯、高く売れそうだ。青い目に金髪、身体もいい⋯⋯」
頬に傷のある男性が、私を値踏みするよに、全身をじっと見る。
私は全身から血の気が引くのを感じた。
「へへ、それにこの嬢ちゃん、全く魔力がないらしいですぜ」
いやらしい目つきで店主も私を見る。
「ほぉ。それはいい、さらに高値で売れそうだ」
頬に傷がある男性は、満足気に笑う。
どうしてなんだろう。
魔力のない私なんて、商品価値ゼロだと思うのに。
なんで私なんかが、高値なんだろう。
『シ・ジューム・デアボリ』
頬に傷がある男性が、牢屋に向かって、突如、呪文を唱えた。
その呪文はかつて、ルシウスが私に使った、声が出せなくなる魔法だ。




