↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
6/10

6.魔道具屋

 メモリアが、身支度を終えてリオの部屋にやってきた。

 

「リオ姉ー、いるー?」

「はーい、いるよー」

 

 リオが扉を開ける。

 

「それで、どうするの? 外に出るって言っても、正面から出たら、さすがにバレると思うんだけど」

「そりゃ、これよ」

 

 リオは、自信満々に箒を取り出した。

 

「箒?」

「そう。これに、こうやって魔力を込めると」

 

 箒が光る。

 ふわり、と床から浮き上がった。

 

「これで、この屋敷から出入りできるんだよ」

「リオ姉……。こんな村でも、空を飛ぶには許可証が必要なんだからね」

「許可証?」

「ボナリア王立飛行管理局が発行してる、飛行の許可証。国の機関だよ」

 

 ボナリア王立飛行管理局。

 ……国の、機関? 南極の地下に村がある、というだけでも信じられないのに。

 国まであるのか。

 

「ボナリア……国?」

「そう。ここは、ボナリア国のハナブ村」

 

 リオはそう言いながら、壁の地図を指さした。

 南極大陸によく似た形をしている。

 

「ボナリア国には、五つの都市と、六十を超える町や村があるの」

 

 六十。 そんな数の町が、この地下にあるのか。

 地震計にも、地磁気のデータにも、衛星にも、一度も映ったことはない。

 ……この世界のことを、もっと知らなきゃいけない。

 

「それより、リオ姉。結局どうするの?」

「もちろん、これでいくよ。許可証なくても、大丈夫だって」

「るいくんも、メモリアも、乗って!」

「もう、捕まっても知らないんだからね!」

 

 リオに急かされて、僕とメモリアは、箒にまたがった。

 箒が、ふわりと宙に浮く。

 

「うわはは、ほら、飛んでるよ」

「それで、どこに行くつもりなの?」

「うーん、テネ爺の魔道具屋」

「魔道具屋!? 勝手に魔法を使わせていいの?」

「いいんじゃない? 魔法が使えるのは、もう見たじゃん」

「うぅーん、そうだけど……」

 

 空から見下ろすと、ハナブ村の全体が、少しだけ見えた。

 部屋の窓から見ていたときとは、まるで違う。

 いくつもの建物が整然と並び、そのあいだを、人々が行き交っている。

 屋根の上には煙突がいくつも立っていて、白い煙が、ゆっくりと立ちのぼっていた。

 

「あそこは、何ですか?」

「あそこはパン屋だよ」

「パン屋……」


 朝に食べた、あの淡い色のパンを思い出す。

 

「じゃあ、あっちは?」

「あれは学校」

「学校もあるんですか?」

「あるよ。こんな村だから、そんなに大きくないけど」


 さらに視線を動かす。

 道を歩く人。

 店の前で話している人。

 荷物を運ぶ人。

 そして、箒に乗って、空を飛んで移動している人。

 

「……みんな、飛んでますけど」

「うん」

「許可証は?」

「ちゃんと持ってるんじゃない?」

「リオ姉さんは?」

「私は持ってない!」

「堂々と言わないでくださいよ!」

 

 メモリアが、頭を抱えた。

 

「何が『大丈夫』なの……」

「あはは、大丈夫だって!」


 リオは笑いながら、箒を操る。

 その様子を見ながら、僕は、もう一度村を見下ろした。

 魔法を使っている人。

 建物のあいだを走る子どもたち。

 魔法さえなければ、どこか海外の街に来たような雰囲気だ。

 

「見えてきたよ」

 

 リオが、前方を指さす。

 そこには、周りの建物より少し低くて、古そうな店があった。

 看板には、見たことのない文字と、大きな箒の絵が描かれている。

 

「ここが、テネ爺の魔道具屋」

「魔道具屋……」

 

 箒が、ゆっくりと降下していく。

 店の前には、奇妙なオブジェや道具が並んでいた。

 そのとき、店の奥から、低くしゃがれた声が聞こえた。

 

「……おや?」

「テネ爺! 来たよー」

「リオか。久しぶりじゃの」

 

 店の奥から、白い髭を生やした老人が姿を現した。

 老人は、僕を見ると、ぴたりと動きを止めた。

 

「…………」

 

 しばらく、僕の顔をじっと見つめている。

 

「……その子は?」

「るいくん」

「るい……」

 

 まだ、僕を見ている。

 

「綺麗な目をしておる」

 

 そう言って、老人は、店の中へ入っていった。

 何か、見透かされたような気がした。

 何を見透かされたのかは、分からない。

 少しだけ、背筋が震えた。

 

「じゃあ、入ろっか」


 店の中には、壁にも棚にも、たくさんの道具が並んでいた。

 どれも、何に使うのか想像もつかない形をしている。

 

「……すごい」


 思わず、声が漏れた。


「すごいでしょ」

「なんで、リオ姉が得意げなの」

「だって、おすすめの店に連れてきて、こんな反応されたら、嬉しくなっちゃうじゃん」

 

 しばらく、店の中を見て回る。

 

「気になるものはあったかい?」

 

 テネ爺が、店の奥から声をかけてきた。

 

「えっと……これは?」

 

 僕は、棚の上のほうに浮いている、布の切れ端を指さした。

 手のひらほどの大きさで、店の中になければ、ごみと間違えそうなものだった。

 

「それか」

 

 テネ爺が近づいてきて、浮いている布を引き寄せる。

 

「どんな魔道具なんですか?」

「これに、魔力を入れてみなさい。さすれば、何か分かる」

 

 さっき、布を透明にしたときと同じように、イメージしてみた。

 すると、布が光りだして、どんどん大きくなっていく。

 僕の全身を覆うように、布が広がっていった。

 まるで、変身ヒーローみたいだ。

 

「さすがじゃ」

「あの、これは……」

「自動衣服作成端布じゃ。君のようなプラタタイプの者にしか使えん魔道具でな。初級じゃがな」

「プラタタイプ……アスールタイプ……」

 

 頭が、追いつかない。

 プラタタイプ。

 アスールタイプ。

 さっきから、聞き慣れない言葉ばかりだ。

 

「なんじゃ、魔法は初めてかい?」

 

 テネ爺が、不思議そうに僕を見る。

 

「えーとね、テネ爺。この子、魔法に触れる機会がなかったっていうか、知らなかったっていうか……」

「ほう、そうか」

 

 メモリアが、じろりとリオを見た。

 

「……リオ姉。もう教えたの? アスールのこと」

「ちょ、ちょっとだけ!」

「そうかい」

 

 テネ爺が、小さく笑った。

 

「なら、魔道具の前に、まず魔法について知っておく必要があるな。わしから、簡単に説明しよう」

 

 テネ爺は、店の椅子に、ゆっくりと腰を下ろした。

 

「魔法とは、体の中にある魔力を使って、世界に干渉する力じゃ」

「世界に……干渉?」

「そうじゃ。火を起こしたり、水を動かしたり、物を浮かせたりな」

 

 テネ爺が指を軽く振ると、机の上の小さな石が、ふわりと浮いた。

 

「この村じゃ、魔法は特別なものではない。生活の一部じゃ」

「誰でも、魔法を使えるんですか?」

「そうじゃ」

「じゃあ、プラタタイプっていうのは?」

「魔法の種類のことじゃ」

 

 テネ爺は、僕の髪を見た。

 

「人の魔法は、基本的に二か所に現れる。髪の色と、目じゃ。……まずは、髪から話そう」

「髪の色?」

「まあ、例外もおるがな。基本はそうじゃ。例えば、リオなら」

「私は、アスールタイプ!」

 

 リオが、話に割り込んでくる。

 

「アスールは、水に関わる魔法を使えるタイプじゃ。リオの髪が青いのは、その表れじゃよ」


 メモリアが、続けた。

 

「私は、モラード」

 

 メモリアが、指先を軽く振る。

 すると、紫色の細い糸が、すっと伸びて、僕の指に、くるりと一周巻きついた。

 

「これが魔力糸。私は、これを操れるの」

 

 糸は、触れた感触がほとんどないほど、細くて、軽かった。

 

「じゃあ、プラタっていうのは……」

「無機質じゃ」

 

 テネ爺が答える。

 

「石、金属、布。命を持たぬものに、働きかける力じゃ。この世界には、無機質なものがあふれておる」

 

 テネ爺は、僕の銀色の髪を、まっすぐに見た。

 

「そのなかで、銀の髪を持つお前さんは」

 

 一呼吸、置く。

 

「……逸材じゃ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。