気を開放しろ!
デネブとの協力体制を約束し、一同は魔法学校の宿舎を借りることになった。
ここは魔法学校の生徒が利用する寮にもなっているとのことだった。
夜になっていて、沢山の魔術師がこの寮に戻ってきている様子だ。
クウゴたちはその一室で今後のことを話し合っていた――。
「まとまって行動するより、二手に分かれて捜査しよう」
そう提案したのはエマクオンだった。現在パーティーは五名。一緒に連れ立って歩くのは目立つし、広い学園都市を調べまわるのに効率が悪い。
元々ソロで活動するばかりだったエマクオンは、大人数で動くフットワークの重さを指摘する。
「……そうネ、だったらドラゴン捜索班と、奇病調査班で別れるってことにして、メンツはどうする?」
「二と三で分かれることになるけど、キロルは一人にはいるのかしらね……」
「えー、入るよ! 私、活躍できるもん!」
キロルは現在見た目はただの八歳の少女だが、その実態は亡霊だししかも取り憑いているのはミミックだ。
自由に身体を変化させることができるのは、ある意味、最高峰のチート能力とも言える。
「クーゴはドラゴン班よね。最悪、レッド・ドラゴンに鉢合わせた時、戦力になるし」
「じゃあ……魔力欠乏症の捜査に関しては、魔法関係の知識があるエリが班長かな?」
お互いにそう言い合うと、クーゴ班とエリ班でメンバーを選定することになった。
最終的に、クウゴのドラゴン捜索班は、クウゴ、エマクオン、キロルの三名。
そして、魔力欠乏症調査班が、エリ、ウモナとなった。
エマクオンは、病気に関してはそんなに関心がないし、ドラゴン退治のほうに興味がある。なにより戦闘力が高いため、ドラゴン班に。
キロルはクウゴと一緒がいい、という理由だけでメンツに入った。
エリ班の魔力欠乏症調査は、ウモナの【話術】スキルの見せどころとして、こういった町の調査は得意分野を活かすため、選抜された。
「私たち魔力欠乏症調査班は、病気になった人たちから、もっと情報を仕入れてみるわ。なにか、原因が掴めるかもしれないし」
「じゃあオラたちは、レッド・ドラゴンの捜索だな。赤いもんや、ドラゴンに関する話を手当たり次第に調べまわっぞ」
「何かあった時のために、私の【通話のピアス】を貸しておくワ」
以前城に潜入した時に利用した魔法のピアスだ。
これを装着すると、トランシーバーのように通話ができるので、非常に便利だ。
ウモナは自分の右耳につけていたピアスをクウゴに手渡した。
こうして、翌日からの行動を決めることができた。
そして、朝が来る。一同は二手に分かれ、捜査を開始した。
クウゴたちはドラゴンの情報集めだ。
エマクオン、キロルと共に、ムアル=ダステムの町を調べることにした。ちなみに、ドラゴンの鏡はキロルがエリから預かった。
キロルが魔法の鏡を除き込んでも、相変わらず、ぼんやりした赤い光が鏡面全体から溢れるだけで、どこにドラゴンがいるのか分からない。
「そういや、エマクオンは昔、独りでドラゴンを倒したんだよな? その時、どうやってドラゴンを見付けたんだ?」
「あの時は、エサでおびき出した」
「エサ?」
「ドラゴンの住処である山まで行って、そこの魔物を殺して、その血の匂いで釣ったんだ」
さらりと言ったエマクオンだったが、想像を光景するとぞっとする。
エマクオンの持つ武器、妖刀『血桜』の名前にピッタリだ。そんなことをしていたから、冒険者たちに『双刃のベルセルク』なんて呼ばれているのかもしれない。
「血の匂いで釣られるもんか?」
「ドラゴンは人間を襲って食べる。だから血が好き。ケモノと一緒」
「ケモノ……」
ふと、クウゴも以前自分が黒いドラゴンに襲撃されたことを思い出した。
あの時は、何の気なしに空に飛びあがったら、そこを強襲されたのだ。
あれは、自分のテリトリーに入り込んで来たクウゴに牙を剥いてきたのだろうか。
そう考えると、ケモノと同じというエマクオンの言葉に説得力が生まれる。
「レッド・ドラゴンもそういうケモノだとしたら、エサでおびき出せっかな?」
「分からない。七色のドラゴンは、ドラゴンの中でも特殊だっていうから、常識に当てはまらないかも」
エマクオンは慎重な意見を口にする。確かに普通のドラゴンなら、すでにどこかしらで目撃証言が上がっていても不思議ではないからだ。
三人はそれから随分と骨を折ってムアル=ダステムを調べまわったが、特別な情報は獲得できないままだった。
やはり、魔法学校の本格的な調査を行えないと、ドラゴンに関する情報には近づけないかもしれない。
そうだとしたら、エリたちが頼みの綱になる。
学園都市で途方に暮れていたクウゴたちは、いつの間にか奥まったところまでやってきていた。
見知らぬ町は迷路みたいで、すっかり迷ってしまった。一度大きな通りまで戻ろうと、三人は元来た道を戻りだしたときだ。
「お前たちが、シントーワから来た冒険者だな」
「……なんだ、おめぇたち」
クウゴたちの道を塞ぐように、複数名の魔術師達が出現した。
みな、真っ黒のローブとフードを装備し、その正体を隠している様子だった。
明らかに、胡散臭い連中だと、見た目から判断できる。
エマクオンもそれを察知してか、武器の柄に手を添えた。
キロルには下がるように促し、クウゴは一歩前にでる。
「色々と嗅ぎまわっているようだから、忠告に来たのさ。余計なことをするんじゃない」
「余計なこと……?」
それはドラゴンのことなのか、魔力欠乏症のことなのか、分からない。
相手の声は男のようだが、まるで聞き覚えのない声だった。
「わりぃけど、オラたちは目的がある。おめぇたちには関係ねぇ」
「なら、ちょっと痛い目を見てもらおうか」
相手の気配の威圧感が高まっていく。敵意がクウゴたちに対して膨らんでいた。
クウゴとエマクオンは身構える。
「【ディテクト】!」
魔法使いの一人が、不意に魔法使用した。
それは攻撃魔法ではなく、自分自身にかける強化魔法のようなものだった。
「……男のほうはレベル三十ちょっとだ。女のほうが七十レベルもあるぞ。気を付けろ」
「ガキは?」
「あれは、冒険者ですらないらしい。ステータスライセンスもないぞ」
魔法使いたちは、何やらクウゴたちを見て、情報をやり取りしていた。
どうやら、クウゴたちのステータスを覗き見する魔法で、情報を読み解いたらしい。
クウゴのレベルステータスを見て、警戒する方はエマクオンのほうだと判断したようだ。
「ボクのステータスを見ても、邪魔しようって気になるのは、随分強気だね」
Sランクの冒険者であり、高レベルのエマクオンのステータスを見たならば、こちらに対して仕掛けて来ようとはなかなか思わないだろうが、この異様な魔術師達は、退く様子がない。
「フン、レベルだけで勝てると思うなよ。こっちは人数が上だ。しかもそっちにはお荷物もいるようじゃないか」
キロルを見て、相手はニタリと笑みを浮かべた。
戦略次第ではどうにでもできると言いたげな様子だ。
「オラたちは、ドラゴンを探してるだけだ。おめぇたちとやり合う理由はねぇぞ」
「事情なんざ知ったことか。王都から来た冒険者を痛めつけろって言われてるだけなんでね」
相手はどうやら本気でやるつもりだ。
「【フレア・ボム】!」
一人が叫ぶと、火球を生み出し、クウゴに向かって打ち出して来た。
ドゥンッ!
それがクウゴに直撃し、大爆発を起こす。粉塵の中にクウゴの身体が隠れ、勝負は不意打ちの一発で終わったかのように見えた。
「ふはは、どうだ?!」
魔術師の一人が嗤う。
「ははは……一発でおわ、り……だ……?」
ズズズ、と粉塵が収まると、そこには無傷のクウゴが自然体で立っていた。
「なっ……?! 直撃したはず……!」
「こんなもんで、オラたちの邪魔はできねぇぞ」
「ちっ、運が良かっただけだ! みんな、打ち込めッ!」
魔術師達から一斉に破壊魔法が発射される。
エマクオンはキロルを庇うため、後方に身を退いたが、クウゴは彼女たちを守るために仁王立ちでそれらの魔法に正面からぶつかった。
ドグァアアンッ!
魔法都市の一画で、爆炎が上がる。
「ど、どうだ。これなら……」
「全然効かねえぞ。本気でやってんのか?」
完全に無傷、何事もないような顔をしているクウゴが爆炎から姿を現した。
「ば、ばかな……!」
「そこのおめぇ! さっきの【ディテクト】っちゅう魔法で、もいっぺんオラの力、調べてみろっ!」
「な……なんだと……!?」
クウゴたちのステータスを確認していた魔術師が、クウゴに声をかけられ、ビクンと反応した。
「これが……オラの、力だぁ……!」
グゴゴゴ……!
空気が重々しく振動する。クウゴから激しい闘気が上がり、爆発で出来た砂利や破片が、空中に舞い上がっていく。
「な……ッ!? な、なんだ、こりゃあっ――!」
【ディテクト】を使用していた魔法使いは、ガクガクと震えていた。
「なんだ、どうしたってんだ! こ、こいつはレベル三十代の中堅野郎だろうが!?」
「ち、ちがう……っ! レベル、五十……六十……、八十を超えていきやがる……!!」
驚愕の表情をして、後ずさりする魔法使いは、クウゴのその力を魔法で見抜きながら、震えだしていた。
「ひゃ、百……、まだ上がるぞ……!?」
「ばかなッ!?」
「はぁぁぁっ……!!」
ゴゴゴゴゴッ――!
地響きさえ起こり始めたクウゴの【気】の解放に、魔術師達は情けない悲鳴を上げて、逃げ出した。
「ひっ、ばけもんだ!」
「こ、こんなの聞いてねぇぞ! 逃げろッ!」
「うわあああっ!」
魔術師達は、一斉に蜘蛛の子を散らして消え失せた。
「……ふぅ……」
それを見て、クウゴは【気】をもう一度低く抑える。
「クーゴ、どうしてそんな目立つことしたの?」
エマクオンが、後ろから声をかけてきた。これまでクウゴは自分の力を抑え、目立たないようにしていたから、あのような得体のしれない集団に対し、いきなり力の解放を見せつけるとは思わなかったらしい。
「さっき、エマクオンが言ってたろ。釣りだよ」
「釣り……?」
「ああ、あいつら、よくわかんねぇ連中だけど、オラたちが邪魔みてぇだった。やっぱ、この町にはなんかあるんだ。だからドラゴンをおびき出すために、オラの力を見せてみた」
クウゴは、先ほど、ドラゴンがケモノだったとしたら、と考え一つ思いついたことがあったのだ。
初めてエルダードラゴンを倒した時、それは縄張りに入り込んで来たクウゴを攻撃してきた。
クウゴの存在を掴んだためだ。
レッド・ドラゴンは今、鳴りを潜めている。それは、クウゴも同様だ。本来の力を隠して、ここに立っていた。
だから、クウゴの力を感じ取れば何かしらのリアクションがあるかもしれないと考えたのだ。
お前の領域に、入って来たぞ、とアピールしてやったのだ。
「キロル! 鏡に反応がねえか?」
「えっ、ええと……あ!?」
キロルが鏡を除き込むと、なんと、直ぐ近くに赤い点があった。
今までのように、うすぼんやりした光ではない。はっきりした、丸い光点が存在していた。
「ある! 赤い点!!」
「出たな!」
クウゴたちはその赤い点を追うために、駆け出した――。




