4、鉱石
私の腕輪が壊れて数日後に、セイフィード様から、新しい腕輪が完成したので取りに来るようにと連絡が来た。
私は急いで、セイフィード様のお屋敷に向かう。
お礼のケーキを持って。
このケーキは、もちろん、私が手作りした。
私が、6年前にケーキを作った時、コルベーナ家の人が、私のケーキ作りの実力を認めてくれ、私がケーキを作ることを許してくれている。
それから、私は、暇を見つけては、ケーキ作りをしていた。
そして、今回、手作りしたのは、コルベーナ家全員に好評のチョコレートケーキ。
本当は1人で全て作りたかったけど、私の腕輪がなかったので、メイドさんにお手伝いしてもらった。
ほんと、腕輪がないと、私は、何もできなくなる。
「ご機嫌よう。セイフィード様」
今回は、いつもの図書室ではなく、庭園にあるガゼボに案内される。
ガゼボは日本のあずま屋だ。
セイフィード様のお屋敷にあるガゼボは白く、屋根が円形で、柱が5本ある。
その柱は全て大理石だ。
とても高級そうなガゼボ⋯⋯、そのガゼボに佇むセイフィード様は今日もカッコイイ。
「あぁ。ほら、新しい腕輪だ、つけてやるよ」
セイフィード様は、私の手を取り、新しい腕輪をつけてくれた。
新しい腕輪は前回と同じく銀色で、美しい。
でも、以前と違い何か光っている。
よく見てみると、鉱石が埋め込まれていた。
ダイヤモンドだ。
「こ、これってダイヤモンドだ」
「そうだな」
「こんな高価なもの⋯⋯、頂いちゃっていいんでしょうか」
ダメと言われても、もう手放す気はないが、一応、私は訊いてみる。
「アンナが持ってきたケーキと、交換でいいさ」
「嬉しいです。ありがとうございます」
私はその腕輪を太陽の光に当て、反射するきらめきを見て楽しんだ。
キラキラ輝いて素敵。
ダイヤモンドのきらめきって永遠なんだよね⋯⋯、永遠の愛⋯⋯、きゃー、なんか照れる。
「アンナ、早く食べるぞ」
セイフィード様は、私がなかなかケーキを取り分けないので、業を煮やしたようだ。
「はい。お茶もいれますね」
ダージリンだろうか、香りが爽やかに香る。
紅茶を一口飲むと、紅茶の暖かさが、私の心まで温める。
幸せ⋯⋯。
セイフィード様と、ゆっくりお茶をいただけるなんて、本当に幸せだ。
チョコレートケーキも、セイフィード様の口にあったようで一瞬のうちになくなった。
嬉しい。
自然と顔がほころぶ。
また、セイフィード様のお屋敷で使われている食器は全て、白地に、美しい青色の藤の花が描かれている。
とても上品で高価そう。
私まで上品になった気分だ。
「もう⋯⋯、大丈夫そうだな」
セイフィード様は呟いた。
「あっ、あの時は、助けて頂いて、ありがとうございました」
一瞬、ルシウスのことを思い出してしまい、笑顔がこわばるのを感じる。
「そうでもないようだな⋯⋯。で、特別賞だって。褒美欲しいんだろ。アンナの作った魔法陣見せてみろよ」
「⋯⋯優勝は、できなかったんですけど」
「褒美いるの?いらないの?」
「いります!」
私がいつも持ち歩いている “アンナ特製魔法陣ノート” に挟んである “クーラー・魔法陣” が書かれた用紙をセイフィード様に渡した。
やった!特別賞だったけど、セイフィード様はクーラーを実現してくれそう。
期待に胸が膨らむ。
「⋯⋯⋯⋯これ、俺の他に誰かに見せたか?」
“クーラー・魔法陣”を見せた途端、なぜかセイフィード様の機嫌が悪くなった。
なんとなく雲行きが怪しくなってきた。
「えっ、えっーと、コンテスト審査員とか?」
ジークさんにも見せたけど、言ったらなんとくセイフィード様の機嫌が、さらに悪くなりそうだから言いたくない。
「そんなのわかっている。審査員の他だ!」
セイフィード様はプチ切れだ。
そりゃそうだよね。
「え、別に見せてませんよ⋯⋯」
私はセイフィード様を直視できない。
「アンナ、お前は嘘つくの下手だから、嘘つくな」
「⋯⋯ジークさんに見せました」
私は小さい声で、正直に答えた。
「やっぱりな。いいか、今後、あいつには近づくな」
セイフィード様は怒ってしまった。
でも、なぜそんなにセイフィード様はジークさんのことが嫌いなんだろう。
以前、セイフィード様が魔法陣学の授業を受けた時、何かあったのだろうか。
「⋯⋯でも、」
「でもじゃない。いいか、アンナは俺の奴隷なんだから言うことを聞け。わかったか」
「⋯⋯⋯⋯はい。わかりました、セイフィード様」
はぁ、セイフィード様と私の仲もだいぶ改善されたと思ったのに、また奴隷に転落してしまった。
でも、奴隷っていう言葉の響きに、ときめいてしまう私って、やっぱりMだわ。
「それで、あの、私の魔法陣、実現して頂けるんでしょうか?」
私は勇気をだして、機嫌の悪いセイフィード様に訊いた。
「これ、外でやっても意味ないんじゃないか」
そりゃそうだ。
クーラーを外で稼働しても無意味だ。
「はい。出来れば図書室で実現して欲しいです」
「⋯⋯わかった。移動するぞ」
セイフィード様が言った瞬間、ガゼボが光り輝き、図書室にワープした。
「すっ、すごーい」
私はワープしたことが嬉しくって子供のように飛び跳ねてしまった。
「そんなに、喜ぶことか⋯⋯」
セイフィード様は少し呆れながらも、笑顔だ。
しばらくの間、セイフィード様は”クーラー・魔法陣“を凝視すると、その用紙を床に置いた。
「アンナ、ちょっと離れろ」
とセイフィード様が言うと私に向かって呪文を唱えた。
『プロテイヤ・プロテイヤ・集え・光の精霊』
どうやら、私にバリアみたいな魔法を施してくれたらしい。
「念のためだ」
きっと魔法が失敗した時のことを思って施してくれたに違いない。
やっぱり、セイフィード様って何だかんだ言っても、優しい。
「あの、私の魔法陣、実現不可能だ、みたいなこと言われたんですけど、やっぱり難しいですか?」
「あぁ、そうだな。風と水の精霊を召喚して、なおかつ融合させるからな」
普通の人だと、1種類の精霊しか召喚できない。
また、精霊同士を融合するには強い魔力が必要だ。
もともと、私はセイフィード様に実現してもらおうと目論んでいたので、難易度は全く考えずに作ってしまった。
セイフィード様は、”クーラー・魔法陣“が書かれた用紙に手を置き、呪文を唱えた。
『コリジェンス・ウ・テイミー・コリジェンス・ウ・テイミー・我の力となれ・我に従え・精霊よ』
すると私が書いた”クーラー・魔法陣“は光を帯び、用紙から魔法陣だけが浮かび上がる。
その魔法陣は風を吸い込みながら3倍くらいの大きさになった。
そして、魔法陣の光が消えると同時に、床にその魔法陣は焦げ跡のように刻み込まれた。
暫くすると、涼しく心地よい風がその魔法陣から吹き出してきた。
「成功したな」
とセイフィード様は言うと、私にかけていたバリアの魔法も解いた。
「わぁー、ありがとうございます! うれしぃ。とーっても嬉しいです」
私はセイフィード様が施した“クーラー・魔法陣”の上に立ってみた。
私の周りを、風がふわっとそよげばいいなと思いながら。
しかし、私の思いに反して、突如強風が発生し、私のスカートが思っ切りたくし上げられた。
まるで傘が強風で反り返った時と同じように。
「きゃーーーースカートが、スカートが」
スカートがめくれ過ぎて視界が塞がれる。
私は、スカートをなんとか下ろそうとするが、強風すぎて全く下がらない。
「バカアンナ、何してるんだ!」
セイフィード様が怒鳴った。
そしてすぐにセイフィード様は“クーラー・魔法陣”の魔法を停止させた。
「うぅ、ごめんなさい」
「もう、この魔法陣は発動させない」
セイフィード様は、そっぽを向きながら言う。
気のせいか、少し耳が赤い。
「えぇ! それだけは許してください。お願いします。夏に、真夏に必要なんです!」
「⋯⋯2度目はないぞ」
それにしても、セイフィード様だって私の手をわざと触って、からかったりするのに、スカートがちょっとめくれたくらいで、こんなに怒るなんて理不尽だ。
まぁ、スカートはちょっとじゃなく、かなりめくれちゃったけど。
「ありがとうございます。私、そろそろ帰ります」
「あぁ」
セイフィード様はいつものように返事をする。
「では、失礼します。セイフィード様」
「次は15日に来い」
「え、あ⋯⋯、はい。もしかして、ウー様の誕生日ですよね」
「あぁ、神殿に連れてってやる」
神々の誕生日は毎月あり、その日は大勢の人で賑わう。
しかし、あまりに人が集まりすぎるため、抽選になっている。
「わぁー、すごい。抽選が当たったんですか。ウー様の誕生日に神殿に行けるなんて、嬉しいです。ありがとうございます」
嬉しい、嬉しすぎる。
それに、もしかして2人きりかな。
ドキドキしてきた。




