思いがけない宝物をゲットした話
館を発って二日目、ムアル=ダステム魔法学校への旅路の途中で、一行は奇妙な遺跡を見付けていた。
石造りの建造物だったが、地下には広いダンジョンが広がっていた。
「なんだ、ここ?」
「これは……恐らく古代の墓だね。トレジャーハンターたちが手を付けてないなら、宝があるかもしれない」
「ほんとか! それは面白そうだなぁ!」
お宝の眠る古墳と聞いて冒険者としてはテンションがあがる。
しかし、今は魔法学校へ向かっている途中だし、寄り道をしている場合ではないようにも思う。
ウモナが内部を調査してみると、ワナが見つかった。
うっかり無策に入っていたら、串刺しになるような仕掛けで、探索するのは難度が高めな印象を受けた。
「……でも、ワナが生きてるってことは、逆に言えばまだ誰も盗掘していない墓ってことになるわね」
「墓荒らしなんて、やめたほうがいいんじゃ……」
エリは乗り気ではないようで、この墳墓から離れたがっている様子だ。
ウモナは、どうやらシーフの血が騒ぐのか、調査をしてみる価値はあると、提案してきた。
「エマクオンは、どう思う?」
「……それより、あっちをどうにかしたい」
そういって、じろりと睨んだのは、キロルが取り憑いている森ヒトデだった。
確かに、キロルの憑依体もみつけなくてはならない。
エマクオンは昨夜色々と酷い目にあったので、二度とあんなのはゴメンだと厳しい眼光で告げていた。
「じゃあ、ここは無視すっか……」
「もったいないわねえ……、お宝があるかもしれないのに」
「でも、こんな罠だらけのところ、危ないし、私たちにはドラゴン退治の目的もあるんだし……」
渋るウモナをエリが説得にかかっていた。
クウゴもどちらかというと、ちょっと探検してみたいという気持ちはあったが、昨夜、腰砕けになってしまうほどの目に遭ったエマクオンを知っているので、キロルの憑依先を見付けることを優先することには賛成だ。
キロルだって、こんな森ヒトデにいつまでも入っていたくないと言っていたことだし――。
「……と、随分大人しいな、キロル」
クウゴの方に乗っているヒトデの中にいるキロルが会話に参加してこなかったので、ふと気になって声をかけた。
すると、森スライムの脚の一つが、にょき、と動きキロルが返事をした。
「あ。ごめんなさい! いま、お話してたから」
「お話……?」
話すもなにも、今ここにいるのは自分たちの他に誰もいない。
パーティーの会議以外に話すことなんてなかったはずだが。
「……キ、キロル? 一応聞くけど、誰とお話してたのかしら?」
「ここのお墓のひとー。いま、ウモナのお尻触ってる」
「ちょっとぉッ!?」
ウモナがビクンと跳ね上がって、クウゴの傍に身を寄せてきた。
クウゴたちには見えないが、どうやら、この古墳で眠る幽霊かなにかが、近くにいるらしい。
「で、でましょっか」
「お、おじゃましました」
ウモナも流石に引きつった笑みを浮かべて、ここからの退散に賛成する。
「でも、この幽霊さん、歓迎してくれてるよ。すごくウモナのこと、気に入ってるみたいだし」
「す、すみませんでした! もう二度と墓荒らしなんてしません!」
ウモナは青ざめながら、自分の傍にいるらしき幽霊にペコペコとお辞儀していた。
「か、歓迎って……、敵意はねえのか?」
「うん。ちょっとエッチなおじいちゃんだけど、ええもん触らしてもらったーって言って喜んでる」
「セクハラじじいかよ……」
こちらには見えないが、結構好き勝手やってくれているようだ。
エリも思わず自分の身をガードするようにしたが、呪い殺してやるみたいな凶悪な亡霊ではないみたいで、一安心ではある。
「おじいちゃん幽霊が、私がなんでスライムなんかに憑りついてるんだって聞いてるんだけど、ちょっとお話してもいい?」
キロルが古墳から出ようとしているのを止めて、亡霊と会話をしたがっていた。
なにかあるのだろうか、敵意がないなら大丈夫かと、クウゴはキロルに頷いて見せた。
すると、クウゴの肩に張り付いている森ヒトデに入るキロルが、なにやら人には聞こえぬテレパシーで亡霊とやり取りを始めた。
程なくすると、キロルはクウゴたちに、興奮した様子で声をかけてきた。
「クーゴ! このお墓の奥に行こう!」
「な、なんだよ。話は終わったのか? どうなったんだ?」
「あのね、おじいちゃんが素敵なものくれるって!」
「えっ……。もしかして、お宝っ……?」
キロルの言葉に、ウモナも耳を大きくて反応した。
「そうだよー! ワナとか、全部解除して、案内してくれるっていうから、ついていこー??」
「でえじょうぶか? その話自体ワナなんじゃ……」
話が上手過ぎたので、クウゴは怪訝な顔になった。
クウゴたちからすると、その老人の亡霊がどんな人物かいまいち掴みにくいし、分かっているのはスケベじじいということだけだ。
「むかしは物凄く偉い賢者さまだったみたいだし、悪い人じゃないよ、たぶん」
キロルはそう言うのだが、いかんせんキロルも八歳の女の子なので、適当に騙されているのかもしれないと考えると信頼は置けないところがある。
「クーゴ、私、おじいちゃんのプレゼント貰いたいのー! 行こうよ、行こうよ!」
「わ、分かったよ。じゃあ、道案内してくれ。オラたちは、その幽霊が全然みえねぇからさ……」
キロルの必死の訴えにはなかなか強く言えないクウゴは、仕方ないと古墳の奥へと進むことにした。
ウモナもお宝を拝めるというのであれば、と、進むことに賛成した。
エリとエマクオンは、少数派になったので、民主主義的に従うことになった。
キロルの声に従って入り組んだダンジョンを進んでいく。
所々にワナがあったが、そこに踏み込む前に、勝手にガチンと音を立てて、ワナの仕掛けが解除されていった。
どうやら本当に、亡霊がワナを外してくれている様子だ。
「た、宝ってなんだろう?」
エリがそっと囁いた。
「ずいぶん、偉い賢者だったって話だし……、凄いマジックアイテムとかかも」
エマクオンも話に乗ってくる。どうやら、ここまで来たら、渋っていた二人も興味のほうが膨らんできたようだ。
結局、みんな冒険者だから、こういった財宝の話なんかは、胸がバチバチする騒いでしまうのだろう。
「そこを右に行った扉のさきにあるって!」
「分かった」
キロルの指示に従って、通路の右を進み、小さな扉を見付けた。
カギはかかっていないようで、ドアノブを押すと、そのまま開いた。
「あっ、宝箱!」
ウモナが黄色い声を上げる。
部屋の中央に、宝箱が鎮座していた。装飾も派手で、金の縁取りの蓋がぴっちりと閉じられている。
なかなかの大きさで中身が期待できそうだ。
「ほ、ほんとに財宝が……」
ごくり、とエリも生唾を飲み込んでいた。
「あ、開けるわよ? 貰っていいのよね?」
ウモナが待ちきれないとばかりに、宝箱に駆け寄ると、軽く調査しながら、聞いてくる。
鍵もかかっていないようだし、ワナもない。
あとは、この蓋をあけるだけ――。
ガチャリ……。
ウモナがキラキラの目をして、その金縁の蓋を開いた――。
「……え?」
そして、そのキラキラの目が一瞬にして点になって、固まった。
クウゴたちもその中身を見て、口をあんぐりと開けて呆けてしまった。
「……な、なにこれ。モンスター?」
その箱の中には、無数のキバと、巨大な舌。そして閉じられている瞼があった。
「ミミックだ」
エマクオンが呆れた顔をして、それを説明した。
ミミック。迷宮などに潜み、宝箱や財宝に化けて、冒険者を襲う魔法生物。要するに、魔物だ。
普通、擬態しているミミックを開くと、その刹那に襲い掛かられ、ミミックの餌食になってしまうのだが、このミミックはどういうわけか、蓋を開いても、まるで反応がない。
「し、死んでるの?」
「ううん、寝てるんだって。このお墓のワナにかかって、永遠の眠りにおちちゃったんだよ」
キロルが楽しそうな口調で教えてくれた。
「ね、寝てる? こ、これ、寝てるのか?」
宝箱に擬態し、この古墳の中で獲物を待つ作戦だったのだろう。
だが、ここで墓に仕掛けられた、強烈な睡眠の罠にかかり、永遠の眠りという呪いを受けてしまったのだそうだ。
「……オタカラは?」
ぐりん、とウモナがキロルに振り向いた。引きつった笑みを浮かべていた。
「オタカラがあるなんて言ってないよ。おじいちゃんが私にプレゼントしてくれるって言っただけだよ?」
「プ、プレゼントって……このミミックが!?」
ウモナが怒声を上げてツッコミを入れる。
てっきり世にも不思議なレアアイテムでも手に入るのかと期待していたから、尚更だろう。
正直なところ、クウゴも汗を垂らして、ジト目でキロルを見ていた。
「私が、森ヒトデにしか憑りつける動物がいなかったからって、おじいちゃんに言ったら、この眠ったまんまのミミックに入ったいいって教えてくれただけだもん。私、悪くないもん」
「……こ、これに憑依するつもりなのか?」
なるほど、キロルの憑依体として丁度いいものを紹介してやると言われたのだろう。
財宝を上げるとは言ってないというわけだ。
「こんな宝箱もどきに憑依するなんて、今と大して変わらないんじゃないの?」
ウモナが大きなため息を露骨について、がっくりとくずおれる。
そして呆れ気味にキロルに言った。
しかし、キロルは「ふふんっ♪」と得意げな様子だった。
「クーゴ、それじゃ私、この森ヒトデから離れて、あっちに入るから、ヒトデを降ろして」
「お、おう」
クウゴは肩にくっついている森ヒトデを剥がし、ミミックの傍に置く。
すると、キロルの零体が抜け出て、すぐにミミックの中に吸い込まれていった。
がぱんっ。
すると、今まで動く事のなかった宝箱の蓋が勝手にパカパカと開け閉めをし始める。
「入れた~」
「……入れたのは良いけど、これじゃヒトデのほうがマシだったんじゃ……」
エリが足もない宝箱姿のキロルを見て、もっとなことを言う。
これでは移動もできないし、サイズが大きくなった分、持ち運びも大変だ。
まさかこれから、この箱を担いで冒険するというのか。それはなんとも荷物がかさばるし、大変だろう。
「ふっふっふっ♪ それはどうかなあ~?」
宝箱の蓋をパカパカさせながらしゃべるキロルは、含みのある笑いをして、一同の視線を集めた。
「ミミックはね、宝箱に化けてるところしか目撃されてないから、誤解されてるけど、本当はちがうんだって」
おそらく、キロル自身の知識ではなく、賢者の亡霊の言葉をうけうりで話しているのだろう。
キロルが憑依した宝箱のミミックが、淡く光を放ちだしていた。
「ミミックの正体は、どんなものにも変化できる『メタモルモンスター』なんだよ」
そういうと、宝箱の形をしていたミミックが光を纏ったまま、ぐねぐねとその身体を変形させていくではないか。
「っ――!」
クウゴもその光景に驚き目が離せなかった。
光の形が粘土細工みたいに、グネグネと蠢きながら、徐々に全く違う形に変わっていく――。
「じゃーんっ」
そして、光が消えると、そこにあったミミックの姿は宝箱ではなく、クウゴになっていたのだ。
「オ、オラが……もう一人……?」
「えへへっ♪ これでクーゴの中に入らなくても、クーゴになれたね」
だが、自分の顔から出たその声は、キロルの声だった。
そう、キロルはミミックに憑依し、どんな姿にも化けることができる力で、クウゴに化けたのだ。
「う、うそ……、すごい」
エリも呆気に取られて、キロルを見ていた。ほとんど寸分たがわずにクウゴと同じ姿をしている。
「自分が見たことがある人や、物だったら、変身できるみたい」
キロルがそう教えてくれながら、今度はクウゴに化けた姿をまた変化させていく。
今度は、エリと同じ姿になっていた。
「え、エリになった……」
「じ、自分がもう一人いるのって、凄く変な気分ね……」
「エマクオンにも、ウモナにも化けられるよ!」
得意げにそういうと、キロルはどんどん身体を変化させて、エマクオンになる。そのまま次はウモナになってポーズを決めた。
「どう、クーゴ! これなら、ずっと憑りついていられるし、一緒に眠れるよ」
キロルは嬉しそうに自慢した。
「た、確かにこれは、ある意味一番最高のプレゼントかもしれねぇ……」
一度見たものなら自由に人や動物、ものにも変化できる力は、ものすごく便利そうだ。
これなら、旅も進めやすくなることだろう。
「おんなじ人間が二人並んでるの見るのは、なんかぞっとするものがあるね」
エマクオンがウモナが二人いるのを見比べて、表情を固めていた。
ウモナ自身も自分と同じ姿を取られたままなのは落ち着かないようだ。
「ちょ、ちょっと、別の姿になってヨ!」
「えー。ウモナの身体好きなのに。大人って感じ!」
ぷよぷよと胸を自分で揉みながら、キロルは無邪気にはしゃいでいた。
その様はなんとも珍妙だ。
同じ顔をした二人が一緒に並んでいたら、ギョッとするだろう。
「キ、キロル。おめえ自身にはなれねぇのか?」
「え……? あ、そうか! うっかりしてた。化けることばっかり考えてたから」
キロルはあはは、と楽しそうに笑うと、ウモナの姿を光に変えて、そのまままたメタモルフォーゼしていく。
やがて、その姿は、亡霊の時にみたキロルそのものになった。
「わあ……」
エリが思わず感嘆の声を漏らしていた。
今キロルは、亡霊の姿ではなく、肉体のある姿になっていた。
どこも身体が透けてないし、肌の白さや瞳の青さ、ブロンドの髪の光沢がハッキリわかる。
絵画で見た姿の数百倍、愛らしい姿だったのだ。
「その姿がいいと思う」
クウゴも、心からそう思った。
このキロルなら、触れることも出来る。抱き締めて重みを感じたり、ぬくもりを感じたりができるのだ。
その本質はミミックというモンスターなのかもしれないが、そんなもの関係ないと言いたくなるほどに、今のキロルは魅力的だった。
キロルは、星を散らしたような眼を輝かせ、クウゴに駆け寄ると、飛びついた。
なるほど、たしかに、これは宝物だ。
そんな風に思った――。




