委員長室に行ってイーグルのエンブレムを取って 地下水道の銀の鍵を入手して戦車の模型の場所を動かした後 図書館の絵を若い順に並べて手術室の扉を開けるんだ
謎の洋館、その三階にある書斎。
そこは沢山の本が詰め込まれた棚がいくつもあった。
クウゴたちはその本棚にどんな本が並んでいるのか調べていた。
随分と妖しい内容のものが多い。
妖しいといっても、男の子がベッドの下に隠しているような薄い本ではなく、妖術に関する書物が多いのだ。
エリが適当な一冊を手に取り、内容を確認すると、それはネクロマンシーの本だった。
要するに、死霊を操る魔法を記した本である。
「死霊術……。死者の魂を呼び出して使役させる魔法の本だわ」
「ビンゴじゃねえか! やっぱりここで、幽霊のヒントがみつかるかもしれねぇぞ」
「この本によると、死霊を呼び出す実験のやり方が書いてるわ。魔法陣を描いて、呼び出したい霊の生前利用していた物を置き、呪文を唱える……」
エリはページをめくり、本の内容を読み聞かせてくれた。
魔法陣を利用した召喚の仕方は、ウモナも興味をもっていた。
それはおそらく、王がドラゴンを故意に呼び出しているという情報に似ていたからかもしれない。
今回はドラゴン召喚ではなく、死霊召喚ではあるが。
「魔法陣なんてあったか?」
「見かけてないわね。この本の通りなら、どこかに死霊術を執り行った跡が残ってるかもしれないけど……」
「そもそも、死霊術は禁断魔法。使用したら捕まっちゃう」
そこでクウゴは考えた。
「死霊術を使うために、こんな館を、森の奥に建てたのかもしれねぇな」
「そうかもネ、禁断魔法を使うために、人がこない場所で……」
だとすると、考え方が変わってくる。館の姿をしているこの建物は、実験施設だったのかもしれない。
まるで怪しい薬品を作って実験していたゾンビゲームみたいに。
「除霊方法とか書いてないのか?」
「……ええと……。魔法陣の破壊で死霊術も効果を終えるみたいね」
「だったら、この館のどこかに隠されている、魔法陣を見付けて、壊せばいいんだ」
この館に住み着いているだろうゴースト退治の方法が分かり、一歩前進したものの、その魔法陣がどこに隠されているのかが分からない。
「一番怪しいのは地下室だワ」
ウモナが人差指を立てて、考えを披露した。
「ボクがやられた場所だから?」
「それもあるけれど……、館の構造として、地下が妙に狭く感じた。セラーくらいしかなかったからネ。それに不自然に伸びてる行き止まりの通路。その奥でエマクオンは倒れてたでしょう」
「地下に魔法陣があるかもしれないわね」
「隠し部屋があるってことか」
クウゴは考えを巡らせていく。何か隠し部屋を出現させる仕掛けがあるに違いない。
「書斎……。もしかすっと……」
クウゴはひとつ思い付きで、棚に並ぶ本の背表紙を確認していった。
「どうしたの、クーゴ?」
「……あ、やっぱり! ここ見てみろよ」
クウゴは棚のひとつを指さし、エリたちに確認するように促した。
なんとそこには不自然に一冊分だけ隙間があいた棚があるではないか。まるでそこに鍵になる本を差し込めと言わんばかりだ。
「ここだけ不自然に空いてるだろ。ここに正解の本を入れたらいいんじゃねえか?」
「正解ってなに?」
「空いてる本の前後はなんて本だ?」
「えっと……。これ、日記だわ。765年と767年の間がないのよ」
いよいよそれっぽくなってきた。
つまり、766年の日記がどこかにあるから、それをここに入れるといいのだろう。
「766年の日記を探してみようか」
一行は書斎の本を手分けして調べて回った。だが、ここには766年の日記はない。
「他の部屋にあるのかも?」
「……あ! そういえば……」
ウモナが思い出したように声をだした。
「二階にあるギャラリーに、絵画が飾られてたワ。あれ、確か絵画を描いた日付が書いてた気がする……その中に766年があったような……」
「それだ!」
パチン、と指を鳴らし、クウゴたちは直ぐに二階のギャラリーへと向かった。
そこにはウモナの言う通り、色々な絵画が飾られている。その絵画の下には看板があり、何年に描かれたものか記載されてあった。
766年の絵画は肖像画だった。描かれているのは、小さな女の子だ。表題に『キロル 八歳』とある。
「キロルちゃん、かな? 可愛い女の子だね」
エリがキロルという名の少女が描かれた肖像画を見て、寂しそうな声を出した。
その絵画に描かれている少女は確かに可憐だったが、不思議と物寂しい印象があった。
物憂げな表情で描かれているためだろうか。プラチナブロンドの美少女は、ブルーの瞳を悲しげにしていた。真っ白な肌はどこか不健康そうにも見える。
「どこかに仕掛けがないかしら」
ウモナがそんな絵画を物色していく。やがて、絵画を壁から取り外してみると、そこにスイッチがあることに気が付いた。
「あった、ホントに仕掛けがある!」
「ワナがあるかもしれない。アタシに任せて」
ウモナは【トラップ】の技能があり、こう言った仕掛けに強い。まさか盗賊技能がこんな形で役立つとは思わなかった。
ウモナは慎重に調べ上げ、スイッチを押し込んでみた。
すると、壁の一部がパコっと外れ、そこに小箱が置いてあった。
取り出し、中身を確認すると、それは楽譜だった。
「楽譜……。もしかして、ピアノのあの部屋か?」
「この曲を弾けってこと?」
「かもしれねぇ」
仕掛けにたらいまわしにされるのが、なんだか疲れたが、謎解きの館とは大抵こういうものだ。
クウゴたちは、大きなピアノが置いてあるダンスホールのような部屋に入って来た。
まるで夜な夜な、ここで大勢の幽霊がダンスでもしているのではないかと想像してしまう、不思議な部屋だった。
「楽譜……読める? アタシ、音楽はさっぱりなの」
「あっ、私ピアノ弾けるわ」
エリが進み出て、楽譜を受け取ると、ピアノに腰かけた。
そう言えば、エリは【歌唱】技能を持っていた。歌が好きだと言っていたが、音楽関係の知識が豊富のようだ。
エリは埃被っているピアノに腰かけ、楽譜を譜面台にセットすると、細い指先でその曲を奏で始めた。
神秘的なその曲調に、音楽のセンスなんてないクウゴでさえ聞きほれた。
物静かな曲ではあるが、不思議と胸が温かくなる。まるで子守唄みたいだと印象を持った。
ガタンッ!
「きゃっ!?」
エリが悲鳴を上げた。ホールの奥にあった戸棚が勝手に開いたのだ。
ウモナが警戒しながら戸棚を調べると、そこには日記があった。766年のものだ。
「あったワ! 766年の日記よ」
ウモナは何気なくその日記を開き、中を確認した。
どうも、この屋敷を買った婦人の日記らしい。
内容は、一人娘であるキロルが亡くなったというものだった。なにやら不治の病で手の施しようがなく、ただただ弱っていく娘に何もできないことの苦しみが書き込まれていた。
「キロルちゃんは八歳で亡くなったのね」
「その亡霊が、この館にいるの?」
「かもしれねぇ。娘の死を受け入れられず、ネクロマンシーを使って、死霊を呼び出した……」
何とも言えない気持ちになったが、クウゴたちはその日記を持って、また書斎に戻った。さっき空きのあった本棚にそれを差し込むと、ガコン、という音が天井から聞こえてきた。
「今度は上か? 屋根裏みてぇだな」
やれやれ、と溜息を吐き出し、クウゴたちは屋根裏に向かう。最初に屋根裏部屋を覗いた時には何もなかったはずなのに、今度はそこに宝箱が置いてあった。
開くと、中身は小さな女の子が着るようなドレスだった。きっとキロルのものだと思った。そして、衣服の下に埋もれて、小さな鍵が落ちていた。
「鍵だぞ? どこの鍵だろう」
ここまでで鍵がかかっているような場所は見付けていなかった。
そこで、今度は館内の鍵穴探しが始まった。
広い館内を調べまわるのに、手分けしたかったが、それでまた襲われたら本末転倒だ。
結局四人は固まって、一部屋一部屋、細かく調べまわっていた。
すると、一階の食堂にあった柱時計の鍵だと言うことが分かった。
完全に動きを停止している柱時計だったが、この鍵はゼンマイになっていて、これを使って時計を動かすことができるみたいだ。
ウモナが鍵を使ってゼンマイを回すと、止まっていた時計の針が動き始めた。
丁度、針が0時を指し、ボーン……と時刻を知らせるチャイムが低く響いた。
「な、なんて手間なの……。この館を作った人、変人すぎるわ……」
エリが流石にうんざりし始めていた。
魔法陣の部屋を隠すために、ここまで面倒な手順を踏ませるなんて、実際に利用していた時、暮らしていて面倒ではなかったのだろうかと考える。
「……今度は何をやらせる気なんだろう」
時計が動き出したところで、何か変化がないかと、エマクオンが周囲を見て回っていた。
……と、食堂にある暖炉の中に、先ほどまでなかったコインが落ちている。
エマクオンが拾い上げると、銅で出来たくすんだコインだと分かった。特に価値はないだろうが、これも仕掛けを解く鍵なのだろう。
「そのコイン……今度は何に使うのよ……」
流石にくたくたになっているエリが、うんざりした顔をしていた。
ふと、窓の外を見れば、外が夕焼けに赤く染まっていた。
完全に暗くなる前に、なんとか厄介事を終えたい。できれば、この館で一夜を過ごしたいし、あわよくばこの屋敷を今後も隠れ家として利用したいからだ。
「まるでゲームセンターで使うメダルみてぇだな……」
「げえむせんたあ?」
クウゴのつぶやきに、エマクオンが可愛らしく小首をかしげた。
「なんだか、クーゴは変なところは妙に詳しいね。……バカじゃないの?」
「バカじゃねえよ、ひでえなぁ……」
エマクオンがまじまじとクウゴを見上げてそんなことを言うので、クウゴは苦笑いを浮かべた。
「ボクはバカなクーゴがいいな」
「はいはい! 早く調査を進めましょう!」
エマクオンがじっとクウゴを見つめてそんなことを言うので、パンパンと手を叩いてエリが間に割り込んだ。
「……でも、ほんとにそのコイン、ゲームセンターのメダル落としに使うような……、ん?」
ふと、クウゴはコインの形状と、ゲームセンターの記憶を思い返し、思い出したことがあった。
まだ身体が健康だった小学生の頃、ショッピングモールのゲームセンターで、メダルゲームで遊んだことがある。
そして、エマクオンが倒れていた通路。クウゴは全裸のエマクオンをまともに見れず、視線を床に向けていた。
その石畳の床に、小さなスリットがあったのだ。
あの時は特に気しなかったが、このコインを投入口に落とし込むゲーム機の光景を想像して、もしやと考えた。
「このコインを、あの隙間に入れるのか?」
予感めいたものを感じ、クウゴはみんなを促して、地下へと赴いた。
そして、セラーを通り過ぎ、不自然に伸びる通路の行き止まりまでくる。先ほどはここでエマクオンが倒れていた。
クウゴはキョロキョロと足元を見まわして、スリットを探す。
「あ、あった。エマクオン、ここにさっきのコインを入れてみてくれ」
「分かった」
エマクオンがコインをその小さな縦割れの穴に差し込むと、なんと大きさがぴったりだった。
そのまま、するりとコインはスリットに吸い込まれ、カチャリと音を立てた。
直後、行き止まりと思っていた通路が、鈍く低い音を立てて、スライドを始めた。
仕掛け扉が動いたのである。
「あっ!!」
その先にあるものをみて、四人は声を上げていた。
そこは広い空洞になっていて、ぼんやりと光を放っていた。
冷気のようなものがクウゴたちに吹きかかってきて、不気味な気配を感じさせる。
その空洞の床には、青白い光を放つ、六芒星の魔法陣が描かれていた。
その六芒星の頂点六ケ所には、魔石が設置されていて、魔法陣の中央に、薄汚れたリボンが落ちている。
「リボン……。でもあれはエマクオンのものじゃない」
エマクオンのリボンは花をあしらったピンクのリボンだが、そこに落ちているものは随分古い水色のリボンだ。
「これが、ネクロマンシーの魔法陣……。これを壊せば、幽霊も消えるはず」
六芒星の頂点にある魔石を壊せばいいのだろう。
「よし……それじゃあ……」
と、クウゴが魔法陣に入ろうとした時だ。
「タチサレ……」
「!?」
不意に暗い地下室に、ぞっとする声が響いた。
小さな少女の声だ。
「出たな」
エマクオンは声のほうを見た。魔法陣の中心に、冷気が集まっていき、そこにゆらゆらと踊る奇妙な影が出現した。
やがてその影は、二階のギャラリーで見た、キロルに姿を変化させていく。
「タチサレ……」
そして、そのキロルの頭に、エマクオンの桃色のリボンが結われていた。




