ここらでお遊びはいい加減にしろってとこを見せてやりたい
「もうやめとけ、おめえじゃオラは倒せねえ」
「フ、フン……! どこまでもこちらを見下しやがって……!」
グエンは、怒りの目をクウゴに向けながら、懐から小さなビンを取り出した。
錬金術師らしい、薬品を詰め込んだ小瓶のようだが、なかには小さなタネのようなものが入っている。
「……なんだ、薬か?」
「くっくっくっ……! ヒドラ細胞から作りあげた、錬金術の禁忌……クローン」
「クローン?」
グエンは小瓶の蓋を、空ける。
ポン、と小気味いい音が地下道に響いた。
クウゴは相手が何を仕掛けてくるのか分からず、身構えた。
「このタネは、あのレッド・ドラゴンの細胞を複製して作ったモノだ。こいつを地面に埋め込むと……」
ぽと、ぽとと……。
小瓶をさかさまにすると、その中身のタネが六つ、全て地下道の地面に落ちる。
すると、どうだ。一瞬にしてその種が自ら根を張り、地面にズブズブと沈み込んでいくではないか――。
「なっ……!?」
隠れ家にしている館の森のなかにも、あのような植物のモンスターがいた。
植物だからと言って、この世界では油断できない。彼らは自由に身体を動かし、根を這わせ、移動もできるのだから。
ボコッ、ボココっ……!
驚異的なスピードで、地面に落ちた種が発芽し、それがみるみる生長していく。
そして、身長にして一二〇センチ程度の子供のようなバケモノに変貌した。
その様相は、まるでリトル・グレイのような気味の悪い姿だった。
巨大な目、長い手足、裂けた口。長い耳と、鋭いツメ――。
色は真っ赤で、レッド・ドラゴンの細胞を利用し作り出したと言ったことの裏付けのようだった。
「キシャアア」
六体の魔物が、クウゴの前に出現した。
自ら戦闘力を有していないグエンの尖兵ということだろう。
「やれ! レッド・ジュニアども! あの男を八つ裂きにしろっ!」
「キキい~~~~ッ!!」
まるで興奮したサルのような鳴き声で、甲高く雄たけびを上げると、六匹のレッド・ジュニアと命名されたバケモノがクウゴに飛び掛かって来た。
「こ、こいつら、結構やるぞ!」
レッド・ドラゴンの細胞から生み出したというだけあって、そのレッド・ジュニアの能力はかなりのものだった。
二匹がクウゴの左右から襲い掛かり、鋭いツメを用いて、高速の突きを放ってくる。
クウゴはそれを両腕で捌くようにし、一度後方に跳び退こうとしたところ、背後に回り込んだ三匹が、眼光からレーザーのような熱線を発射してきた。
ズビァッ!!
「がぁっ!?」
背中に三つの熱線を受け、グウゴは仰け反る。
凄まじい威力の光線だった。レッド・ドラゴンが使って来た赤竜殺法に似たものを感じる。
そうして、衝撃に構えを崩したクウゴの上方から、飛びあがって来たレッド・ジュニアがアームハンマーで頭部を殴打する。
ガコッ!
まともに食らい、クウゴはそのまま前のめりに倒れる。
「キキッ!」
「はははっ! いいぞ! やってしまえ、レッド・ジュニア!」
グエンは狂気の笑みを浮かべ、六匹の化物たちに指示する。
レッド・ジュニアは一斉にクウゴを取り囲み、袋叩きにしはじめた。
ドゴッ! バキッ! ズガガッ! ガツンッ!
赤いバケモノたちにリンチされる形になったクウゴは、身体をうずくまらせたまま、その打撃に歯を食いしばって耐える。
そして、体内に練り込んだ【気】を一気に爆発させた。
「おめぇらっ! 邪魔だぁああああッ!!」
どぐあぁああああッ!!
「ききいぃぃ!?」
気合の爆発で、一気に六匹のレッド・ジュニアが吹っ飛ばされ、地下道の壁面に叩きつけられる。
ズズズ……、と地響きを鳴らし、地下道全体が震え、パラパラと瓦礫が落ちてくる。
「な……、なんだと……!」
グエンは、そんなクウゴに驚い戸惑い、一歩後退した。じゃり、と靴が塵を踏みつぶす。
クウゴは余裕の態度で立ち上がり、もう一度グエンを睨む。
「や、やれ! 何をしている! 相手は一匹だぞッ!!」
グエンは引きつった表情で、レッド・ジュニアに命令する。
「キイィイイッ!」
「だぁッ!」
ベキィッ!
クウゴに飛び掛かって来た一匹のレッド・ジュニアに、それより素早く肘を突き入れる。
ぐしゃっ、と嫌な音と共に、レッド・ジュニアの頭部がそれで粉砕される。
「……っ!?」
グエンは、たった一撃で絶命したレッド・ジュニアに絶句した。
このクウゴという男の底知れない戦闘力に、冷や汗を垂らす。
「クケェーっ!」
二匹目がクウゴへと攻撃を仕掛けに飛び掛かるが、それを難なく右脚でガードすると、スキが生まれたレッド・ジュニアの腹部へと瞬速の膝を打ち込む。
ズン……!
「カペペ……」
白目を剥き、舌を垂らして二匹目も沈黙する。
それを見ていた後方の三匹が一斉に、先ほどの不意打ちの作戦で、一斉に熱線を目から発射した。
クウゴは、その熱線の発射と共に、目にもとまらぬ早業で振り返り、こちらに向かってくる三本のレーザーに対し、右腕を突き出し、エネルギー波を放つ。
「はぁッ!」
ゴオオウッ!
クウゴのエネルギー波は、三つの怪光線を弾き飛ばし、そのまま三匹のレッド・ジュニアを飲み込み爆発させる。
それで三匹を一瞬にしてバラバラにしていた。
「キエエエエッ!」
三匹が吹っ飛んだ直後、クウゴの攻撃の間に、最後の一匹が飛び掛かって来た。
がしっ、とクウゴに抱き着き、逃がさないように万力で締め上げてくる。
そして、一気に自分の中のエネルギーを凝縮させると、クウゴを巻き添えにして自爆をしたのである。
ズドォッ――!!
強烈な爆発に、いよいよ地下道がバラバラと崩れ、周囲が振動し嫌な音を立て始めた。
「や、やった……! ざまあみろッ……!」
グエンはそんな崩壊する地下道のことなど、もう頭になく、クウゴが死んだかどうかだけが気になっていた。
だが、爆発の粉塵のなかから、完全に無傷のクウゴが姿を現した。
「この服装は買ったばかりなんだ。ボロボロにされたら困るんでな」
クウゴは、その全身にオーラのバリヤーを張っていて、レッド・ドラゴンの攻撃を完全に跳ね除けていたのだ。
背後から、怪光線を受けた時も、リンチを受けたときも、実はまるでダメージを受けていなかった。
すべては、グエンという男の歪んだ精神を逃がさないための演技だった。
「観念しろ、おめえは魔法学校に連れて行く」
「……っ……!」
ゴゴゴゴ……! 地下道が崩れ出していた。
このままでは二人とも地下で生き埋めだ。
だが、クウゴには【瞬間移動】の技がある。グエンを捕まえ、魔法学校に引き渡すことは、もう決着がついていた。
グエンもがくりと、膝を落とし、諦めた。
圧倒的な差を感じ取っていた。
この男には敵わない……。そうはっきりと思い知らされたのだ。
クウゴは崩壊する地下道で、グエンの肩に手を置き、【瞬間移動】で脱出するのだった……。
移動先は、エリを思い浮かべた。
二人は一瞬にしてエリの前に移動する。
「クーゴ!」
いきなり現れたクウゴに、エリは驚きながらも、嬉しそうな顔をする。
そして、完全に気力を失っているグエンを見て、表情を切り替えた。
「……グエン先生」
今回の事件の黒幕だった、魔力欠乏症の男。
憐れなその姿は、もう生きる気力を失っているような眼をしていた。
「エリートの私が……魔力を使えないなど……、この世界が間違っているんだ……」
力なくグエンは項垂れていた。
そんな彼を見て、エリはそっと声をかけた。
「魔力欠乏症は、治療できるはずです」
「……バカなことを。長年、多くの医師がさじを投げたのだ……。下らない気休めを言うな……」
エリは、ううんと首を静かに振った。
そして、そっと自らの腹部に手を添えて、エリは優しく言った。
「全ての人には、必ず【気】があるんです。【気】は魔力です。魔力がない人間なんて、本当はいないはずです」
「だったら、私は人間ではないということか。はは……、なるほど、人でなしということだな……。いい皮肉だ」
グエンは、光を失った目に、薄い笑みを浮かべ、だらりと四肢を投げ出す。
「違います。本当に、誰にも魔力があるはずなんです。魔力を練りあげる訓練を行えば、グエン先生にもきっと魔力を生み出せるはずです」
真っ直ぐにエリの目が、訴えていた。
それを教えてくれたクウゴとの修行のことが、自分の自信に繋がっている。
結局、グエンは自分を信じられず、魔力を扱えなかったのだ。
魔力欠乏症の人々に、丹田を意識した【気】の練り方を鍛錬することで、その塞がれてしまった魔力の蓋を外すことができるはずだ。
クウゴはそんなエリの顔を見て、彼女の成長を実感していた。
自分を信じて、動き出せば、世界が答えてくれると、彼女はグエンに伝えたかったのかもしれない。
過去の呪縛に囚われず、今の自分を見付けていけば、ムアル=ダステムに縛られるだけの人生さえ変化できるはずだ。
グエンは、クウゴのみならず、この新米魔法使いにさえ、敵わないのだと思い知った。
そして、ムアル=ダステムの夜は更けていく。
翌朝、グエン筆頭に、旧ムアル=ダステム思想の魔術師達が一斉に検挙され逮捕された。
その時には、クウゴたちはもう、その魔法学校から遠く離れていた。
ムアル=ダステムの事件は、こうして英雄の名を残さず、その幕を下ろしたのだ――。




