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異世界から勇者をスカウトしに来た宮廷魔導師、現代が快適すぎて任務を忘れかけています。  作者: ココアバナナ
第1章【交わるはずのなかった者たち】

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ep.8「夜に潜むもの」


 コンビニからの帰り道。


 夜の街は、相変わらず光に満ちていた。


 昼間とは違う“濃さ”がある。


 人の数は減っているはずなのに、気配はむしろ増しているように感じた。


「……妙だな」


 小さく呟く。


「またそれ?」


 隣で蓮也が笑う。


「便利な言葉ね」


 視線を巡らせる。


 建物の隙間。


 路地の奥。


 明かりの届かない場所。


(気配がある)


 表には出てこない。


(隠しているのか)


 あるいは。


(見せていないだけか)


「どうしたの?」


「いや」


 思考を切る。


「この街、表と裏の差が激しい」


「あら、よく分かるわね」


 蓮也がわずかに目を細めた。


「普通は気づかないのよ?」


「気配が違う」


 それだけだ。


 蓮也は少しだけ考え、そして肩をすくめた。


「まあね」


 軽い調子で言う。


「そういう場所なのよ、この辺りは」


 その言葉の意味は、深くは語られない。


 だがーー


(隠す気はないらしい)


 そのまま歩く。


 しばらくして、蓮也がふと口を開いた。


「ねぇ」


「何だ」


「さっきの話だけど」


「どれだ」


「勇者」


 一瞬、沈黙が落ちる。


「本気で探してるの?」


「任務だからな」


 淡々と答える。


「面倒だが、やるしかない」


「ふぅん」


 軽く相槌を打つ。


 だが、その視線はどこか遠い。


「……興味があるのか」


「まあね」


 曖昧な返事。


「“力を持つ者”って言ってたでしょ?」


「ああ」


「そういうの、嫌いじゃないのよ」


 口元がわずかに歪む。


 笑っているようで、そうではない。


(……なるほど)


 違和感の正体が、少しだけ見えた。


 そのまま、マンションへ戻る。


 扉を開ける。


 中は静かだ。


 けれど人の気配がある。


「……戻ったか」


 低い声。


 リビングに、嶺二がいた。


「まだいたのか」


 こちらを見るその視線は、変わらず鋭い。


「……どうだった」


「何がだ」


「この街だ」


 少しだけ考える。


「妙だな」


「はっ」


 小さく笑う。


「だろうな」


 沈黙。


 だが、不自然ではない。


 その時だった。


 蓮也のスマホが鳴る。


 短い音。


「……あー、はいはい」


 画面を見て、少しだけ表情が変わる。


「どうした」


「仕事、というか仕入れがあるんだったわ」


 短く答える。


「着替えてくるわね」


「分かった」


 そのまま離れる。


 残された空間。


 嶺二と、俺。


「……」


 沈黙が落ちる。


「お前」


 先に口を開いたのは嶺二だった。


「何を見た」


 唐突な問い。


「何の話だ」


「外だ」


 視線が鋭くなる。


「気付いただろ」


 ーーやはりか。


「気配があったな」


 あえて簡潔に答える。


「表に出ていない何か」


「……ああ」


 短く頷く。


「この街はな」


 ゆっくりと言葉を選ぶ。


「綺麗なもんだけじゃねぇ」


 それだけだった。


 説明はない。


 それでも十分だ。


「お前はどうなんだ」


 逆に問う。


「その“裏”の側か」


 一瞬。


 空気が変わる。


「……どう見える」


 問い返される。


 視線を合わせる。


(隠していない)


 だが。


(語る気もない)


「……どちらでもある、か」


「……まあ、そんなとこだ」


 わずかに口元が動いた。


 その時、蓮也が戻ってきた。


 空気が、元に戻る。


「二人とも何その空気」


 くすりと笑う。


「別に」


 短く返す。


「何もない」


 嶺二も同じだった。


(“何もない”わけではないな)


 確信する。


 この二人。


 ただの人間ではない。


 そして、この街も。


 見えているものだけではない。


「……やはり面白い」


 小さく呟く。


 まだ知らないことが多すぎる。


 だからこそ、調べる価値がある。


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