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7.オッドアイ

 テネ爺は、さらに続けた。

 

「次は目じゃ」

「目にも魔力は現れる。じゃが、目に魔力を持つ者は、この世界でも半分ほどしかおらん」

 

 テネ爺が、リオとメモリアを見る。

 

「お前さんたちは、二人とも持っとるようじゃな」 「そりゃもちろん。だって、お父様の子どもだから」 「ふむ、そりゃそうじゃな」

 

 テネ爺の視線が、僕に向いた。

 

「だが、お前さんは……」

「……僕は?」

 

 テネ爺は、僕の顔をじっと見つめる。

 

「目に、二つの魔力を持っとる」

「二つ……?」

 

 僕は、自分の目に触れた。

 

「そうじゃ」

 

 テネ爺が、僕の左目を見る。

 

「左は緑。ヴェルデじゃ」

 

 そして、右目を見る。

 

「右は黄。ドラートじゃ」

「…………」

「普通、目に現れる魔力は、ひとつじゃ。お前さんは二つ」

 

 テネ爺は、さらに僕の顔を見つめた。

 

「そして、髪にも魔力を持っとる」

「……」

「つまり、お前さんは、三つの魔力を持っておる」 「三つ……」


 僕は、自分の髪と目に、順に触れた。

 

「それは……」

 

 テネ爺が、静かに口を開く。

 

「オッドアイじゃ」

「……オッドアイ」

 

 その言葉は、知っている。

 左右の目の色が違う人間を、そう呼ぶ。

 ……この世界にも、その言葉があるのか。

 地上では、散々言われてきた。

「珍しいね」と。

「天才だ」と。

 目の色が違う。

 それだけで、勝手に期待される。

 僕は、この言葉が嫌いだ。

 

「この世界じゃあ、珍しい。これほどの目は、そうそう見かけん」

「珍しい……この目が……」

「そうじゃ。どこへ行っても、人の目を引くじゃろうな」

 

 胸の奥が、ざわりとした。

 また、同じだ。

 どこへ行っても、見た目だけで、勝手に期待される。

 

「……見た目が、そんなに大事なんですか」

 

 思わず、声が荒くなった。

 テネ爺は、諭すように口を開く。

 

「大事じゃ。この世界は、見た目でわかる。髪や目の色に魔力が現れるのは、ここでは当たり前のことじゃ。それで、人の区別もつける」

「…………」

「じゃから、お前さんがオッドアイであることにも、意味がある」

 

 僕は、黙ってテネ爺を見つめた。

 でも、言葉が止まらなかった。

 

「でも……地上では、目の色が違うだけで、勝手に期待されたんです。天才だ、神童だ、って」

 

 自分でも驚くほど、声が強くなっていた。

 

「目の色が違うだけで、僕の何が分かるんですか」 「るい…………」

 

 メモリアが、小さくつぶやいた。

 テネ爺は、首をかしげる。

 

「地上……? ……あぁ、地上か」

 

 テネ爺の目が、わずかに細くなった。

 

「そうか。お前さんは、そうじゃったのか」

 

 テネ爺は、ゆっくりと続ける。

 

「目の色だけで、お前さんのことが分かるはずもない。現に、わしにも分からんかった。お前さんが、地上から来たことすらな」

「…………」

「じゃが、魔力のことなら話は別じゃ」

 

 テネ爺が、僕の目を見る。

 

「お前さんのことは、これから分かっていくじゃろう」

「これから……」

「三つの魔力を持っておる。それは事実じゃ。……じゃが、それだけで天才というわけでもあるまい」

「魔力が三つあっても、使えなければ意味がない……」

「そうじゃ」

 

 テネ爺が、椅子からゆっくり立ち上がる。

 

「では、あとの二つの魔力も、試してみるかい」

「はい」

「え、もう試すの!?」

「うん」

「るいくん……魔法って、難しいんだよ」

「るいなら、できるよ。リオ姉みたいじゃないから」

「ちょっと!」

「リオ姉さんは、どうやって使えるようになったんですか?」

「えーっと……」

「感覚で覚えたんだと思います」

「メモリア、言わないでよー」

「本当のことです」

 

 そうこうしているうちに、テネ爺が、店の隅から小さな鉢植えを持ってきた。

 

「では、まずヴェルデからじゃ」

「ヴェルデ……はい」

「これに魔力を流してみい」

「鉢植えに?」

「そうじゃ」

 

 僕は、鉢植えに手をかざした。

 体の中を流れる感覚が、今なら少し分かる。

 手のひらが、ほんのり温かくなり、小さく光った。

 

「…………」

 

 すると、土の中から、小さな芽が、ぴょこんと顔を出した。

 

「るいくん、すごすぎるよー」

「初めてにしては、上出来じゃ」

「これが……僕の魔法」

「そうじゃ」

「じゃあ、次は」

 

 僕は、右目に触れた。

 

「ドラートじゃ。ドラートは、その場で放てる魔法じゃ」

「その場で?」

「そうじゃ」

 

 右手を前に出して、体の中の魔力を、右手に集める。

  ……何も起こらない。

 

「うん?」

「もっと、魔力を集めるんじゃ」

「はい……」

 

 意識を集中させる。

 すると――

 パチッ。

 指先で、小さな光がはじけた。

 

「……!」

 

 パチ、パチ、パチ。

 光は、少しずつ大きくなっていく。

 指先が熱い。

 体の奥から、何かが勢いよく流れ出していくのが分かる。

 やがて、バチバチと音を立てて、黄色い光が、店じゅうに広がった。

 

「るいくん、止めて!」

「止め方が、分かりません!」

「魔力を戻すイメージです!」

 

 その瞬間。

 バァン!

 店の中に、まばゆい光が走った。

 

「うわっ!」

「るいくん! 大丈夫!?」

「……大丈夫。多分」

 

 目を開けると、店じゅうに、紫色の糸が張りめぐらされていた。

 壁も、天井も、棚も、すべてが糸に包まれている。

 

「間に合った…………」

 

 メモリアが、肩で息をしている。

 糸の先は、メモリアの指から伸びていた。

 僕は、自分の右手を見た。

 何もない。

 

「びっくりしたぁ……」

「すみません、止め方が分からなくて……」

「力を抜くんじゃ。魔力を出すだけでなく、戻すことも意識するんじゃ」

「初めてなら、仕方ないな。それに、メモリアのおかげで、この店もお前さんも無事じゃ」

「ありがとうございます、メモリアさん」

「だって、こんなことで怪我させたら、姉様になんて言われるか分かんないし」

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