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異世界から勇者をスカウトしに来た宮廷魔導師、現代が快適すぎて任務を忘れかけています。  作者: ココアバナナ
最終章【繋がりの先】

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最終話「隙間を埋める時」

 

 ーークリスタリア王国。


 魔導師棟。


「おかえり、兄さん」


 目の前に歩み寄って来たアイリーンが顔を上げる。


「ああ、ただいま。アイリーン」


 懐かしい見慣れた空間。


 石造りの壁。


 魔力が満ちた空間。


(久しぶりだな)


「随分と楽しんでたみたいじゃない」


「そうか?」


「手紙には快適だって書いてあったわよ?」


「それは事実だ」


「……そう」


 呆れたようにため息をつかれた。


「で?状況はどうなんだ」


 それからしばらく、報告と確認。


 トールの状態。


 ミレイユやルシアン、子供たちの反応や騎士団の動き。


 全てはまだ進行中だった。


「今のところ、まだ様子見の段階よ。けど……間違いないでしょうね」


「油断は出来ないな」


「ええ」


 アイリーンが視線を落とした。


 任務の内容が変わっただけで、この事案はまだ終わっていない。


 それでもーー


 日常は戻ってくる。


 書類。


 報告。


 研究。


 魔導師としての仕事。


 やる事は山積みだ。


「取り敢えず、今日は休んだら?」


「いいのか?」


「帰って来てそんなすぐ働かせるほど鬼じゃないわよ」


「そうか」


 ◇


 久しぶりの自室。


「……」


 ベッドに身を投げ出す。


(静かだな)


 あの世界とは違う静けさ。


 遠くから聞こえていた車の音も、ここにはない。


 利便性に長けたものもなければ、娯楽も異なる。


 だが、それが普通だったはずだ。


(……)


 瞼が重くなる。


 意識が遠のく。


 ◇


「……寝てた、か」


 風呂にでも入ろう。


 ベッドから出て扉を開ける。


「蓮也、今日は牛丼屋にでもーー」


「何言ってるのよ、兄さん」


「……あ」


 顔を上げると、そこに居るのはアイリーンだ。


「……何でもない」


(帰って来たんだったな……)


 思わず苦笑する。


 胸の奥にぽっかりと空いたものを感じる。


(妙だな)


 この世界が俺の“帰る場所”で“居場所”のはずだ。


 それなのに。


 言葉に出来ない違和感。


 静けさがやけに重い。


 ◇


 ーー数日後。


 以前と同じ空間。


 同じ仕事。


 警戒体制の中でも俺のやる事は大して変わらない。


 トールの件はアイリーンに一任してある。


 もちろん、すぐに動ける準備は怠らないが。


(違和感が……消えない)


 確実に、胸の奥で味わったことのない感情か渦巻いている。


 そんなある日ーー


 机に向かってペンを動かす。


 持ち慣れてるはずなのに妙に描きにくく感じる。


 目の前の羊皮紙には魔法陣の構築図。


 理論、式。構成。


「転移には膨大な魔力が必須」


「宮廷魔導師過半数の詠唱が大前提」


「だがーー」


 思考を巡らせる。


「限定的な“道”ならどうだ」


 座標を固定し、魔石を鍵にする。


 指先が自然と動く。


 式を組み替えて、魔法陣を再構築する。


(きっと、出来る)


「繋げればいい」


 嘆くよりも、まずは行動だ。


 ◇


 ーーあれから一年。


 仕事の傍らトールの状態をアイリーンに聞く日々。


 それ以外の時間は自室に篭る。


 試行錯誤と失敗、繰り返し再構築する。


 そしてーー


「……よし」


 場所を定め、意識を集中する。


 左手人差し指には魔石が埋め込まれた指輪。


 魔力を展開する。


 空間が揺れ、魔法陣が光を放ち始める。


 目の前に扉が現れた。


「……今度こそ」


 手を伸ばし、そっと扉を開ける。


 ーー現代日本。


 BAR《月影》閉店後。


「……は〜ぁ〜今日も疲れたわねぇ」


「……だな」


「そう言えばさ」


「なんだ」


「アイツ、どうしてるかしらね」


「さぁな、どうせのらりくらりやってんだろ」


「想像つくわぁ」


 少しの沈黙。


 その時ーーバックヤードに繋がる扉がゆっくりと開いた。


「え……」


「誰か居るのか?」


「誰も居ないわよ……」


 そして姿を現したのはーー


「お?成功だ!」


 見慣れた男。


「なんでここに居んのよ!?」


 蓮也の変わらない叫び。


「……お前」


 嶺二が左手に持っていた煙草を落としそうになる。


「何をしやがった」


「何、あっちとこっちを繋いだだけだ」


「はぁ!?どうやって!?」


「かくかくしかじか」


「それ伝わんないのよ!」


「まぁ……この魔石を鍵にして、こう……パッ!シュッ!みたいな感じだ」


「は?」


 蓮也は頭を抱えて、嶺二は喉を鳴らして笑っている。


 見慣れた空間に見慣れた二人。


 俺のもう一つの“居場所”。


「やはりこっちの方が騒がしいな」


「煩いわね!?勝手に繋げといて文句言わないでよ!」


「文句じゃない」


「要するに、ただいまって言いてぇんだろ」


 思わず笑みが零れる。


「これで、いつでも来られる」


「来なくていいわよ!」


「嶺二、これがこの世界で有名なツンデレか?」


「それもう廃れた言葉だぞ、やめとけ」


「聞こえてるわよ!?」


「おーおー、途端に元気だな?蓮也」


「だまらっしゃい!」


 問題はまだ解決してはいない。


 それでも、アイリーン達に任せる他ない。


 目の前には俺が鍛えた二人。


 いざとなったらどうとでもなる。


 だがーー誰もそんな結末は望まない。


 ただ今は、この再会を楽しみ満喫したい。


「蓮也、スマホ貸せ」


「は?」


「嶺二、俺のハイスコアは抜いてないだろうな?」


「あんなもん、とっくに抜いたぜ?」


「あんた!ゲームしに来たの!?」


「バカを言うな。会いに来たんだ」


「挨拶もそこそこにアプリ開きながら言っても説得力ないのよ!」


 この騒がしさが心地良い。


 この世界が俺のもう一つの世界だと、心からそう思った。



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