だんだん、心惹かれていく……
……目覚めと共にクウゴは自分の状況に固まっていた。
気持ちいい柔らかいものに包まれていて、なにやら甘い香りさえしている。
最高の目覚めだと、ゆっくり瞼を開けて、自分の身体にくっついている温かいものたちの正体をしった。
左を見ると、エリが可憐な寝顔をして自分の腕を抱き枕みたいにしている。
右を見れば、ウモナが豊満な胸をクウゴの身体に目一杯押し付けて、首筋に唇をつけていた。
更には、下半身にエマクオンが眠りこけていて、彼女の顔が、執筆するとR-18にしなければならない場所にあった。
「うわああーッ!?」
絶叫して飛び上がると、眠っていた三人も、呻きながら、気だるそうに瞼を開く。
慌ててベッドから這い出て、クウゴは「あうあう」と異世界にきて、一番情けない声を出していた。
「あ……おはよ……」
もぞもぞと身体をよじりながら、エマクオンが挨拶する。まだぼんやり寝ぼけている様子だ。
ウモナも「ウーン」とまだ眠そうにベッドの上で丸まってしまう。
「ん……、クーゴ……。なんでベッドから落ちてるの?」
ぼんやりした顔をしているエリもまだ眠気が抜けきってないのか、ベッドの下で転がっているクウゴを見て、むにゃむにゃ言っている。
「オラ……たしか、キロルに眠らされて……」
恐らくあれから他三人も、キロルに眠らされたのだろう。
かなり強力なスリープをかけられていたようで、なかなか目覚めが気怠い。
キョロキョロと部屋を見まわしたが、昨日のことが夢であったかのように、キロルの姿がない。
窓の外を見れば、すっかり朝日が昇っている。
天気は良さそうだ。
「キロル……朝は出てこれないのか?」
「クーゴ♪」
「っ……? エ、エリ?」
キョロキョロと周囲を見回してキロルを探すクウゴに、突然エリがくっついてきた。
「な、なんだ、どうしたんだ?」
まだ寝ぼけているのか、妙に懐っこいエリは、ニッコリ笑顔でクウゴの腕に抱き着くと、上機嫌に言った。
「早く買い物、行こう♪」
「買い物……? あ、キロルの服とリボンか……」
「早く、ねえ、早くー」
エリは普段と別人みたいに甘えてきて、クウゴに身体をくっつけてくる。
エリのすべすべとした肌は触れると、心地よくてぬくもりがあって、ゴクリと生唾を飲んでしまうほどだ。
彼女の銀色の髪は美しい光沢を纏わせて、しかもいい香りまでさせていた。
「ウモナ、エマクオン! 朝だぞ!」
なかなかぼんやりした状態から目を覚まし切らない二人に声をかけるも、二人はまたムニャムニャ言い出して、ベッドの上に横たわっていった。
完全に二度寝の体勢だった。
「だ、だめだこりゃ……」
「ねえ、クーゴ。早く、町に行くんでしょ?」
「あ、ああ、分かったよ。そ、そんなにくっつくなって!」
甘えたネコみたいにじゃれてくるエリは、ハッキリ言って可愛かった。
見ていると、ドキドキが止まらなくなるので、クウゴは離れるように言うのだが、エリは聞く耳持たず、ずっとくっついたままだ。
(まぁ……キロルの服を選ぶのに、オラのセンスじゃ失敗しそうだし、エリがいると心強いから助かるか……。どっちにしても空を飛んでいくなら、一人を連れて行くのが限界だし……)
色々と考え、どちらにしてもエリと一緒にキロルの服を買いに行くのがベストだと思ったクウゴは、エリにくっつかれたまま立ち上がった。
「おい、二人とも、オラたちキロルの服とリボン買いに行ってくるから、それまで頼むぞ?」
「ふぁあーい……」
ちゃんと聞いているのか不安になる返事をするウモナに、もうスヤスヤであるエマクオン。
さっさと行って手早く戻ってくればいいかと、クウゴは二人をそのままにして、館から出た。
「この辺にある町だと、どこが一番ちけぇかなー?」
「たぶん、北の町が一番近いよ!」
「そ、そうか? じゃ、そこまで飛んでいくぞ。しっかり捕まっとけよ」
「きゃっ! 分かったよ、クーゴ♪」
妙にはしゃいでいるエリは、子供みたいな声を出して、クウゴの首に両腕を回しで抱き着いた。
クウゴはエリの腰を抱くような形で、そのまま上昇していく。
「え……と。北はあっちか」
太陽の位置から判断して、北の方角を見やり、クウゴは空中を飛び始めた。
「すごい! すごいね、クーゴ!」
「お、おい、あんまりはしゃぐなって! あ、当たってるから……」
ぷにぷに、遠慮なしにエリの弾力が肉体に伝わってくる。
雑念を捨てなければ、朝の男の生理現象が元気に反応しかけるので、クウゴは必死になってその感触を忘れようとして、真っ直ぐ飛んだ。
やがて、森を抜けた先に小さめの町があった。
あそこなら、洋服やリボンを買えるだろう。
空を飛んできたことがバレないように、森の中で下降し、そこから町を目指して徒歩で移動した。
エリはその間、きゃっきゃと妙に上機嫌で、道端の草花を見付けて喜んだり、空気を吸い込んでのびやかに身体を動かす。
そんなに嬉しいことでもあったのだろうか。
クウゴはエリの様子に、少し眉をひそめてみていた。
やがて、町に到着した。町の名前は、『リィンベル』と書いてあった。
シントーワみたいに大きな都市ではないが、ここもそれなりに賑わっている様子だ。
冒険者ギルド、宿屋、武具屋に雑貨屋、食料店など、きちんとそろっている。
「へえ、いいとこじゃねえか」
「ねえ、お洋服!」
「分かってるって。オラじゃ決められねえから、エリが決めてくれよ」
エリのセンスなら、この世界の女の子に見合った洋服やリボンを揃えてくれるだろう。
尤も、着るのは幽霊なので、普通の女の子のファッションセンスが合うのかは分からないが。
まだ早い時間ではあったが、どの店も丁度、開店をし始める時期だったらしくタイミングが良かった。
エリが目星をつけたらしい婦人服の店に入ると、早速色々と服を見始めた。
子供用の小さなドレスがいくつも並んでいる。
雑貨も扱っているようで、そこには小物もある。どうやらリボンもここで買えそうだった。
現代日本の女の子の服選びの場合、色んな店を見て回って、購入を決めるかもしれないが、そんなにいくつも店があるような街ではない。
結局、この店にあるもので選ぶのが一番だろう。
やがて、エリは深い青色をしたドレスを選ぶと、クウゴに見せに来た。
「ねえねえ、コレどうかなあ? 可愛いよね!」
「あ、ああ。いいと思う」
と、言ったものの、クウゴはよく分からなかった。なんとなく、キロルがこのドレスを着ている姿を想像してみたものの、センス的なものはさっぱりだ。
そもそも、キロルは基が良い。何を着ても似合うだろうとは思った。
「えへへ。たのしいねえ♪」
そのエリの笑顔にドキンとした。
無邪気な顔をして笑うエリは、愛らしさがはち切れんばかりに溢れていた。
思わず、クウゴも言葉を失うくらいには、眼を奪われた。
「あとはリボン! リボンはね、コレかなぁー!」
そういうと、エリはかなり大きな髪留めリボンを選んだ。
色は水色をしていて、あの魔法陣の中心に落ちていたくたびれたリボンと似ている。
エリは鏡の前に行き、そのリボンを蝶の形にして結わえ、着け心地を確認していた。
エリは十六歳なので、さすがに、その見るからに少女趣味なリボンは、不相応な気もするが、可愛いことに間違いはなかった。
やがて、エリは満足したのか、それを購入することに決めたようだ。
「じゃあ、クーゴ。このドレスと、リボンね」
「分かった。買ってくるよ」
資金は十分余裕があったので、このくらいの買い物は特に気にしない。
これからあの館を隠れ家としても使いたいから、持ち主に当たるキロルには、お近づきの印としてこのくらいのプレゼントは惜しまない。
クウゴは店員にドレスとリボンの購入を伝えると、会計に進み、ドレスとリボンを包んでくれた。
「彼女さんかしら?」
「え、いや、その……そういうわけじゃねえけど……」
と、店員さんが微笑みながら聞いてきて、クウゴはしどろもどろになった。
エリと二人きりでいると、そんな風にみられるものなのだろうか?
確かに、年齢は近い。
クウゴは十七。エリは十六だ。別におかしな話でもないが、なぜかクウゴはドキドキした。
「もし、彼女にプレゼントするときには、うちの指輪なんかどう?」
商売上手な店員さんは、小物売り場のリングを見せた。
別にそういう関係ではないし、そこは誤魔化し断った。日本も異世界も、こういうアパレル店は苦手かもしれないな、とクウゴは緊張した表情をして、退店するのだった。
「わぁい! ありがと、クーゴ!」
ドレスを買って出てきたクウゴに、エリが飛びついてきて、頬にキスをした。
「わっ、えっ、エリッ……!?」
「私、クーゴのこと、好きー!」
「な、ななな、なに言ってんだ、オ、オラは、そ、そ、そんな……」
あまりにも真っ直ぐで無垢なエリの態度に、クウゴは完全に翻弄されていた。
なぜか今朝から様子が変だ。
エリのテンションが普段の何倍も高くなっているように思う。
「エ、エリ? おめえ、なんかいいことでもあったんか?」
「何言ってるの、クーゴ。私、エリじゃないよ」
「……は?」
そういうエリは、姿かたち、どこをとってもエリであった。
「もう! もしかしてずっと分かってなかったの? 私、エリじゃなくて、キロルだよぅ」
「キ、キロル!? エリじゃねえのか!?」
「今、エリお姉ちゃんの身体の中に入ってるだけだよ?」
ぱちくりと瞬きをして、首をかしげるエリ――に憑依しているキロル。
そう言われると、今朝のエリの態度の違いに納得がいった。
「じゃ、じゃあ、エリは今どうしてんだ!?」
「身体の中で寝てるよー。私が離れたら、眼を覚ますよ」
「……幽霊……なんだな、やっぱ……」
改めて、キロルが幽霊だと思い知った。
まさか、人の身体に憑依して身体を乗っ取れるとは思わなかった。
憑依されたエリを心配したが、特に問題はないようで、一安心する。
しかし、中身がキロルだったことで、さっきのエリの言動に『そういう意味』がないと分かってホッとする反面、エリの声と唇で、好きと言われてキスをされたのは間違いない。
それが、妙な気分にさせる。
すっかり顔が熱くなっていた。
「さ、帰ろ! クーゴ♪」
「お、おう」
そうして、またエリの身体で密着してくるキロルは、性に対して知識が疎く、惜しげもなく女体をクウゴに押し付けてくる。
(お、落ち着け。これはエリじゃねえんだ。キロルがくっついてんだから、へ、変な気分になるな……)
とはいえ、エリの胸元はどうしようもなくセクシーにクウゴに当たり、掌で揉みこみたくなるような誘惑をしてくるのだ。
今朝、みんなから抱き着かれていたことも思い出すと、クウゴはこれからの生活が、色々とまずいことになるような気がして来た。
クウゴ以外はみな美少女。唯一の男――それが自分なのだから。
「じゃ、じゃあ森までいったら、飛ぶから……」
「うん。……? なんか顔が引きつってるよ?」
「い、いや、なんでも、ねえよ」
無邪気なキロルの顔をみることもできず、クウゴはガチガチになって、森へと歩いて行った。
やがて、また彼女を抱えて空を飛ぶとき、キロルがもう一度頬にキスをしてきたので、クウゴは一度墜落しかけたのであった――。
館に戻ると、エリの身体からキロルが抜け出て、エリはハッとして、普段のエリに戻った。
エリはキロルに憑りつかれている時のことは全く覚えていない様子だった。
それが救いだったが、クウゴは、エリの顔をそれから暫く真っすぐに見れなかった。




