ep.7「補給施設いう名の迷宮」
外に出ると、夜の空気がわずかに冷たかった。
だが街は相変わらず明るい。
夜なのに光も絶えていない。
「ここからすぐよ」
蓮也が歩き出すと、隣に並んで周囲を観察しながら進む。
光の配置、建物の構造、人の流れーーどれも無秩序に見えて、どこか整っている。
ほどなくして、一つの建物の前で足が止まった。
「……ほう」
小さい。
だが、内部の光は強い。外からでも分かるほどに明るい。
「これがコンビニ」
「補給施設、か」
扉の前に立つと、自動で開いた。
「……」
一瞬だけ動きを止める。
「どうしたの?」
「いや」
そのまま中へ入る。
光が明るくて視界が一気に開ける。
棚が整然と並び、様々な物が規則的に配置されている。
「……へぇ、整っているな」
思わず呟く。
用途ごとに分かれているのが分かる。飲料、食料、雑貨。無駄がない。
「いらっしゃいませー」
棚に近付いて透明な容器に入った液体を手に取る。
「これは?」
「水」
「……百八円のやつか」
「そう」
軽い。だが価値はそれ以上らしい。理解はできるが、感覚はまだ伴わない。
別の棚へ移ると、色のついた液体が並んでいる。
「これは?」
「ジュース」
「……妙だな」
「またそれ?」
「保存状態が良すぎる」
「ここではこれが普通なのよ」
さらに進むと箱状の容器が並んでいる。
「これは」
「弁当。食事」
「……保存されているのか」
「されてるわ」
「腐敗は?」
「ここに並んでるものは問題ないわよ」
「……」
理解は出来るが納得はしていない。
奥へ進むと、機械の前に人が立っていた。
「これは?」
「レジ。ここでお金払うの」
「精算装置か」
「そう」
水を持って並ぶ。順番が来る。
「いらっしゃいませ」
水を置く。
「一点でよろしいですか?」
意味を一瞬測りかねる。
「……何を確認している」
「それ一個でいいかってこと」
蓮也が小声で補足する。
「……なるほど」
「はい」
頷く。
「百八円です」
財布を開いて中身を確認する。
(どれだ)
紙と金属。違いは分かるが、価値の感覚が曖昧だ。
「……これか」
一枚取り出す。一万円札だった。
「いや大きいのよ!」
蓮也が慌てて止める。
「……何が違う」
「それ一万円」
「……十倍か」
「百倍」
「……」
一瞬、思考が止まる。
(分かりにくいな)
「これ」
蓮也が百円玉と五円玉、そして一円玉三枚を差し出す。
「これでいい」
「……了解した」
それを渡すと店員に受け取られ、水を返される。
「ありがとうございましたー」
取引が終わる。
「……簡単だな」
「慣れればね」
外に出て手元の水を見る。軽い。
だが、価値がある。
「……妙だな」
「またそれ?」
「価値と物が一致していない」
「だから“約束”って言ったでしょ」
「理解はしているんだが」
けれど、その理解も完全ではない。
歩きながら、再び店内を振り返る。
(あの配置、あの構造……)
効率は高い。無駄がない。
「……面白いな」
小さく呟く。
「でしょ?」
蓮也が笑う。
未知は多い。理解には時間がかかる。
それでも、この世界は。
「悪くない」
結局そう結論付けた。




